第6話 ナカナカとキャワキャワ


「キャワキャワ姉さん、大変だあ! 俺の『トロトロパンチ』に当たる程に遅い奴が出たんだあ!」

 ナカナカは猛ダッシュで、魔王軍の支部の部屋へと入ってきた。

 そこには、怪獣の着ぐるみを着こんだ、可愛らしい恰好の女子がいた。

 ズン・キホーテでも買えそうな子供用の怪獣の着ぐるみ、その中にはロングヘヤーを着ぐるみの中に押し込んだままでいる美少女がいる。

「なによ、午後三時のコーヒーの時間に」

 ちゅうちゅうと、旨そうに紙パックのコーヒー牛乳を飲んでいるのがキャワキャワ。

「あんた、そんなに慌てて靴が抜けるわよ」

 キャワキャワはナカナカの足元にかがんで、靴紐を結び直してやった。

「ほら、いっつもアンタは靴紐が微妙に解けそうなんだから」

「んなことより、キャワキャワ姉さん! そんな愛らしい着ぐるみを着ている場合じゃないぜっ! 俺より弱いヤツがいたんだあ! それも、とんでもなくあり得ないくらいに弱い・・・! あれじゃ、風が吹くだけで倒れちまう!」

 キャワキャワは、冷静な笑みを浮かべ、

「あんたは、なんでも大袈裟なのよ」

と言うが、

「あんなに弱いんじゃ、魔王イイコイイコ様だって危ういぜえ!?」

 すると、のほほんとして佇んでいた着ぐるみのキャワキャワだが、鋭く目を光らせていた。

「なんですって!? まさか、我らの魔王様が勝つというの!? 魔王イイコイイコさまは、途方もない弱さ・・・! イイコイイコ様がすぐにコケたり負けたりするので、我ら『最弱六公』はイイコイイコ様をお守りするためにあるのよ! その魔王様が勝つ程の弱さ・・・?」

「あ、あれは“臆者だ・・・! そうに違いねえ!」

 ナカナカの言葉に眉をひそめるキャワキャワ。

「言葉は選びなさいナカナカ・・・! “臆者”だなんて、そんな迷信を信じているの・・・?」

「俺の『トロトロパンチ』をまともに食らうヤツなんて、他にいねえ! あんな弱いヤツは見たことねえんだ!」

 キャワキャワは、ちゅうちゅうと美味しそうに飲んでいた紙パックのコーヒー牛乳を、一気に搾り取るように飲み干した。

 カーン、とゴミ箱に紙パックが当たる音が響いた。

 毅然として立ち上がり、

「いいでしょう・・・! そこまでいうボンとやら、私が観察し、魔王様にとって危険だと思った瞬間、容赦なく負けてあげましょう!」

 キャワキャワはそう言った。

「ボンよ、魔王様に万が一危害を加えようというなら、私の“秘儀”をお見せしましょう!

それまでは、たっぷりと首を洗って、湯船に浸かって待っておきなさい! 何故なら首を洗うだけだと、風邪を引くからね!」

 燃えるようで萌えるような瞳で、虚空を睨む。

「流石は姉さん! 脅すようでいながらも、親切さが溢れ出ているぜっ! これであのボンもイチコロだあっ! けど・・・奴は“みんなで臆者を決める学園”に入学するそうだぜ・・・? そこには、臆者を守るための《虚弱七柱》と言われる、最弱の勇者たちがいるって聞くぜ・・・?」

 キャワキャワは、素早く懐から紙パックのコーヒーを取り出した。

「そんな学園があるなら、そうね・・・こういう作戦ならどうかしら?」

 キャワキャワは恐るべき作戦を伝えた。

「姉さん、悪魔的な頭脳だぜ・・・! これなら、学園に侵入するのはワケもねえ!」

 ナカナカは改めて姉の恐るべき頭脳に恐れ入っていた。

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