クイズ企画——②

 その後出されたクイズは意外にも多種多様な分野から出題されていた。

例えば「料理のひとつまみとはどのくらい?」や「解の公式は?」などの学校で習ったものから「格闘ゲームにて、死亡した相手プレイヤーのアバターを攻撃し続ける行為をなんというか」といった、ゲーマーらしい問題等々。


回答者たちへ目を向けてみると、ほぼ全員高ポイントで僅差という意外な結果で終盤を迎えている。


「さて、時間的に数問で終了になりそうですね」


「ん。点差もいい感じ」


今回のクイズ企画は早押し回答では無いので、正解者全員にポイントが与えられる。なので大した点差が生まれないのだ。


「ねえ、サクちゃん……」


「なぎさ?どうかしましたか?」


「私だけみんなとの点差、二倍近くあるんだけど」


なぎさは小刻みに震えながらそう吐露する。

下馬票を覆すことはできず、他のメンバーとの点差は実に二倍以上となってしまっていたからだろう。


「ん。大丈夫。三倍にしてあげるから」


「どこが大丈夫なの!?」


みのりがわざわざ、なぎさの席まで移動して肩に手を置き、渾身の煽りを放った。


「なぎはみんなの期待を裏切らない。うん」


紫月も何かを確信したように頷く。


「うわ~ん!みんながイジメてくる~!」


「な、なぎさん。一緒に頑張りましょうね!」


「いっくんだけが私に優しいよぉ……」


力なく机に倒れるなぎさをよそに、サクラは次の問題を読み上げた。


【伊織がFPSで好んで使う武器は何でしょう?】


「え!?僕の問題も出るんですか!?」


「伊織さんも【カロン】のメンバーですからね!」


そう言われた伊織の顔はほんの少し、紅潮しているようにも見えた。


「いっくんが【カロン】に加入する前に全員でゲームをしたことが何度かあるから、一応分かるかも!」


なぎさはこの問題に勝機を見出したようで、分かりやすく張り切っている。


「ん。私もわかった」


ことねと紫月も回答を書き終え、メンバー全員の回答が出そろった。


「思っていたよりも早く回答が出そろいましたね。それではフリップオープンです!」


出た回答はなぎさを除いてハンドガンだった。


「答え合わせは伊織さんにお願いしましょう!」


いきなり振られたことに少し驚きつつも、しっかりと正解を発表してみせる。


「えっと、なぎさんが正解です」


なぎさが出した回答には”セミ”とだけ書かれている。


「あれ、前に戦った時はハンドガンばかり使ってた気がするけど」


みのりの疑問に伊織は答える。


「確かにハンドガンはよく使いますね。けど、僕が好きな武器はセミオートなんですよ」


 セミオートとは、銃における発射形式の事だ。

引き金を引き続ける間、弾が自動的に発射され続けることをフルオート。

引き金を1回引くごとに弾が1発発射されることセミオートと呼ぶ。


「確かに弾の消費が抑えられるからいいわよね~」


「伊織、理由、教えて?」


珍しく紫月が食い気味に聞いてくる。


「そ、そんなに気になります?」


「ん。気になる。だって伊織強いから」


紫月に続いてみのりまでもが聞いてきた。それに実りが発した言葉に反応してコメントが加速していく。


 :えっ伊織君って強いの!?

 :マジで!?

 :みのりに言わせるとか相当だぞ!


「伊織は強いよ。状況によるけど、5回に1回は負けるから」


みのりが与えた追加情報でまたコメントが加速する。


 :あまり褒めないみのりが……

 :だって上位ランカーだろ?

 :なぜマネージャー


「そ、そんなに強くないですよ!みのりさんが得意なシチュエーションだと殆ど勝てませんし……」


「ん。そりゃ得意だもん。得意分野で同じ勝率だったら私泣くから」


 :殆どwww

 :偶に勝ってるんだ

 :みのりの泣き顔見たいから伊織君には勝ってもらわねば……


「話を戻しまして……伊織さん、理由を教えてもらえますか?」


話の舵を握り直したサクラにもう一度質問される。


「えっと、一発のダメージが大きいから……」


 FPSゲームでは大半、弾一発のダメージ量はフルオートよりセミオートが高く設定されている。

これは、フルオートとセミオートの連射速度から発生するダメージ量の差から、武器の優劣を無くすために行われているゲームバランスの調整によるものが大きい。


「いっくん~他にも理由があること、お姉さん知ってるんだからねぇ~?」


少しウザ絡みに近いテンションで伊織に詰め寄る。


「あの……そのぉ……かっこいいから……です」


伊織が控えめな声でそう返すと一瞬場が静かになったが、即座に面々の口角が上がった。


「ん。理解」


余らせた袖で口元を隠すみのりがいつも以上に短く答えた。


「わかる。ボクも昔練習したけど、AIMが難しくてあきらめたんだよね~」


紫月がそう言うと、コメントでも似たような意見がちらほらと見受けられる。


 セミオート武器の利点が一発のダメージ量だとすれば、デメリットは一発の重要性だろう。

フルオートだと一発外したぐらいでは対して影響がないが、セミオート武器ではそうはいかない。初弾を外しただけでも撃ち負ける可能性があるのだ。

それゆえ、必然的に高いAIM能力が要求される武器種でもある。


「あ、あのう……すごくいたたまれないのですが……」


メンバーや視聴者から理解を得られたとはいえ、やはり恥ずかしいらしく、伊織の顔はほんのりと紅潮していたのはその場にいた人間ならわかったことだろう。


 その後もクイズ企画は続いた。

伊織の問題で得点を得た勢いで「挽回して見せる!」と息巻いたなぎさは、結局最後まで得点を得ることができなかったのだが……それはもう少し先の話。



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またもや一か月以上空けてしまい申し訳ありません。

新型コロナになってました....

皆さんもどうか体調にはお気を付けください。

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