年が明けて——②

 楓に頼まれた伊織は部屋を出て玄関へと向かう。

サクラとみのり以外のメンバーと会うのは【カロン】に加入する際に一度電話でやりとりをしたことを除けばタッグイベント以来だ。

 

「お久しぶりです、皆さん!」


玄関を開けると【カロン】の残りのメンバーである『ことね』『なぎさ』『紫月』が立っていた。


「いっくん久しぶり〜!」


「わわっ!なぎさん、危ないですよ?」


玄関を開けた瞬間、伊織と同じぐらいの身長の女性が抱きついてきた。

マッシュウルフにボーイッシュな服装、見るからに元気な彼女、なぎさは【カロン】で珍しくヒットアンドアウェイを得意戦術としている。


「だってだって!一ヶ月も会えなかったんだよぉ」


なぎさはさらに抱きしめる力を強める。


「こ〜ら、あんまり伊織くんを困らせちゃだめよ〜」


なぎさが前から抱きついているに対して、ことねは後から伊織を優しく抱きあげて解放する。

髪はセミロングでおっとりとした空気を纏うことねは【カロン】の中でも癒しとしての評判が高い。


「そう言うことちゃんもいっくん抱きかかえてるじゃんかぁ!」


「あらあら、ごめんなさいね?嫌だったかしら?」


「い、いえ、別にそんなことは....」


「よかったわ~」


たどたどしく答える伊織を笑顔で抱き続ける。


「寒いからそろそろ中に入ろ?後、メロンパン買ってきたから伊織、食べよ?」


大きなファーが付いたコートを着てパンの入った袋を掲げる彼女は、サクラ・みのりと共にタッグイベントを戦った紫月だ。


「ありがとうございます!サクラさんとみのりさんは撮影部屋で準備に取り掛かっていますよ」


「じゃあ、私たちもお手伝いしに行きましょうか〜」



 部屋に戻ると準備は大体終わっており、楓とみのりはお茶休憩を取っていた。


「揃いましたね」


「ん。あけおめ」


年明けの挨拶を含めた軽い雑談を交えた後、楓が本題を口にした。


「さて、今回みんなを集めたのは他でもありません。事前に連絡した通り、今日はお正月特番生放送を行います!」


「サクラ質問〜」


どこか気の抜けた声で紫月がひらりと手を挙げた。


「紫月?なんですか?」


「メロンパン食べていい?」


「本当にあなたはマイペースですよね…別に大丈夫ですよ」


若干呆れつつも楓の顔に浮かぶ表用は柔和なものだった。紫月はそれも気にする素振りなくメロンパンを袋から出して伊織に手渡す。


「はい、伊織の分」


「ありがとうございます!」


「ずるいずるい!ボクの分は?」


身を乗り出すようにメロンパンを求めるなぎさに対して紫月は両手でメロンパンを食べながら視線を逸らす。


「ない、忘れた」


「え〜!それはないよ〜!」


身を乗り出す元気がなくなったのか、机にうつ伏せになる。その様子を見て紫月が小さく「ごめん」と誤っている様子を見るに、どうやら本当に紫月はこのことを失念していたらしい。


「なぎさん、僕の分…食べます?」


「いいの!?あーでも、それはいっくんのだから気にしなくていいよ。ありがとね」


伊織の提案に目を輝かせたなぎさだったが、右手を押さえるようにしてそれを断った。


「どうせこんなことになると思ってあたしが買ってありますよ〜カレーパンですけど」


今度はことねが少し大きめのトートバックからカレーパンが入った袋を取り出して皆に振る舞う。


「それじゃあ、食べながら説明しましょうか」



軽い昼食を取り終わった六人は楓が書き起こした企画書を囲むように座った。


「先ほども軽くお話しした通りで、今回の企画は全体的に3部構成で行きたいと思っています」


楓が話すに、クイズ・質問回答・ゲームという構成で進めていくとのことらしい。


「クイズに関しては高校生レベルまでといった内容で作っています。流石にネタバレになるので問題は本番まで秘密です」


「え〜!わたしの学力がモロバレしちゃうじゃん!教えてよ〜」


頬を膨らませて抗議するなぎさだったが、それも想定のうちだったようで変わらぬ表情で楓は言った。


「別にもう隠れてないので却下です」


「さっちゃんのケチ〜!」


「質問コーナーについてなんですが、放送が始まったタイミングで募集をかけて大丈夫だと思います」


「ん。大丈夫だと思う」


企画書を読み上げる楓に的確なタイミングで相槌や補足を行うみのり。ここまで息が合うのはこの中でも一番長い付き合いであるが故にできることだろう。


「あ、伊織。覚悟しておいた方がいいよ」


少し目を細めたみのりの表情は以前、大会前に見たものと同じで、何かを覚悟したような顔だった。


「え?どうしてです?」


「伊織さんは前回の部屋紹介以来の出演ということになるので…多分すごいことになると思います」


「いっくんの人気凄いからね〜あたしがソロ配信してても“伊織くんまだですか〜”ってコメント来るんだから!」


そのことを聞いて伊織はどう反応していいか分からず、口角をピクつかせることしかできなかった。


「ボクもどんな質問くるか楽しみだよ〜」


「続いて最後の企画は全員でゲーム対戦です!」


「ん。人間対戦ゲームをやれば性格が割れる」


 楓が見せてきたゲームはeスポーツ大会に選出されるぐらいには名が知れたタイトルで、2〜10人がチームに別れて戦うFPSゲームだ。

伊織もこのゲームは全くの初見と言うわけではないのでその提案に頷いた。


「ただ、タイトルは知っているんですが、実際にプレイしたことは無くて…」


「それはそれで全然問題ないです!今回は戦闘が目的ではなく、リスナーさんに知ってもらうためのレクリエーション的な戦いになる予定なので」


「それに〜わからない所はあたしたちが教えるから問題ないわ〜」


ことねの言葉に他のメンバーも頷いて見せる。

それを見て安心したのか伊織の体に入っていた力が緩まったようだ。


「それではこの予定で進めて行きたいと思います」


各々バラバラな返事をした後、数時間後に始まる配信に向けて最後の準備に取り掛かった。

楓に言われた質問コーナーが気になる伊織だったが、まずは目の前の作業を片付けようとパソコンに向き直った。   

                                                   


ーーーーーー

受験の準備等で更新できませんでした。申し訳ございません。


 今回作中で登場した“質問コーナー”ですが、実際に募集させていただきます!

ただ、全ての質問を拾うことができるわけではありませんので、ご了承ください。

質問の投稿方法は、作者Twitterからのマシュマロか、このお話のコメント欄によろしくお願いします。

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