第40話 悪夢

ケニアは自室の一人掛けソファに座って微睡んでいた。遠くから呼ぶ声が聞こえるがどこからなのか解らず、でも、目を開く気力もなかった。さして疲れた感じはないのだけれども、どうやら精神的には疲れていたらしい。

その疲れは、ランドルフがエメとラビィと一緒にケニアを振り返る事もなく自由気ままに生活をしていた時に、そのお金を捻出する為に、必死に頭を使っていた時の事を思い出すからだった。


「僕は今とっても幸せだよ。それは好きな女性と一緒に楽しく過ごせているからさ。君も同じように暮らしていけばいいよ。人生楽しんだもの勝ちだよ。」


目の前にいつしか現れたランドルフは、エメとラビィの腰に腕を回してとても楽しそうに二人に微笑みかけている。


「私が頑張っているから、貴方たちは好き勝手出来るんじゃない!私が居なくなったらどうなるの!」

「どうもならないよ。君一人の頑張りなんか大したことがないのに。偉そうだね。自意識過剰だよ。鼻持ちならない女性はモテないよ。」


ランドルフは、下卑た笑みをケニアに向けた。その顔を見て、ケニアは俯き両手に拳を作った。


「モテなくたって結構よ!仕事が出来る女性の方が何倍も素晴らしいわ。男性に寄りかからないと生きていけない人よりマシよ!」


ケニアは大きな声で叫んだ。すると、体を揺らされる。その揺れは徐々に激しくなっていく。ケニアは、驚いて目を開くと、ルーベンスの顔が目の前にあった。後ろには、ヴィヴィやサボも控えていた。


「・・・・・お兄・・・様?」

「大丈夫?嫌な夢でも見たの?」


ケニアは一瞬目線を床に落とした。とても嫌な夢だった。これを話してしまっていいのか。ケニアは悩んだ。すると、ルーベンスが、ケニアの手を取り


「悪夢はね、人に話すと浄化することが出来るよ。その夢を退治しよう・・・・ケニア。」

ケニアは目を瞑り思考した。忘れたい夢でありほぼ現実に起こった出来事であった。それもランドルフが原因の。

夢の中のランドルフを思い出すとムカムカして来たケニアはルーベンスを見て話し出した。


「ランドルフ様がエメ様とラビィ様と一緒に出て来て、私に楽しんだもの勝ちだって。私が働いているから遊んでいられる癖にって言ったら、自意識過剰だって。モテないって。・・・・・言われて。だから、モテなくたって仕事をしている女性の方が男性に寄りかかっていくよりもマシって・・・・・怒鳴ってやったわ。」


ルーベンスは眉間に寄りそうな皺を必死にこらえて、笑顔を向けた。


「そうだよ。ケニアは素晴らしいよ。働かないと生きてはいけない。遊び惚けて生きていける訳がないんだ。自信を持っていいんだよ。」


ルーベンスの言葉にケニアは目じりに雫を感じる。安心してソファから立ち上がろうとしたら、メイドが慌てて入って来た。


「ケニアお嬢様!ランドルフ様が。」

「ごめんね。入ってきちゃった。」


先程の夢見の悪さを払拭したばかりで見たくはない顔が視界に入って、ケニアは眉間に皺を寄せた。


「あれ、ごめんね。何かあったのかな?」

「いいえ。ランドルフ殿には全く関係ない事です。で、何故ここに?」

「いや、ちょっと思い出してさ。君、・・・・ルーベンス君だっけ?弁護士資格持っていたよね。申し訳ないけど、後で報酬は支払うから助けてくれないかな?公爵邸乗っ取られちゃって。」


全員がランドルフを見た。乗っ取られたという割には、焦ってもいないし、飄々としていた。


「ランドルフ様。どういうことですか?公爵家を乗っ取るなんて出来る訳がありません。」


ヴィヴィは厳しい口調でランドルフに問いかけた。ランドルフは、苦笑を浮かべて、


「ダンヒル子爵家が、居座っているんだよ。エメのお腹に僕の赤ちゃんがいるって言ってね。」


「「「「はぁ!」」」」


一緒に生活をしていたのだから、赤ちゃんが出来ても可笑しくはない。しかし、ルーベンスは結婚時にこんなことが起きてはケニアが世間から何か言われてしまうために、しっかりと間諜を忍ばせていた。だからオルゲーニ公爵家の使用人たちは知っていた。絶対にそんなことは無い。という事を。全く知らないのはケニアだけだった。


「ランドルフ様は、私との結婚時に!まぁ愛人と住んでいたのですから、そうでしょうとも!ええ!当たり前の事ですわ。でも、私の部屋まで来ていう事ではありません。離婚をしたからと言って、モラルを問いますわ。出て行って下さい!」


ケニアはランドルフを追い出した。ルーベンスが話しかけようとすると、


「ごめんんさい。今日はこのまま休みます。お兄様もみんなも出て行って。」

「ケニア誤解をしているよ。」

「もう!みんな出て行って!」


ケニアが、悔し涙を流しているのを見て、全員がケニアの顔を見ながら部屋を後にした。

そして、廊下で待っていたランドルフを射殺す勢いで睨み付けた。



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