28ページ,邪覇獄凄愴試煉

───三日目? 朝、邪覇獄凄愴試煉カザレイズ・ダ・ベータ、キャルメル・ファスト───


 視界が開ける。そこで長らく眠っていた意識が覚醒する。


 視界から零れる日の光に、思わず目を瞬かせる。


 なぜだか、昔のことを思い出していた。初めてギルドに行ったこと、ガルムお爺さんのこと、そして───……あまりよくないことも。


 私はいつからかあの武器を使うことがなくなっていた。ガルムお爺さんの武器は私の相棒と呼べるとまでに相性のいい武器であった。だが、あの武器を使うたびに、フレアのことが脳裏に浮かび上がっていた。


 ……確か、ガルムお爺さんが亡くなってしまったのは去年のことだっただろうか。静かに関係者だけで行われたらしい。


 一方、私はそんなことなど知らずに迷宮ダンジョンへ挑戦し続けていた。だけど、今となっては後悔しかない。そう思うと、なにか私が役に立てたことってあったけと感じる。


 ダメだ。またどんどんネガティブになっていく。そうして気分が落ち込んでいくとともに、また過去を思い出していた……一つの考えが浮かぶ。


 ───っていうか、待って。なんで私こんなところに居るわけ?


 私は精一杯、記憶が飛んだ前の事を思い返す。


 ───ちなみに、行くのは貴方だけだからね。


「あああああぁぁぁぁっっ!!」


 思い出した。全部、思い出した。アメリが言ったあの一言も。この世界で生きていくのは覇気、ということだけは知っているけど逆に言ってしまえば、それだけしか知らない。


 というかまずここは何処どこなの?荒野、っぽいけど……


「230ryhqofhq0hi23hubijqw@9u!!!!!!!!」


 ⁉ っなに⁉ 変な声がしたけど。


 声が響いた方を振り向くとそこには40代半ばくらいの緑色の髪をした男が立っていた。服装は、ボロボロで如何いかにも戦争をしてきたような兵士の恰好をしていた。


『スキル、〈全言語理解〉を獲得しました』


 えっ⁉ なんでいきなり、スキル獲得してんの⁉


「おいっ! 貴様っ! 何処の者だ!」


 急にスキルを獲得したため、私は男の人の言語がはっきりとわかった。

 でも、言語が分かっただけで、誰かわからない男の人の質問に、私はどう答えたらいいのか、しどろもどろになってしまう。


「やはり、怪しいな、どこの者かもわからない上に覇気も乏しいではないか。信用に値しない」


 やっやばい! なんか怪しい者判定になっている!なにか信用に値する者になるために───いきなり、どうするんだろ⁉


 えーっと、えーっと───〈急速潜考〉を使用。頭の中で必死に代案を巡らせる。そして一つ思い出したのは、皮肉にもアメリの言葉だった。


 ───<邪覇獄凄愴試煉カザレイズ・ダ・ベータ>は、<邪王>が世界を占めている、覇気だけが全てを決める世界。


 そうだ、覇気! 目の前に居る男の人も、覇気が乏しいから信用に値しないとかいってたし、よーし。それなら早速でもやっちゃおう!


 私は一瞬にして隠していた覇気を一気に解放する。


「⁉」


 目の前に居る男性は驚いていると思うけど、そんなのもう関係ないっ!全力疾走で解放だっ!


 砂埃が私の周りを螺旋状に立ち上る。私の覇気の凄さに男の人は飛ばされそうになるが全力で同じ覇気で対抗する。


「ぐおおおおぉぉぉっっ……もういいっ! わかった! 十分に分かった! だからもう、やめてくれ!」


 つまり、まいったってことね? よーし。ならもういいか。


 私は覇気を一瞬で抑える。全力、と言ってもまだ2割も出していないのに。


「……っはぁ……はぁっ……凄い威力だ。これなら、あの邪王様の……」


「なにっ? なんか用なの?」


 私が質問をうながすと男の人は恐れ多いように膝を地面に着け敬意を示す。


「失礼しました。ワタクシものめは、邪覇王国騎士団じゃはおうこくきしだん、第一部団長、ガージュ=ドライヒプドでございます。もしやこのような実力のある覇人はじんであるとは知らずに、ご無礼をお許しください」


 覇人? 聞きなれない単語がでてきたぞ?


