第47話 暗殺ギルド1
辻馬車にまた乗り込みオルゲーニ邸へと戻って来たエメとダンヒル子爵は、オルゲーニ邸の主が使う執務室へと足を向けた。
必要な重要書類は、ランドルフが屋敷を出る時に持ち出しているが、領地経営の過去の書類は纏められて、書棚に綺麗に並べられていた。
しかし、ダンヒル子爵とエメはその書類には見向きもせずに執務机セットにはダンヒル子爵が座りその前にエメは立っていた。
「お父様、弁護士を雇う?」
「そんな金が何処にある!裁判に勝てば金は出来るが、それまでは、今までと少しも変わらん。」
「裁判に勝つには、私の子供がランドルフの子供だって皆に解っても割らなくちゃいけないのよ。ラビィは塀の中だから良いにしても、問題はモニカよ。」
エメは邪魔な存在であるモニカとラビィを思い出して、三人で一緒に居る時にも一番下っ端扱いをされた事などを思い出して、悔しさに自分の親指を噛む。指からは血がにじみ出してきた。
「証人が存在しなければ、問題はない。そうだ!暗殺ギルドに依頼をすればいい。」
「暗殺ギルド?」
「たとえ塀の中であっても、どこに居ても暗殺ギルドならば依頼を遂行してくれる。支払いは、少し前金を渡して残りはエメが公爵夫人になってから渡せばいいんだ。」
「お金あるの?」
ダンヒル子爵は皮の巾着袋を机の引き出しから出してきた。
「これどうしたの?」
「此処に移ってきた初日にこの部屋に入って引き出しを開けた時に見つけたんだ。この屋敷は、今は我々のものだ。それなら我々の物で問題は無いだろう。全てを渡してしまっては、食材やらが購入出来なくなるのは困るからな。この位で良いだろう。」
そう言って皮の巾着袋から1/4位を出して、違う巾着袋に入れた。
「我々が動くと厄介だからな。いざという時の為にナナにギルドへ出向いてもらおう。何かあった時位には、エメを思っての所業とする事も出来る。」
「お父様あったま良いぃ。」
「何、亀の甲より年の劫だよ。」
「どういう意味?」
「遠い東方の国にある言い伝えみたいだな。年を取っている分だけ知恵が回るという事らしい。」
「お父様、本当に頭良いのね。」
「任せろ。じゃぁ今晩のうちにナナには暗殺ギルドへ向かって貰おう。」
「善良なナナがいくかしら?」
「大丈夫だよ。」
ダンヒル子爵とエメは下卑た笑みを浮かべた。
☆☆☆
ナナが作った夕食を終えたダンヒル子爵は執務室へナナを呼び出した。
「今日は忙しい思いをさせて悪いな。」
「飛んでもございません。生きる気力を失い死にそうだった私を救って下さった、ダンヒル家の為でしたら、たとえ火の中水の中ですわ。」
「そうか、助かるよ。それでな、エメには秘して欲しいのだが。」
ナナはダンヒル子爵の物言いにこれは、何か重大なことが起きていると思い、緊張の余り喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「エメが、暗殺ギルドに狙われているんだ。」
「どなたにで、御座いますか。」
ナナは恐ろしいワードに目に見えて震え出した。
「ランドルフ殿の元奥方にだ。今まで好き勝手やってきた元夫とはいえ、自分との婚姻関係にある時に子供を作ったことが許せないらしい。今日元奥方の家に行ったときに使用人が、暗殺ギルドへ依頼を終えて来た。と報告していることを偶然聞いてしまったんだ。」
ナナは悲鳴を上げそうになった口を両手で塞いだ。
「私はエメと子供を守らなければならない。」
「はい!そうですとも、旦那様わたくしも微弱ながらお手伝いをさせて頂きます。」
「おぉ!助かる。では、エメを守るために暗殺ギルドの者が来た時にそれを追い払うための人員を暗殺ギルドに頼みに行って欲しい。この手紙の中に詳細は書いてある。前金はこれだ。中を見れば、ギルドの連中にはすぐに理解が出来る筈だ。」
ナナは、手紙を受け取ると強く頷いた。
「お任せくださいませ。私大切にお育てしたお嬢様の為に任務、全うして参ります。暗殺ギルドでしたら、きっと夜に動く方が良いかと思います。今すぐに向かわせて頂きます。」
ダンヒル子爵は、ナナには見えないように片側の口角を厭らしく上げた。
「ナナ、頼んだぞ。」
「お任せください。」
そう言うとナナは速足で自室へ戻り外套を羽織ってカバンにダンヒル子爵の手紙を入れて駆け出して行った。
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