第4話 ドンガメ国王の炭鉱王宮
「お父様! 国王陛下! 私の友人のボンさんです」
ボンは『地下三階王宮・毒炭鉱所』と名付けられた部屋に来ていた。
もうもうと、緑色の粉塵が舞う中で、一人の男が裸になって頭に冠をつけて、大きなハンマーで一心不乱に岩を削っている。
かなりの巨体で、布だけを体に巻き付けて、ハンマーを振るって鉄鉱石を掘っているようだ。
「なんの用じゃ? おお、ククレアか」
炭鉱夫のような男は言った。
「こちらで働いているのですか・・・」
ボンは少し気兼ねしながら言った。
どう見ても、裕福な家庭には見えない。
「わしは、この国の国王、ドンガメじゃ! 娘の友人かね?」
ボンは、
「え? まさかククレアさんは、この国の国王の・・・?」
「ハイ、娘です!」
「えええ!? じゃあ、とんでもなく偉いんですね」
異世界の片思いの人は、僕では到底釣り合わない身分なのか。
「といっても、私は生まれつきの天才S級神官・・・こんな才能では到底、王宮で炭鉱掘りはできないので、教会を開かせてもらってます」
ククレアは天真爛漫で、まるで身分など気にしていないようだけど、やっぱりこういう異世界じゃ、身分はかなり重要なのでは・・・?
「いや、わしは気にせんのだが、周囲の貴族や王族にイジメられんかと心配での。特に妻が少しな・・・いや、よく来なすったな、客人よ。あんたも軽く労働していくかね? 1時間労働ごとに、100円の給与。しかし、控除、福祉もろもろをさっぴくと毎回五万円の借金じゃがな」
「いえ・・・もう借金は二度とごめんです・・・」
お金がないことや、借金取りに追われることは本当に苦しいのだ。
「お父様! ボンさんは、もうすでに借金が一千万円もある程に優秀なんですよ!」
ドンガメはぴくりと眉を動かし、
「な、なんと・・・!? こりゃどこぞの“王都奴隷圏”の下衆エリートさんじゃったか・・・?
いや、わしなんぞ“国王”と偉そうに言っても、所詮は人口二億人のしがない王国じゃ」
「人口二億人のしがない王国・・・?」
「しかし、あんたは恐らく“王都奴隷圏”から来たエリートじゃな。一回もチョコレートを見たことがない子供が働いてるカカオ農園とか、『いただきます、は家で済ませてから来い』とか言ってくるマナー教室とか、そういう所で管理職をやっていたか・・・『死亡してもクレームはつけない』という誓約書を書かされるお笑い養成所とかな。それとも、単純に物乞いをやったか・・・?」
「いえ、そこまでの感じではないのですが・・・・」
「はたまた、“ブラック御四家”の企業かな?」
「御四家? 御三家じゃないんですか?」
「ブラック御四家、ヨワイジャン家、ザーコ家、シャチーク家、そしてゼツボウ家・・・そうした駄目エリート家もあるからのう」
「いえ、僕はブラック企業の最大手『ダークブラック暗黒社』で・・・」
ダークブラック暗黒社は、テレビCMをよく打っている商社だが、基本的に“アワビの密漁”や“レバ刺しをこっそり出す店”、そして“パチンコ屋の景品をネットでそのまま転売する”などの事業を行っている。
「な・・・? あの、株式や日経平均を騒然とさせている『ダークブラック暗黒社』!? あの時給八円で一日三十時間労働の!?」
ガラーン、とドンガメ国王はツルハシを落としてしまった。
「僕はそこで“自動販売機に落ちてる小銭を拾う、という仕事でしたが、何故か経費で毎月三十万ずつ引かれていき、気が付けば借金地獄でした・・・僕はできれば、この異世界で暮らしていきたいんですが・・・」
ドンガメは、
「なんという怪物・・・! そこまでのエリートか! こりゃ、失礼した! ボンさんにとっては、人口が二億人で、限界集落も近づいているわしの国なんぞ、ちっぽけなモンじゃろう」
「人口が二億人で限界集落・・・?」
「お父様、ボンさんはあのナカナカに負けた程の弱さなのよ! きっと・・・ボンさんはあの伝説の“臆者”よ!!」
「なんと! あの、ナカナカを!?」
「ええ、お恥ずかしい・・・」
折角、ククレアを助けるために勇気を振り絞ったというのに、あのザマである。
「私はナカナカにスカートをめくられそうになり、思わず瞬殺してしまいそうになりました・・・」
「ナニい!? お前のスカートを? お前はまだ、パンツにクマのアップリケをつけているのに・・・! 許せん!」
ワナワナと怒りに震えている。
「しかし、このボンさんは奴のパンチで秒殺失神KO! こんなに弱い人、臆者に決まっています!」
「ううむ、この人があの“臆者”だというのか? 風が吹いただけで、おびえて逃げ出し、世界をどん底に突き落としてくれるという・・・?」
ドンガメは驚愕に目を見開いている。
「いや、すいません・・・僕は臆病なもので・・・ナカナカにも勝とうとしたはずが、一発で負けてしまい、ほんとうに弱くて・・・」
ボンは自嘲気味に言ったが、
「なんという駄目自信!! いや、今日日、自分のことを『臆病』『弱い』とそこまで断言できる男も珍しい・・・! これは、本当にひょっとすると・・・?」
「ボンさんの弱さなら、間違いはありません! 私も、ボンさんとなら世界を滅ぼせると思って、ここに連れてきたんです!」
しかし、階段から声が聞こえてきた。
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