29ページ,思い出す

 どうやら、この世界は私が元居た世界の100分の1のペースで時間が進んでいるらしい。

 だから、こっちの世界で100年過ごしても、私が居た世界では1年しか時が進んでいないらしい。


 その理由は、この世界は試練の為の世界だから。元々、この世界では転移者が、なにかと多いらしい。といっても実は、『世界の扉』が常に開いている状態だからなのだと。


 普段、ごく普通の世界だと『世界の扉』というのは閉まっていて、たまに開くときに奇跡的に転移者がぽっと入ってくるらしい。もっとも、人工的な<法>によって『世界の扉』を無理矢理開かせることはできるらしいけど。


 それが、この世界だと『世界の扉』が常に開いていて、転移者が訪れやすいのなだとか。

 だから、逆にこの世界から出させることも容易らしい。


 ───これが、私がこの世界に来て、3日間の情報。


「そういえば、ケルの家臣?の人が言ってたんだけど、この世界は乙女淑女が貴方を争って戦争してるってホント?もし、本当なら、私は貴方に説教をしなくちゃいけないんだけど……」


 稽古中、私は慣れた足さばきでケルの覇気の猛撃を避けながら喋っていた。


 ここで私が反撃───避けられた。そして逆にこちらが反撃を喰らい、武器を宙に放り投げられてしまった。


 ズサッ。そんな音を立てて剣の刃先が地面に飲み込まれたと同時にケルは私の質問に答える。


「別に、最初は、みんなマジの『簡易小規模核魔法』を使おうとしていたんだけど、冥王お父さんがそれはやめろって一喝したら……」


 話を進める毎に視線を外していき、最終的には冷や汗が。


「一喝したら?」


 話が止まったため、再開を果たすべく、催促を促す。


「なんというか……その、ジャンケンで戦争を始めたんだ……?」


「「…………………………」」


 その場に静寂が放たれる。私の頭は疑問の言葉でいっぱいだった。

 ジャンケンがこの世界の戦争ルールなの?しょうもなくない?


 それでも、その勝者の結果が気になる為、質問をする。


「優勝は誰なの?」


 その問いにケルは薄ら笑いを浮かべ、答える。


「……今回で224回目のジャンケン大会、決勝戦……合計、1024回の相子あいこ。」

「……へ?」


 なにを言っているのか今一、よくわからなくて、もう一度聞いてしまった。だけど、返答は同じで


「今回で224回目のジャンケン大会、決勝戦。合計、1024回の相子あいこ。」だった。

「え、えーと」


 なんて言おうか返答にきゅうしてしまった。


「言いたいことはよくわかる。僕も同じ気持ちだよ……だけど、何故だかこれが僕の花嫁決定戦なんだ……」

「それって、貴方の親は許しているの?」

「元々、面白がって親が始めたんだよ。僕は困るんだけどね」


 結局、犯人はあの人か!まあ確かに、あの人たちはここ3日間見てみたけど、わかる、あれは度が過ぎた悪戯いたずらさんたちだ。子供っぽい大人だ!


 ウチの親もそんな感じだったらもっと楽しめたんだろうなぁ……

 あれ……?親?ん~……?


