16ページ,風呂

───二日目、夜、キャルメル宅リビング、ラーゼ・クライシス?───


「そういえば、お風呂はどうするの?」


 家での紹介が終わり、マリアちゃんとおままごとをやっていたらお風呂が沸いたようだ。実際、その言い方は間違っていて、この世界ではお風呂は<セレマ>で空間を取り入れ、風呂を沸かす。


 だから、簡単に言うと自動で指定された時間にお風呂をいれるということだ。


「えっ先に入る?」


 質問を質問で返す。


「質問を質問で返さないで」


 やっぱり言われた。


「クーと一緒にお風呂入る!」


 唐突に手を挙げ言い放つマリアちゃん。僕は別にいいけど、キャルがどうするかな?


「えっお姉ちゃんと一緒に入らないの⁉」


 キャルがそういうや否や、マリアちゃんが停止し、その場で熟考する。彼女はきっと迷っているのだろう。そう


(ここでクーと入りたい……! でも毎日お姉ちゃんと入ってるから今日も入らないと……!)


なんて理解不能な思考が巡られているんだろうな─


「(ここでクーと入りたい……! でも毎日お姉ちゃんと入ってるから今日も入らないと……!)」


 実際言った。


「マリアちゃんはお姉ちゃんと一緒に入ってきな」


 そう、助け舟を出す。あと一緒に入ったら何処かで怒られそうな気がするので、ここは断っておく。


「嫌!クーと入りたい!」


 強引だなあ。もしもマリアちゃんと一緒に入るお風呂シーンが絵になるのだったら、それは凄いオジサンたちが興奮するというか……犯罪臭がしますね。


 まあ他に方法がないというわけじゃないけど……


「それなら、クーと私とマリア、そしてケルちゃんの四人で入ろうよ!」


「「⁉」」「?」


 マリアちゃんは目を輝かせ、私は言いやがったコイツ。という顔をし、ケルはなにもわかっていない。


「お姉ちゃん! ナイスアイデア!」


 普通に考えればすぐに思いつくことだけどな。あえて言わんかったけど。


 ケルの方を向く。やっぱり、なにも分かってなさそうだ。……いや?


「ハア……」


 こうなったら、もう止まらない。風呂場に直進するだろう。


「みんな、早速、準備するよ!」


「はーい!」


 返事は一人だけだった。


 四人もいるのにドウシテダロウネー(棒)


 手をつないで歩く。俺もアイツが居ないからって好き勝手遊んでんなー。怒られそ(他人事)


 マリアちゃんは今から探検をするように先導し、私がケルの右手、キャルメルがケルの左手をひいて風呂場へ歩を進める。


「まるで親子みたいだねー」


「?」


「こんな親子なんてあり得るのかなあ……」


 母親がAランク冒険者、父親が性別不明(自称)、子が受肉魔物(仮)。うん、ありえねえな。


 そして。さっき紹介された風呂場に着く。壁は驚くほど頑丈だ。あ、やべ。壊しちゃった。


「クー? なにしているの?」


「ナンデモアリマヘン」


「? なんで片言なのよ」


 さらっと隠しておく。ん、なかなか複雑だな。あれ、これって───


 がらららーん! と壁が瓦解する。おっと。


「……クー?」


 少し怒気が入った声でこちらを見つめるキャルメル。私は必死にそれらを隠す。


「……そんな変な格好してもさっきの音でわかってるんだからね?」


「ジャジャーン!」


「!」


 そこには、瓦解した壁など存在しなかったようにまっさらとなっていた。


 ふん、僕にかかればこんなこと1秒もあれば造作もないのだ!


