番外編,ク~リスマスが異世界にもや~ってく~る♪※以下略

「あ、あの!クリスマスなんです!」


 私たちの部屋で身振り手振り説明している果拿かなは、語彙力が悲しいかな、語彙力が足りないために勢いだけで説明を終えてしまった。


「そ、そうか」


 僕は、曖昧な返事をするが、アメリの方をチラリとみる。無論、頭の上にははてなが浮かんでいた。目は渦を巻いている。


 視界の隅で眼鏡をクイッと持ち上げる学巳さとみが口を開いた。


「私達の世界で12月25日、神の子であるイエス・キリスト降誕祭を祝って行われる行事なものです。現在の日本では、クリスマスの日にサンタクロースという赤と白を基調とした冬服のオジサンがプレゼントを配るということになっています。このサンタクロースは三世紀~四世紀ほどに生きたとされる奇蹟者きせきしゃ聖ニコラオスがクリスマスの日に貧しい子供にコインを投げ込んだことによってサンタクロースの起源になったという説があります」

「丁寧な説明どうも」


 学巳は、言動からして頭がいい。どうやら、日本のテストでは、毎回一位だったらしい。冷静沈着、頭脳明晰、容姿端麗。男からしたら憧れの的なんだろうが……実は、コイツ、男には興味がなく、傍から掘れそうな男二人を見つめる者───平たく言えば、腐女子だ。


「ととと、ということなんで、クリスマスの行事を広めたいんです!」


 両手を握りしめて人任せに力説をした果拿さんは声を出す。


「別に勝手にしたらいいんじゃない? ハロウィンの時もそうだったけど、この国は多文化に寛容だし。すぐに広まると思うよ」


 <法>で生み出した飲み物をすする。おいしいのかな? どうでもいいや。


 アメリは───いつの間にかいない。転移者アイツらも成長したもんだ。こうした意識疎外もお手のものってことか。探知をするとアメリは向こうの方で着替えをさせられているようだ。ハロウィンのときのように。ほら、こうやってコスプレをして……


「……似合ってる……?」

「ああ、似合ってるよ」


 見事な程の着飾りをされたアメリが姿を現した。これがサンタの衣装というものか。この恰好をおっさんが着ているとなると、あまり想像がつかなかった。


「サンタコス……素晴らしい……!」

「これは手芸部の私たちが徹夜して頑張った甲斐がよかったですね……!」

「目の回復……!」

「マイナスイオンが私たちを包み込んでいる……」


 陰ながらに握手をしている女の子陣がいる。拝んでいる人もいる。他の奴にこの衣装をあまり見せたくないのでアメリを<法>でいつもの恰好に戻す。「「「えー」」」だまらっしゃい!


 いつもの皆がいる部屋へと行く。そこは、個性が溢れる部屋で、混沌としている。遊ぶもの、防音結界を張って静かになにかをするもの、決闘を今すぐにでもしようとしているもの。様々だ。


 でも、部屋の装飾はいつもと違う。シャンシャンという鈴の音楽が部屋に響き渡る。そこらかしこにツリーが飾られている。部屋にこんなツリーが飾られていていいんだろうか。でもまあ、これもクリスマスの行事と思えばいいか。


 外を見ると、雪がしんしんと降っていた。珍しいな、こんな日に雪なんて。


「もっと雪降らせろォ! ほらそこォ! もっともっと!」


 男の雄たけびが聞こえる。祐亮ゆうすけだ。なにをやっているんだろうか。


 声は外の方から聞こえていたため、トアノレスの家から出て、外に行く。すると、すぐ近くにバカデカい機械があった。


「……祐亮……これって……」


 僕は呆れた声を漏らす。それも当たり前だ。そこには、スノーマシーンがあったのだから。


「あっ、クライシスさん! 俺、松林と協力してこういうの作ってみたんだ! 俺たちだけじゃあ無理だったけど、松林こういうの得意だからできたんですよ」


 端の方に、松林は他の人たちと設計図を見ながら話していた。奴も更生したんだな。ああやって人と関われているところ見ていると人って成長できる生き物なんだなってつくづく思う。あれ? こういうのって親面っていうのかな?


