マネージャーの午前
僕の朝は早い。
.....と言うより今日は寝ていない。
「よし、後はエンコードにかけて終わりっと」
昨日あった大会の帰りに言われたコラボ動画の編集が今終わったのだ。
「今何時だろ...ってマズい!」
時計を見ると針は丁度朝の六時を指していた。朝ごはんは基本的に僕が作っているのだが、この時間なら本来もう作り始めている時間だ。
「昨日の朝ごはんは洋食だったから...今日は和食にしようかな」
作業デスクから立ち上がり、腰を伸ばしながらメニューを考える。
この家はメンバー全員で生活しているので、作る食事の量も他の家庭よりも多い。お米だっていつも6号炊き。お肉や魚なんかは一回の食事で二パックも空にする。
「お味噌汁はこないだのを温め直して...今日は無難に鮭にしようかな」
そう言っながら僕はフライパンを用意する。
「よし、今日も頑張るか!」
さっきも言った通りに量が多いから作るのにも時間が掛かる。だから今回みたいに少しでも時間を間違えると...
「...おい」
「あ、おはようございます。叔父さん」
見るからに眠そうな表情でