第28話 頭痛の種
元ルード邸という事もあり、勝手知ったる他人の家でランドルフは、食堂まで勝手に歩きだしてしまった。意識を取り戻した三人は、ランドルフの後を追った。が、ランドルフは食堂のテーブルの一番いい席に着いてしまった。本来はケニアの席だが、ケニアの夫だと思っているランドルフは、そこが自分の席だと疑いもしなかった。
食事の為にドレスに着替えて、ルーベンスにエスコートをされてケニアが入って来て全員が固まった。
(何でこの人此処にいるの?)
笑顔でケニアを見ていたランドルフは、エスコートしているのが男性だと気が付き立ち上がってケニアとルーベンスの傍に寄って来た。
「今までごめんね。これからはこの二年の贖罪をさせて貰うよ。って、君さっきのメイドさんじゃないか。」
ケニアを見て喜色を前面に出すランドルフに、ルーベンスはケニアの前に立ちランドルフからケニアを隠した。
「何故、貴方が此処にいらっしゃるのでしょうか?オルゲーニ邸へお帰り下さい。」
ランドルフは、真顔でルーベンスに
「無理だよ。だって、オルゲーニ邸には使用人が誰も居ないから、僕の食事を作ってくれる人が居ないもの。」
とあっけらかんと応えた。ルーベンスは眉間にさらに濃い皺を作って、釈放後ではお腹も空いているだろう。今だけの我慢!今だけの我慢!と自分に言い聞かせて、ケニアを席に促す。先程ランドルフは、一番位が高い人が座る席に座っていたことを考慮して、次に位が高い人が座る席へと移動した。ルーベンスが、アンゲルやヴィヴィ達に視線で合図をすると、三人は末席の方へと移動した。
「君たちも一緒に食事をするの?変わったんだね。」
とまたもやあっけらかんと言い放つランドルフに
「私がお願いをしたんです。私は貴族でもありませんから、別に問題はないと思いますし。」
ランドルフは頬杖を突いて
「そんなことは無いよ。今までは僕のせいでかなり肩身の狭い思いをさせてしまったみたいだね。だから、ヴィヴィ達が一緒にここにいるんだろう。でも大丈夫だよ。これからは使用人達からも社交界からも僕が守ってあげるからね。」
満面の笑顔でランドルフは告げたが、ケニアの答えは氷山の頂上の様に冷たかった。
「大丈夫ですよ。結婚してから守って頂いたことはございませんし、逆にランドルフ様のせいで肩身の狭い生活をして参りました。ですが、私も自由の身になりましたので、これからは、この屋敷の皆と今まで通りに生活をしていくつもりですから。」
ケニアの言葉に落ち込むかと皆がランドルフを伏目で見ると、変わらずの笑顔だった。
「そうだよね。昨日までの僕は本当に最低だと思うよ。これからは君だけを見て行くよ。えーと、名前なんて言うの?」
ケニアとルーベンス以外は全員が驚愕の表情を隠しきれなかった。
(((名前すら知らなかったの!)か!))
良く考えてみたら、結婚式で顔すらも確認していない人が、名前に興味を持つはずがなかった。
「お好きに呼んで下さいませ。」
ケニアは短く応えた。
「好きな人の名前は知りたいじゃないか。恋人は名前で呼びたいでしょ。」
「私はランドルフ様の恋人ではありません。ランドルフ様の恋人はエメ様とラビィ様ですよね。そこに私が入る余地はありませんし、入りたいとも思いません。」
「僕の愛しい人は寂しい事を云うんだね。」
「そういう事は、この屋敷内ではなさらないで下さい。それから、食事を終えたらオルゲーニ邸へお帰り下さい。これからはしっかりと領地経営をなさって下さいね。」
「えっ?僕、解らないよ。」
ランドルフは、アンゲルとケニアに視線を送ったが、ケニアは全くランドルフを見ようとはしなかった。アンゲルは、ランドルフとケニアを交互に見ていた。
「解らないではなくて、やって下さい。私はもうオルゲーニ公爵領に携わる訳には参りません。私に出来たことが何故出来ないのですか?やる気がないのと、やることが出来ないのとでは雲泥の差があるのですよ。ご自身の責任は全うして下さいませ。」
ケニアはそれだけ言うと、席を立って
「今日は、部屋で食事を取りますから、運んでもらって下さい。」
ルーベンスも席を立ってケニアのエスコートをして二人で食堂を出て行った。
ケニアもエメの暴言を聞いたり階段から突き落とされたりまでしなければ、此処まで冷たくなることもなかったが、流石に関わることで命の危険があるとなれば、もう関わり合いにはなりたくはなかった。
「彼女はどうして頭に巻いているの?あと、彼女をエスコートしていた彼は誰なの?」
ランドルフは、ヴィヴィとサボに振った。
「お嬢様は、階段から突き落とされて、頭を縫うけがを負っております。お嬢様のエスコートをされていたのは、執事のルーベンス様です。」
ランドルフは、頬に充てていた手を解き、目を丸くしてまた質問をした。
「誰にやられたの!」
アンゲルとサボとヴィヴィは声を揃えて告げた。
「「「ランドルフ様の愛しのエメ嬢です。」」」
ランドルフは、テーブルに額を付けて頭を両手で抱えた。
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