「あの、覇人って?」


 私がそうさらに質問をするとガージュさんは少し驚きの表情を見せたが失礼と思ったのか直ぐに表情を戻す。


「失礼、覇人というのは覇気を手にし、その道を極めし武人の敬称でございます。滅多に見ることのない者でございますが、見たものは一度でわかると聞いたことがありますが、それは本当のはなしでしたな……おっと、話が脱線してしまいました。貴女様のような武人をお求めしておりました。是非、我が邪王様の嫁御よめごとなってくれませんか?」


 ……? へぇ……嫁御……ってことは、お嫁さんってことだよね? つまり、邪王のお嫁さん……っえ⁉


「いやいやいやいやいやいやいやいや! なんでそんなことになるわけっ⁉ 意味わからなくない? ……しかも、お嫁さんって……私まだ17だよ! 未成年……ではないけど、それでも結婚はまずいよ!」


「いえ。今、邪王様も19となり、邪王様の御父上である冥王様はそろそろお年頃となる邪王様にも嫁となる者を見つけないと、ということで世界中で邪王様の嫁御様を巡って各地で戦争などを繰り広げておるのです。というのも、邪王様は「嫁御にするなら余と同じくらいの覇気量がないとだめだな」と言ったことにより、各地の淑女しゅくじょは我こそは、となり挙句の果てには戦争と……」


「で、貴方たちはそれに巻き込まれた、と」


「……はい」


 かなりふざけた理由で戦争を繰り広げているのか。それでこの人たちも苦労している。


 なんて酷な世界にわたしは来てしまったのだろう。私は空を仰ぐ。後悔を披露するように。はたまた"ある者"を恨むように。


 まあいいや、多分、私が全力を出せば戦争だって止めれそうだもん。


 邪王のことは……顔がイケメンだったら結婚してもいいかも……そんな現実逃避すらしてしまう……やっぱわりとありかも。


「うーん、それで、皆が平和になるんだったら行ってあげても? いいけど……結婚は別ですからね! イケメンだったらまだしも……じゃなくて、ちゃんとずは相手の事を知らなくちゃいけないんで……そのー行きます?」


 私がそう答えを述べると、ガージュさんは救われたように顔を明るくして、ありがとうございます、と言った。これで、くだらない戦争が終わると思うんだけどなー……


 そんな頭能天気に考えながら砂漠を暫く歩くと、目の前を覆うような国がぐんぐんと近づき、そして蜃気楼に包まれた。


 これも覇気の力なのかな? きょろきょろと何も見えない周りを見渡すと、いきなり壁にぶつかる。


「いたっ」


「キャルメル殿。ここが、邪王宮でございます」


 左を見て、ガージュさんの姿を確認。私、まっすぐ歩けてなかったのかと自分に失望するのとどうじに、前方を確認すると、ガージュさんの言っていた王宮が目に入る。


 思ったより大きいといえる。私の国の王宮といい勝負かもしれない。いや、もしかしたらこっちの方が大きいかも……


 しかも見たことが無い素材で作られている。頑丈そうで立派だった。


 私がお城に関心を抱いていると、いきなり家臣と名乗る人たちが私を囲んで、私をお城へあれよあれよと連れ込んだ。


 お城の内装も見る間も無く、突然知らない部屋へ私を案内する。っえ? お化粧? そんなの自分で出来るって、今やる必要なくない? 邪王様と会う為です? あー(理解)……んー?(理解不能)


 結局、椅子に2時間も座らせられなにも抵抗ができずに、おめかしをさせられた。


 ぜったい誰か〈抵抗不可〉持ってたよね? じゃないと私動けないとかそんなのできないからね?


 ……でも、自分とは思えないくらい、すっごい綺麗になっていたからプラマイゼロ?


 私の頭が理解不能オーバーヒートしてるよ。もう、さっきからはてなの数が多いよ!


「では、邪王様のもとへご案内致します」


 家臣の人は短く会釈えしゃくをして、私の前を先導する。その歩く姿だけでも参考になることが多い。音が無く、静かな歩く姿。これも覇気を駆使しているのだろう。


 でも、どうやったら覇気で歩く音を無くせるのだろう? やっぱり技術だったりする?


 私も何回か覇気をあれこれしているとできるようになっていた。それも、家臣の人は気づいたのか、意味ありげな顔をこちらに向けてきた。


「上達速度が速いのですね」


 そう軽く済ますと家臣の人は立ち止まり、ここです、と手をまねいた。でも、そこにあったのはただの壁だった。


「? えっえーっと……」


 私が困惑をしていると壁がゴゴゴゴゴッと動き出し、立派な装飾が加えられた扉になった。


「邪王様がお待ちです。行きましょう」


 家臣の人がドアノブに手を引くと、音もなく静かに扉が開いた。

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