 改めて街を見直す。どうやら、ここはもうクリスマスが流行っているようだ。こうなれば、もう王宮も……


 そんな思いを心に留めながらも、王宮に転移する。


「わっ! クライシス殿!」


 転移すると、真正面にカムトリエさんがいる。なんでこの人もサンタコスプレしてんだろ……。なんか妖しい感じが……


「? どうしたんだ? クライシス殿、そんな黙って。あっ、もしかしてこの恰好が気になるんですかな。これは王が急にこれを着てという指示をしたんですよ」


 カムトリエさんが動く度にその豊満な双丘が震える。⁉ 背筋から悪寒が……。これ以上はやめよう。アメリが監視している。今日は血のクリスマスになってしまいそうだ。


「まあ、つまるところ王のせいってところだな」

「えっっと……どういう考えかはよくわからないですが、あんまり王様に負担をかけるのはやめてくださいね……? 最近、それで王様、悩んでらっしゃいますから……」

「善処する」


 そんな『行けたら行く』みたいな曖昧な一言を言うと、僕は踵を返して王室まで歩いていく。


 この前、皇帝を屈服したおかげでSPスキルポイントが大量に貰えた。流石、人をやめた身。屈服するだけで相手を倒すことになったから、SPも大量だ。


 こういうのは、異質な存在ほど貰えるからな。


 SPは、スキルのレベルを上げるための一つの手段として用いるものだ。まあ、自由に割り振れる経験値と覚えればいいと思う。


 そして、今回は真面目に王室の部屋をノックする。王から合図が聞こえたため、僕は部屋に入る。


「……クライシスか」

「そんな驚いた顔すんなよ。で、だいたいの用件はわかってるよな」

「この行事のことか」


 淡々と状況を分析する王に、俺も頷く。窓には、相も変わらずに優しい雪が降り続けている。


「ハロウィンの時もそうだが、ボクは警戒しているんだ。こんなに安易に多文化を認めていいのかって。あくまでこれは転移者の文化だからいいんだが、見知らぬ他の国の文化を認めようとしたら、統制が危うくなるぞ。まだこの国は発展途上国なんだから」


 そう厳重注意するアタシに、王はあっけらかんと答える。


「見知らぬ他国の文化だったら、こうも簡単に寛容にならんよ。帝国を倒すために尽力した転移者たちの国の文化だから認めているんだ」


 ……まあ、ここまでにしとくか。なに言っても無駄だそうだし。


「じゃあな。そろそろこの星を去ろうと思ってるし」


 今後の予定を王に伝えて、オレはトアノレス宅に転移した。


「で───なにやってるんだ?」

「クリスマスと言えば! パーティーっしょ!」


 パリピ転移者「ウィー」と皆に言う。ホントにお祭り騒ぎだな。クリスマスは聖夜って言われているのにこんなに騒いでいるのは聖なのかな……。これはシスターさんたちもビックリ?


 その後は、みんなで食事をして楽しんだ。


 ***

 ───夜、パルの部屋───


「なんかプレゼント交換とかしてたけど、僕なんもプレゼント用意していなかったわ」

「だからといって、殲滅級魔法を簡単に教えるのは……やりすぎだと思う」


 別に気軽に教えられるんだからいいじゃない。アメリさん。


「まあいいや。さあ、ちょっと二人だけでまた楽しんだら皆にプレゼントコッソリ配ろう。クリスマスなんだから」

「パルって、お酒……酔えたっけ?」

「酔おうと思えば酔える」


 なんかスキルでアルコールとかは除菌しちゃうけど、効果を途切れさせれば酔える。まあ、大丈夫だろう。たまには楽しむのも大切だ!


 ***

 ───朝、パルの部屋───


 早朝。やべ、久しぶりに酔ったから限度がわかんなかった。しかも皆にプレゼント配り忘れちまったわ。


 ……あれ? 枕元に箱がある。どういうことだ?


 赤を基調とした箱。これは、転移者たちが言っていたクリスマスプレゼントの箱だが……誰がやったんだ? <法>で調べても不明とでる。


 いや、もっと深く調べれば───

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ・クリスマスプレゼント

 ・"サンタ"が配る特別なプレゼント。中身は開けるまでわからない

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 はは……サンタ……か。


「……パル……起きてる」

「アメリ、これ見ろよ」


 たった今起きたアメリに箱を見せる。すると、珍しくアメリが驚く。


「パルが、置いたの?」

「いーや。これ、サンタが置いてったみたいだ」


 嘘かどうかは、すぐに見分けられる。だから、僕の言葉が真実であることは、アメリにとっても明白だろう。


「……不思議なことも、あるんだね」

「だな」


 今日も、雪は降り続けられていた。広間にいくと、今日も居座る転移者たち。でも、全員がプレゼントを貰ったようだ。


 これが、なんなのかは、別に言及しなくていいだろう。そんな曖昧な考えでも、許される。あとは、皆の思考力といったところだろうか。


「みんな」


 そう、一言告げる。それだけで、皆は此方を向く。全く、人数も増えたな。このトアノレスが耐えられるか不安だ。


 でも、それも笑えてくる。これも、聖夜というやつのせいなんだろうか。苦笑しつつも、僕は告げる。


「メリークリスマス」

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