第41話 裁判します1

ランドルフは、手を横に振って違うという意思表示をした。しかし、それが間違いとは知っていても、なにもケニアの部屋まで来て嫌な気持ちにさせる必要はない。と全員が思っていることまでは、困難しているランドルフには理解が出来なかった。


「応接室へ行きましょうか。」


ルーベンスが、ヴィヴィとサボに顔を向けてうながすと、二人は頷いた。サボは


「アンゲルも呼んで来ますね。」


というと足早に去って行った。ヴィヴィは近くにいたメイドに応接室へティーセットを要求した。


応接室へ入って直ぐにティーセットを乗せたワゴンを押してメイドがやって来たが、ワゴンを置いたメイドはランドルフを睨んでから部屋を後にした。

また少しすると書類の束を持ったアンゲルがサボと一緒にやって来た。二人を確認すると、ヴィヴィはお茶の用意をして各人の前に置いた。

アンゲルはランドルフを一瞥してから書類をルーベンスに渡した。

そしてキツイ口調で叱責した。


「ですから、結婚と同時に女性たちとは縁を切って下さいと申し上げましたのに。結果何も出来ずに此方に丸投げして来て。」


「終わったことを言っても仕方がないじゃないか。今後の事を話したいんだよ。僕は裁判をするつもりなんだ。だからルーベンス・・・君?君を雇いたい。」

「裁判なんて軽く言いますが、ランドルフ殿は証拠はお持ちですか?」

「証拠?」

「裁判をするのであれば、ご自身の身の潔白を証明する必要があります。その証拠です。今ランドルフ殿が、自分は無実だと言ったところで、社交界での常識では、エメ嬢とラビィ嬢とは一緒に暮らしていたのですから、子供が出来ても当たり前で終わってしまいます。一緒に暮らしてはいたけど、何もなかったことを証明する人物が必要です。」

「モニカも一緒にいたから知っているし、なんなら、一番よく知っているのはずっと一緒だったラビィだよ。」

「成程。ではお二人に証人をお願いできるのですか?」

「モニカはどこにいるのか知らないしラビィは牢屋の中でしょ?無理だよ。」


ルーベンスは呆れた溜息をランドルフに解るように大きく吐いた。その後、席を立ち文机で手紙を書き始めた。その間ヴィヴィが居れたお茶を全員が口へと運んでいた。


「これを届けて欲しい。至急だと言えば、二通共に早い動きが期待できると思うから。」


ルーベンスから手紙を受け取ったサボは宛名を見て速やかに部屋を後にした。


「さて、ランドルフ殿にお聞きしたい。エメ嬢のお腹の子供について。」

「僕の子じゃないよ。」


ランドルフは。慌てて否定をした。


「そんなことは知っています。この屋敷のケニア以外全員が。」

「何でケニアが知らないの?」

「態々言う意味がありますか?あなた方は夫婦とは程遠い場所にいたというのに。」

「でも、僕にこうやって嘘でも子供がいるなんて言われたら傷つくじゃないか。」

「そうですね。それを先程ご本人が態々されましたが。」


言われてやっと自分の失態に気が付いたランドルフは、解り易く蒼褪めた。


「何で教えてくれなかったの。いや、違う。なんで僕、言っちゃったんだろう。怒るよね。」

「怒ったから、追い出されましたよね。」

「・・・・・・そうだね。ちょっと動揺していたのかも知れない。」


明らかに動揺を見せるランドルフの目の前に先程ルーベンス渡した書類の一部をアンゲルがランドルフの目の前に出した。


「何これ?」


受け取ると目線を走らせる。


「えっ!これが本当なら、エメのおなかの赤ちゃんは市井の衛兵だよね。しかも庶民出の。」


「間違いはございませんよ。何せこれはギルドがしっかりと調査をした結果ですから。この書類が欲しい場合には料金を請求されてしまいますよ。」


というとアンゲルの視線はルーベンスへと送られた。ルーベンスは全く気にも留めずにお茶を口にしている。


「良いですよ。その調査書差し上げても。その代わり条件はありますが。」


すました顔で条件がというルーベンスにヴィヴィとアンゲルは、脅えた視線を送る。二人はルーベンスがケニアに関していることには非情になる事を知っているからだった。


「エメ嬢の刑罰請求に関しては、僕に一任させて貰えるのであれば。」


アンゲルとヴィヴィは目を見開いた。エメはマティスが亡くなった後すぐにエメに階段から突き落とされて、命が危なかったことを。あの時の事をもい出して、二人の怒りも再燃した。


「そうですわね。」

「是非ともそこは譲って頂きたいところですね。」

「良くわからないけど解ったよ。」


ランドルフは、理由を理解していなかった。その後、書類を一枚ずつ読んでいると、ランドルフは、人は此処まで狂気を持つことが出来るのかと慄いた。まだ数枚しか読んではいなかったが、扉をノックする音に調査書を伏せて置いた。

扉が開いて入って来たのは、体のラインを強調するようなマーメイドラインのドレスを身に着けた妖艶な美女


「お久しぶり。お元気だった?」


モニカだった。

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