第21話 終了のデビュタント4
エメが会場から出て行って、暫くすると王族入場のアナウンスが流れた。一斉に扉の方へと視線が向かう。国王、王太子、宰相の順に入場して来ると、国王は会場を見渡した後、デビュタントの令息令嬢に向けて祝いの口上を述べた。そして、これからデビュタント開幕という所で、
「ご無礼を承知で申し上げます。」
と二名が国王たちの席の階段下で膝を付き頭を下げていた。
「何だ。」
と不機嫌な声でお国王が告げると、
「今回のデビュタントに際して問題を起こした者たちが降りまして、この場を失礼させて頂きました。」
国王は、面を上げるように告げて、話すように促した。
「私は、王都にあるサンドラ・ブティックを経営しておりますシーモア男爵の妻で御座います。一か月前にオルゲーニ公爵家の奥様様にとオルゲーニ公爵様から直々に奥様のデビュタントのドレスを発注されました。」
そこまで聞くとランドルフは、自分に妻が居た現実を二年ぶりに思い出して、そういえば、結婚式の時に十二歳だと言っていたことを思い出した。
(父上がドレスを作ってあげたのか。)
単純にそれしか思わなかった。
「そのドレスの最終チェックの日にご友人達とご一緒にいらしたのですが、公爵様からのご依頼のドレスをランドルフ様が、エメ様に最終確認をさせるようにお願いをされたとのことでしたが、実際にはエメ様がランドルフ様がエメ様の為にご依頼をされたドレスという説明をご友人達にされまして、袖を通されたところで、奥様がお見えになられまして、ランドルフ様がエメ様の為にご用意をされたのであれば、公爵家は支払いをしないといわれて未だにお支払いがされていない状態なので御座います。この場を借りまして、ランドルフ様からお支払いを頂けましたらと思い、恐れ多くも、デビュタント会場ではありますが、まかり越しました。」
ランドルフは、初めて聞いた話に頭が付いていかずに呆然としていた。
続いて宝石商が口上を述べ始めた。
「私どもは、ルーベンス・カナガン様よりオルゲーニ公爵家の奥様へデビュタントの贈り物としてネックレスとイヤリングのセットを特注依頼を受けておりました。しかし、引き渡しの当日にラビィ・ハント様がいらっしゃって、ランドルフ様のお使いだと申されて、強奪をされて行かれました。此方はルーベンス様より先払いをされており、オルゲーニ公爵家とは全く関係がない商品ですので、お渡しは出来ないと申し上げましたが、持って行かれてしまいました。申し上げました通り、こちらもデビュタントでオルゲーニ公爵家の奥様が使用されるものですので、失礼を承知で、罷り越しました。」
ランドルフは先程ラビィが付けていたネックレスを思い出して、振り返ると、会場の皆の視線が、ラビィへと注がれていた。
ラビィは、自分がどうして見られているのか、まだ気が付いていなかったが、駆け付けた衛兵に直ぐに捕らえられた。
「いったい何なのよ!」
叫ぶラビィの胸元にはルーベンスが発注した二年前にアフィトの鉱山から発掘された光によって輝きを変える宝石ケニアルファの大きな一粒が輝きを放っていた。
「あれです!カナガン伯爵家から特別に与えられた石で御座います。」
会場はざわめき出した。ランドルフは、ラビィの胸元を確認してから、エメを探した。
衛兵たちもエメを探している。エメはどうしたのだったか。ランドルフは、働かない頭を必死で動かして思い出す。
(ドレスを着替えに行ったきり帰って来ていないのか?一応替えのドレスは、持ってこさせたはずだ。)
ランドルフは、控室に駆け出して行った。扉を開けると、マナーハウスに連れて来たメイドが一人椅子に腰かけていた。
「エメは着替えに来なかったのか?」
言われていることが直ぐに理解できなかったメイドは、呆けるが、ドレスを着替えることになると思うとランドルフから指示は受けていたので、それを思い出して、
「エメ様は、こちらには一度も顔をお出しにはなっていらっしゃいません。」
と答えた。ランドルフは、この状況が全く理解できていなかった。
(エメが作ったと言っていた白のドレスは、本来は僕の奥さんが着る予定だったもので、ラビィが身に着けていた宝飾品は、本来は僕の奥さんが着けるものだった?じゃぁ僕の奥さんはどうしたんだ?)
ランドルフは、デビュタント会場へと踵を返した。会場の扉を開けると、最早デビュタントどころの騒ぎではなかった。ラビィは
「私はランドルフに頼まれただけだ。」
と訳の分からないことを言い、宝石商と、ブティックの主は、代金の支払いを求めている。
この場を治められるのは、ランドルフがドレスに関しては、代金を支払って、宝飾品に関しては、自分が全く関係ないことを示すことで、一時収めることが出来ると考えて、口を開こうとした時にラビィが国王に叫ぶ。
「ランドルフ様から指示だという証拠が御座います。バックの中には、ランドルフ様が許可を出したというランソルフ様のサイン入りの証文が御座います。」
ランソルフの心臓がドキンと嫌な鼓動を打った。全く身に覚えのないことで何故自分に火の粉が降りかかってくるのか。ラビィが自分を裏切るなんて露ほども考えていなった。
衛兵が、ラビィが示すバックを漁ると、封筒に入った紙が出て来た。衛兵はそれを国王に持って行くと、書かれている内容を確認して溜息を吐いた。
「衛兵、ラビィ・ハントとランドルフ・オルゲーニを連れて行き、事情聴取を取るように。ランドルフからは翌々話を聞いてやって欲しい。これは、ランドルフが騙された可能性が高い。その場合は、ドレスの代金は、エメ・ダンヒルの実家であるダンヒル家に請求を出し、ダンヒル家はそれに応えるものとする。また。ラビィ・ハントは、カナガン伯爵家に宝飾品の賠償と慰謝料を支払うように。金額などは、負って沙汰をする。連れて行け。」
「何でよ!なんでよ!ランドルフ、助けなさいよ!貴方にはそれしか価値がないでしょう!そのためにいるんでしょう。」
ランドルフは、衛兵と歩き出そうとしたが、止まった。ラビィが叫んだ言葉を脳が咀嚼できなかった。
衛兵は、これ以上騒がないように、ラビィの口に縄を嚙ませ、そのまま連れて行った。
ランドルフは、衛兵が先を促したので、そのまま歩き出した。止まった思考のまま表情は無かった。
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