質問コーナー ——②

定期的に現在進行形で流れているコメントからの質問に答えつつ企画を進行していく。尺の都でもあるが、最初に比べて一つの質問に取る時間が短くなっているのはご愛敬だろう。


【好きな服のブランドは?】


「あっはは!滅多に外出しないわたしたちにそんなこと聞いちゃう~?」


自虐混じりのネタでなぎさが笑う。


「むう、なぎと一緒にしないで」


「じゃあさじゃあさ、みーちゃんはどのくらいの頻度で外出するの?あ、カロン関係は抜きで」


そう言われてみのりは指を折りながら数えてみる。指の動きがかなり遅いので、最早察しがつくというものだ。


「...んと、2週に一回?」


「ほぼ買い出しだけじゃん!」


「別に対して用事ない」


「あの~お二人とも、聞かれているのは外出頻度ではなくて服のブランドですよ~」


「そう言えば、伊織さんの好きなファッションブランドって何ですか?」


みのりとなぎさがいつも通り組み合っているので、一応注意しつつ、伊織らは別で話を続ける。


「そうですねぇ…僕はさして服に興味があるわけではないので意識したことなかったです。あまり背丈が変わらないものですから、ここ2-3年は服を買った気がしないような?」


「まあ、男の子はそんなものなのかしら~?」


ことねはあまり男性と関わったことがないと公言していることもあってか、少し物を尋ねるように口にした。


そこサクラが珍しく、ずずいと強気に割って入って来た。


「伊織さん!」


「は、はい!」


「伊織さんは素材が良いんですから、しっかり仕立て上げれば光るんです!」


「は、はぁ」


「そうですね、伊織君はモノトーンでパッキリさせるのもギャップで行けると思いますが、暖色系でふんわり纏めてあげるとカッコ可愛く仕上がるはずです。今時風にオーバーサイズのパーカーで若干の萌え袖にして、暖か力と可愛さアップで戦いましょう。というより、体型的にも合わない服装なんかロングコート以外殆どないのでガンガン攻めていけるますね!本当に羨ましいです...それからそれから」


「はぁい、さっちゃんそこまで」


「もがっ」


段々と速度を増していくサクラのトークに伊織が目を丸くしていると、戻って来たなぎさに口ごと取り押さえられた。


「ほんとファッションになるとリミッターが外れちゃうよねぇ」


「ん。でも女子たるものファッションに敏感である方がいい」


「えっと、結局皆さんが好きな服のブランドって何なんですか?」


話を本筋に戻す伊織がさらりと聞いた。


「わたしは…ウニプロ?」


「ん~…Gn?」


「ボクはそれに合わせて目印もかな」


彼女たちの口から出たのはレディースがメインのブランドではなく、男女両方でよく聞くブランド名で、コメント欄では「ちょっと意外かも」といった声が少々目立つ。


「あたしたちは結構機材とかゲームでそれなりの金額使ってるから、あまり服とかにはお金かけないのよね~」


「そそ!経費で落とせるものもあるけど、ガジェット集めとかは半分趣味も入ってるから中々ね。【Arizonで〇万爆買い!】とか動画でやってるじゃん?これは特に何も思わないんだけど、服に5000円とかはかなり高く感じちゃうんだよね~」


 なぎさとことねが理由を説明すると、理解や共感と言ったコメントが目立つ。皆ジャンルが違えど少なからずこういったことがあるのだろう。



「先ほどは取り乱してしまいましたが、時間的に次の質問が最後ですね」


「ん、誰かの熱弁のおかげ」


「う、言い返せない……」


「えと、次の質問って何ですか?」


「ふっふっふ、それはわたしが読み上げて進ぜよう!」


今までとは違う種類の笑みで口角を上げるなぎさが質問を読み上げる。


【お風呂の時、体をどこから洗うか】


「ないしょね~」


「ヒドイ」


「セクハラです」


「ん、サイテー。なぎサイテー」


「ヒドイよ!この質問したのわたしじゃないのに!」


質問からほぼノータイムで切り刻まれたなぎさは捨て置いて、サクラが仕切り直して最後の質問を読み上げる。


「割と似た質問が多かったので一個に纏めて聞いちゃいますね」


【伊織くんはカロンの中で誰が好き?誰がタイプ?】


「ちょっと待ってこれ本当に大丈夫なんですか!?」


 伊織が驚愕するのも当然であろう。加入の際にも危惧した事だが、まず女性だけのグループに男性が一人という構図が問題視される。これは半ばアイドル認識をされてしまったことによる弊害なのでほぼ無視で構わないのだが、恋愛感情になれば話は変わってくる。

 まあ、先ほどと同様別に問題という訳でもないのだが、仮に炎上した時の規模と火力が格段に違うのだ。

 この問題には千差万別、様々な意見があるので明記は控えるが、自ら波を立てるような行為はしない方が良いと考えるのが自然の様に感じる。


「伊織さんがよろしければ答えてあげてください」


「えっと、んと……むぅ~」


焦りつつも思考を巡らせる伊織。伊織を囲むカロンの面々らはいざ知らず、視聴者も彼の答えを今か今かと期待に踊っているのがコメント欄から見てとれる。


何とか答えを絞り出せたのか、伊織は少し緊張した面立ちでそれを発した。


「正直、今は仕事に慣れるのが精いっぱいでそう言った思考は持ったことがありません。こんな僕にも優しくしてくれる皆さんは本当に良い人たちです。まだ一人前とは言えない僕に良くしてくれる皆さんが僕は、えと...その、好きです」


なるべく当たり障りのないようにと、伊織は慎重に言葉を詰まらせながらも語った。


彼が一番危惧していた視聴者の反応も、問題ないように見受けられる。それを確認した伊織はほっと胸を撫で下ろした。


「ふぅん、つまりいっくんはハーレム志望と」


「え、ちょっと違いますよ!!」


確実に茶化す目的でなぎさはニヤリと笑みを浮かべ伊織の脇腹を突っつく。


「ん。全員脈あり」


「何でそうなるんですか!?」


続くみのりも逆サイドを突っつく。視聴者も伊織がここまで取り乱す事が珍しいのか、この状況を楽しんでいるコメントが流れ始めている。


「ほれほれ~どうなんか~?」


「たすけて~!」


もっとニヤニヤしたなぎさがさらに突っついている様子をサクラは隠すように笑っていた。

ワンテンポ遅れて出港した助け船によって質問コーナーは幕を閉じ、お正月企画は最後のイベント、ゲーム対戦へと進む。



—————

またもや更新が遅くなりました。

申し訳ございません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る