「……」


 キャルメルはジト目でこちらを見つめた。ふっふっふ。なにも言えまい。その後はなにもなかったかのようにする。


 そして再度、風呂場を見渡す。


 さっきも見たが、ここの風呂場はだいぶ広い。広さでいえば、32畳くらいあるだろうか。シャワーとか凄いあるからな。


 といっても、まずは風呂場へ入るには着替えないといけない。そして、ここがポイントだ。


 キャルメルがこちらをガン見している。それはもう、凄い目でこちらを睨んでいる。


「……あのさ、キャルメル」


「……なに?」


 こちらの返答は二の次、視界が一番だ。なんて考えているのだろうか。


「そんなにこっちを見ないでくれ」


「……みてないわよ」


 こっちを明らかガン見して何を言うんですかねー。


 私は、常時、魔眼と聖眼、さらにその二つが混ざり合う沌眼を発動しているため、一人称視点の他にも二人称視点、三人称視点などで物事を見れる。


 だからキャルメルのことが肉眼の視界で見えなくとも、こちらを見ていることなど手に取るようにわかる。


 少し話が逸れた気がするが、要するにキャルメルに私のお着替えシーンが見られなければいいこと。


 そしてそれが実現される一番手っ取り早い方法は、私が着替えるときに極限的に絶対に露骨な肌は見せなければいいのだ。


 すなわち今、私ができる最善の策は───


「───《トアノレス》〚複製〛〚多織留タオル状態モード〛」


 ふかふかのタオルが私を一瞬にして纏い、露骨な肌が隠される。


「ふう……」


 安堵の息を漏らす。許せキャルメル。これしか方法が無かったのだから。


「クー、ひーどーいー。なんで肌見せないの!そのスベスベな肌を!」


「キャルメルの視線は私の肌に向いてないような気がするけど?」


 キャルメルが向けている視線の先は私の彼所あそこのほうを見つめていた。


 私がもし男だったのなら危ないところだっただろう。


「この! チクショー!」


 キャルメルが私に向かって突っ込んでくる。


 だが、そんなのはお構いなしに私は避ける。豊かな胸元の二つの果実が揺れる。


 そんなのは気にせずに避けるんですけどね。


 キャルメルは猪突猛進をし続けるが、私は避け続ける。


 やがてキャルメルは私の肌を見るのを諦め自分の着替えを始める。


 普通に疲れる。


「? ンー? ⁉ ンー! ンー!」


 ケルも周りの真似をし、服を脱ぎ始めるが直ぐに服が引っかかる。


「あーもうもう、そんな脱ぎ方しない。ほら、じっとしといて」


 そう言い聞かせながらケルの服を脱がす。


「ン……」


 ケルの服を脱がすと次に、ケルの全裸姿をバスタオルで纏う。


「よし、お風呂に入るか」


 どうやら、キャルメルたちは先に入ったみたいだ。

 私達も入るか。


 風呂場に行くドアを開け、脱衣所から出る。


「あっクー!」


「おお! 風呂場で走るなよ。滑るぞ」


 マリアちゃんは私に向かって走ってくる。


 そんなに走ったらころんじゃうな。


「ダイジョブだよー、だって、『無滑転倒技モタツチ』を発動させてるもん!」


 あれっ? 確か『無滑転倒技モタツチ』って『無属性最上級聖法』だったような……


「マリアちゃんって何歳?」


「7歳‼‼」


 ……なるほど。どうやら、この家系は天賦てんぷの才をお持ちのようだ。この年でそんなスキルを持つことは、凡人では無理な話だ。


 勝手に説明したが、だいたいそんなところだろう。


 そんなことを考えながら、シャワーを浴びる。強くもなく、弱くもないような温かい水が当たる感じがする。とても心地よい。


「さあて、と。風呂に入るか」


 風呂には先に私以外の者達が入っている。


 ケルとマリアちゃんは広い風呂で泳いでいる。マリアちゃんもケルも楽しそうに泳いでいる。


 キャルメルはタオルで髪を縛り、もう一個のタオルで肌を隠して座っている。


 男性方面から見させてもらうと、凄く妖艶だ。理性が吹き飛んでしまいそうなように。


 だが、私に理性や本能というのは働いていない。そのため、なにもキャルメルの姿に興奮などしていない。


 ……ほんとだよ? まあ、そう思わないと殺される奴がいるという事実も……まあいい。今世はうまく立ち回ればいいものだ。


 このままケルたちの方へ行ってしまうと私も巻き込まれそうなので、キャルメルの隣に座る。


「……いい風呂だなあ……」


 肌に染み渡る。


「気に行ってもらえてこちらもうれしいわ」


 普通の家に、こんな風呂があるなんて反則だ。こんなの温泉だ。温泉。


 まあ、ここは普通のご家庭じゃないけど。


「ねえ。一つ聞いていいかしら」


 リラックスしていながらも、キャルメルは少しだけ真剣に尋ねてくる。


「なんだ?」


「あなたの、そのトアノレス? って、なんなのかしら」


「おっとそれは難しい質問だね。今じゃあ、お答えできるかもわからないよ? しかも、私がそれを話したところであんたが理解できるかもわからない」


 鼻歌を歌いながらも答える。


「そんなにやばい代物なの? トアノレスって」


「やばい、というか……まあ、確かにやばい代物ではあるかな。だからキャルメルには───」


 分からない、そう言いかけたがキャルメルに止められた。


「それでも、私は知りたい。私と、クーはパーティーメンバーなんだから」


 私は目を開け驚いた顔でキャルメルを見た。


 随分と真剣な目だ。


「わかったよ。話してやる。少し、長い話になるがな……」


 そうして私は語る。その秘密を。

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