第39話 商会2
「では、後程必要経費を暫定でお出しいたします。針子やパタンナー、デザイナーの給金なども話をしなければなりませんね。そこは後に回しても宜しいでしょうか?暫定で必要経費を出した後に、一人当たりの給金目安についてもきちんと整備をしなければいけませんから。」
サントスが、これからの流れを大まかに紙に書き出していく。それをルーベンスは見て、足りない要綱などがないかを精査している。
ランドルフは、ルーベンスによって遮られたケニアを見ようと、体を横にしたりと動きながら必死に目に留まろうと頑張っていた。ルーベンスは邪魔だと思いながらも顔には出さずに堪えていた。
「ケニア何でブティックに目を付けた?」
ルーベンスが、サントスが書いている紙から目をケニアへと移して尋ねた。
「自分で持っていたら、私のドレスが取られる事がないかなって。人が私の為に注文してくれたものが他人の手に渡るのは、申し訳なくて。自分で経営すれば、プレゼントも出来るし。ポーニャやエレンもそろそろデビュタントでしょう。流行りのドレスを送りたいじゃない。それには、自分で経営した方が早いと思って。これからもこういうことが有ると思うし。」
ルーベンスやサントスの視線がランドルフに向くがランドルフは気が付かなかった。
「ランドルフ殿は、そういう方ですよね。」
ルーベンスが溜息交じりに言うと、
「ん?何?何の話ごめん全く聞いていなかった。」
「そうでしょうね。」
ルーベンスは視線をまたサントスの書く紙へと移した。
「それ位かな。うん。取敢えず、予算組を頼む。その後、またケニアと来るから、その時に法的な部分など話をしていこう。」
「解りました。では、予算組が出来ましたら、ご連絡を致します。」
「お願いね。あと、鉱山のほうに追加融資が必要になるかも知れないのだけれど、そちらに回す予算はありそう?」
「今は予算にゆとりがありますから大丈夫ですよ。余分な出費はありませんから。」
ルーベンスとケニアの視線がランドルフに向けられる。ケニアが自分を見てくれたことでランドルフは喜びを表した。
「何?何かあった?」
「いや、余分なお金が出て行かなくなった為に仕事がやりやすくなったと。」
「そうなの?大変だったんだね。」
「ええ、ケニアの元夫の愛人たちが使いまくるので、大変でしたよ。」
「そうなんだ。・・・ん?あれ?元夫の愛人?」
「エメ嬢とラビィ嬢がお金を持たずに商会へ買いに来るし、ほかの商会から請求書が回されて来て大変でしたよ。」
「ええっと、どういうこと?」
「ですから、貴方の愛人たちが集りに来ていたのですよ。」
笑顔で説明をしているが、サントスは震えあがった。このルーベンスは怒りを内に秘めていることを知っているから。ケニアはルーベンスは全く気に留めていなかった。
「これから無いだけでも嬉しいわね。」
「知らなかった。なんでケニアがエメとラビィの買い物のお金を払うの?」
「それは、ランドルフ様の名義で買い物をされるからですわ。此処はオルゲーニ公爵家が運営している商会と思われていますから。」
「え?うち?」
「違います。此処はオルゲーニ公爵家が運営をしている商会ではありませんよ。」
「そういえばだれが商会頭なの?」
「私です。」
ランドルフはケニアを見た。
「そうなの?凄いね。」
「お義父様に色々と教えて頂きましたので。」
父親の話をされて、一瞬思い出す。優しかった父親の面影を。
「そっか。君は凄いね。」
ランドルフは、自分の不甲斐なさに少し落ち込んだ。
「これからは、ケニアの足を引っ張ることはしないからね。」
「引っ張りようがないでしょう。元夫なのですから。」
ルーベンスは突っ込みを忘れなかった。
「それじゃぁ、また来るわね。忙しい時間にごめんなさいね。」
ケニアとルーベンスと後を追うようにランドルフが会議室を出て行った。
馬車にまた三人で乗り込んだが、いきのような空間ではなく、気まずさだけが漂う空間となった。行きの様にケニアはランドルフの傍によることもなく、ルーベンスの横に座り、ルーベンスは微笑みながらケニアの頭を撫でていて、その光景をランドルフが見つめる形となっていた。ケニアの屋敷へ着くと、ランドルフは、ケニアとルーベンスに挨拶をして馬車に乗り込みオルゲーニ邸へと向かった。
玄関に馬車を横付けにして降りると、屋敷の中に人の気配がして警戒をする。
誰も来る予定などなかったのに、どういうことかと中へを歩みを進めると、一人の女性が慌ただしく動いていた。
「だれ?」
ランドルフが女性に声を掛けると、女性は振り返り頭を下げた。
扉が開くと中からエメが出て来た。
「遅かったわね。ランドルフもう居ないから、勝手に部屋割りしちゃったわよ。」
「部屋割り?君とは別れたはずなのにどうして君がこの屋敷にいるの?しかも勝手に入るなんてどうかしているんじゃない?」
ランドルフとエメの間に割って入るようにナナが頭を下げながら割り込んだ。
「ご無礼を承知の上失礼致します。ダンヒル子爵家でエメ様の乳母兼侍女をしておりますナナと申します。勝手に入ってしまった事お詫び致します。けれども、オルゲーニ公爵様には責任を取って貰わなければならない案件が御座いまして。」
「責任?僕は何もないはずだけど?」
「なんて無責任な!父親となられるというのに。」
「ちちおや?」
ランドルフは反芻しながらエメを睨め付ける。後ろからダンヒル子爵がゆっくりと
歩み寄って来た。
「困りますな。責任は取って頂かないと。全くランドルフ殿も離婚をされた身ですから、、エメと結婚には何の障害もありますまい。これからは此方の屋敷でご厄介になりますよ。」
ランドルフは、今度はダンヒル子爵を睨め付けて、
「これは、公爵家の乗っ取りになるけど解っているよね。」
「乗っ取りではありませんよ。嫁入りですからね。」
「解った。僕は此処にはいられないから出て行くよ。その間に出て行くなら温情はあげるけど、出て行かない時には、覚悟をして欲しいね。」
ランドルフはそのまま背を向けてまた馬車に乗り込み出て行った。
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