第29話 悩む

「どうしたら良いんだ。」


「取り敢えず食事をしてからお帰り下さい。」


冷たくヴィヴィが言い放った。

ランドルフは用意をされた食事をしっかりと食べてから、オルゲーニ邸へと帰って行った。


☆☆☆


オルゲーニ邸へ着くと、玄関から屋敷の中へ入って行った。セカンドハウスに逃げ込むまでは、此処に立てば、ヴィヴィ達が笑顔で迎えに出てくれた。それが、今は此処に立っても誰も居ない。


「何をやって来たんだろう。」


ランドルフは、自分のデビュタントからの日々を振り返った。トーニアに好かれていたと思っていたら、トーニアが見ていたのは、自分の家が持っている財産だった。友人達は


『トーニアにお金を使わないから捨てられたんだ。』


そう言って居たのに、実際は皆自分が落ちて行く様を見て陰で笑っていた。


『経済を回すためには、貯め込むだけじゃなくて、使うことで庶民は潤うんだ。そんなことも知らないのか。』


そんなことを言って居たのに、気が付けばサザンもそうだが、幼い頃からの友人達は殆ど社交界に顔を出さなくなっていた。


「サザンはどうしたんだろう。」


ふと気になった。今までサザンの事なんか気にも留めたことは無かった。サザンの屋敷は売りに出されて、その屋敷を投資目的で購入していたのは、自分の嫁だった。


(どこに行けばサザンに会えるだろう。)


ランドルフは、身を隠すフードコートを羽織って、サザンと良く出かけた町場の酒場に馬車をやった。


酒場手前で馬車を降りて、道の左右に視線を送ってサザンの姿を探した。


「おい!客が来る前に運んでおけよ!瓶は割るんじゃねぇーぞ。」


「はい。」


短く応えた男の声に聞き覚えがありそのすがたを凝視した。

庶民の服で重たい便の箱を運んでいるのはサザンだった。


「サザン?」


その声に、男が振り返った。


「・・・・・・ランドルフ。・・・・・」


サザンは、ランドルフを迷惑そうな表情で見遣った。

サザンは店主に許可を取って、店から離れてランドルフと道の壁際で 視線を合わせずに話を始めた。


「今更何の用だ?落ちぶれた俺を見に来たのか?あの時とは逆、いや、没落しただけ俺の方がもっと酷いか。可笑しいだろう。笑えよ。笑いに来たんだろう。あの時トーニアの傍にいてお前に嫉妬していた奴等は皆借金だらけだ。他の奴らもどうなったか解らない。お前は良いよな。公爵と嫁に助けて貰って。」


ランドルフは黙ってサザンの言葉を聞いていた。

サザンは、眉間に皺は作るものの、涙は堪えていた。

サザンは、少し気持ちが落ち着いて来たのか、今の状況になった過程を話し始めた。


「皆デビュタントで浮かれていたし、綺麗なトーニアに夢中になっていた。トーニアの魅力にやられたのはお前だけじゃないんだ。あいつらも俺も。でもトーニアが手を取ったのはランドルフだったから、皆が振られてしまえば良いと思っていた。そうしたら現実になった。その時にトーニアは言ったんだ。楽しませてくれる人が好きだと。だから皆ランドルフの二の舞にならないように。トーニアがカジノへ行くと言えば着いて行きトーニアの分もお金を出して、その時にお金が払えない時には、担保を入れたんだ。家の宝物だったり、領地だったり。気が付いたら借金だらけさ。ランドルフが正しかったんだ。」


自分が知らなかった事実が出て来て、ランドルフは頭の中で咀嚼するのが大変だった。


「俺は、ランドルフの結婚式辺りには没落寸前だった。親が亡くなってもうお金を返す当てがなくなった。オルゲーニ公爵からはランドルフからエメとラビィを離してくれたら、借金がなくなるように商会を教えて貰えるはずだった。要はお前の見張りだよ。でもお前ときたら、奥さんを放って結婚式から逃げたしちゃうし、教会の周りにはお前が新婦にキスをするのかしないのかで賭けまで行われて・・・・おかげで助けなんかして貰えなかったよ。まぁお前を嵌めたんだから仕方がないよな。」


ランドルフは結婚式をよく覚えてはいなかった。前の日に深酒をしたせいで、頭がぼうっとしていたまま行ったので終わって直ぐに帰宅をして眠っていた。


「賭けの対象って・・・・。」

「何だ、知らなかったのか?お前が、ラビィに奥さんにキスをしないでと言われて、ヴェールも上げるな。と言われて、その通りにするのかしないのかで夜会に出席していた貴族たちが賭けを始めたんだ。」

「それは・・・。」


父や奥さん側が知ってしまったのか。それを聞こうとしたが、言葉に出すことが出来なかった。でも、サザンには伝わった。


「オルゲーニ公爵も知っているし、奥方側の親族も知っている。父親が相当お冠だった。何せ何処の家も欲しがった令嬢を搔っ攫って、大切にするどころか、相手を侮辱したんだから。それでも、奥方は離婚しないでいてくれるなんて凄いよな。お前の遊ぶお金や愛人たちのドレスや宝飾品のお金まで捻出して、自分は質素倹約。そこまでしてくれる人は中々いないよな。だからどこの家門も欲しがった。俺も欲しかったよ。そうすれば没落なんかしなかった。まぁ終わったことだけどな。」



ランドルフは、情報多過で思考回路は停止状態となっていた。

サザンは、ランドルフの状態までは理解出来ずに、


「これ以上はオーナーに怒られるから。」


と店に戻って行った。

暫くはそこに佇んでいたが、ゆっくりと歩き出して、降りた馬車に乗り込みオルゲーニ邸へと帰路についた。

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