 手を顎に当て、考えていると突如、閃く。というより、思い出す。


「お父さん……!」


 そう、ここに来た理由を忘れていた。ここに来た理由は強くなるため。そして、なんで強くなるのかはお父さんが迷宮ダンジョンで苦しんでいるため。

 ここで私がゆっくりと過ごしていたら、お父さんが死んでしまう。


 お父さんは昔、名を馳せたSランク冒険者だったけど、それも年の影響で年々、力弱くなっていく。

 あの弱さで迷宮ダンジョンに挑もうなら、瀕死は覚悟……いや、死すらも覚悟していたのかもしれない。


 ───早く、迎えにいかなきゃ───


 その考えが、私の行動の原動力となり、足早にケルに告げる。


「ケル、私そろそろ帰らないと……」


 もちろん、そんな私の急な考えにケルが賛同するはずもなく───


「どうして?ここが嫌になったの?ヤダよ、もっとここに居てよ。必ず、僕はキャルを幸せに───」

「ちょ、ちょっと。なんか話が飛躍してるって。私はここから帰らないといけない理由はもっと別にあるの」


 話を進める私に、ケルは静かに私の帰省する理由を聞いた。


 ***


 やがて、私の話が終わり、ケルは考えるようにそこに座り込んだ。

 少しの間、静寂が包み込まれ、その静寂を破るかのごとく、ケルが口を開く。


「……そんな理由があったんだね。早とちりして、ごめん。だけど、そんな理由があっても、キャルを独りで帰らせるなんて僕は嫌だ」


「───じゃあどうすれば───」


 私の言葉をさえぎり、ケルは言う。


「僕も、一緒に行く。キャルをそんな危ないところで、しかも一人でだなんて……そんなの僕が許さない」

「……!」


 刹那の静寂。その中で、私は驚きと───喜びを感じていた。その気持ちを、自然と外に放り投げる。


「…….そっか、そっかあ、ありがとう、ケル」


 自然と頬が緩み、口角が上がるのを自分でさえも分かった。純粋に嬉しかったのだ。自分と同じ迷宮戦場へ行くなんて。


 そんな人、きっと、ただ優しいだけの人だったらできやしない。

 関係のないたった一個人の為にこんなことをしてくれるなんて、そんなことが純粋に私は嬉しかったのだ。


「じゃあ、早速お母様達にも話を───」

「───話は聞いたわ!」


 すぐにガサッと茂みの方から音が放たれ、そこへ向かなくてもわかる声が私達の耳朶を打つ。


「ケルのお母さん……何時いつからそこにいたのですか?というか、お仕事の方は……」

「仕事なんてただただ、作業よ!あんなの30分もすればすぐに終わるわ!だから、凄く、いつも暇でねえ……だから、貴方たちを見てたのよ!朝から!」


 なんて忍耐力だろう、そして隣からはケルが「メイ、お母さまの仕事を追加しといてください」とケル達の執事であるメイさんに言う。そのことに対し、メイさんはなんの反論もなく「了解しました」と短く告げ、どこかへ消えていった。


 この世界の執事ってよく消えるよね。


「で?話を聞いていたのなら、わかると思いますが」

「もちろんよ。ケルちゃんがいいというなら、私たちはなんの文句もないわよ」


 最近、ケルの御母さんがケルのことを"ケルちゃん"と呼ぶようになった。

 ケルからは、「キャルの所為せいだよ」と言っていた。え?私の所為?

 そういえば、ケルの事は最初ケルちゃんって言っていたっけ。


「───ねえ貴方たちも問題ないわね?」


 ケルのお母さんは後ろを振り向く。再び、ガサッと音がする。だけど、それは一つの音では無く複数に、流れた音が聞こえた。ヒョコッヒョコッと次々に茂みから顔が飛び出す。その顔は見慣れたケルの親族の人たちだった。


「僕はいいよ」一番の末っ子が言う。「面白そうよね」ケルのお姉さんも。他にも次から次へと意見が出るが、それらは全て同意の意見だった。


「はあ───まあいいや。よし、これで僕も行ける」


 決意の眼差しを向け、ケルは私に向かって微笑む。っと、横でなにか撮られている気配が。

 振り向くと、『映像記録後視聴ラルベージュカメル』の術式が。映像を記録する聖法。


「……なんですか?」

「なんでもないわよ。あわよくば、もう少し顔をくっつけて───」

「───うるさいですよ、お母さん。その術式、今すぐ破壊させてもらいます」

「あっまって!それだけはやめて!」

「嫌です。絶対許しません」「他にも色んなキャルちゃんの映像もあるわよ?」

「……後でご拝見させていただきます」


 何故か、二人は結託して握手する。あれ?私売られてない?気のせい?

 ケルー?今すぐ行くよ?後、私の映像を撮ったって言ったけど何時撮ったのかな?


 他の人が承諾しても、私は許さないよ?

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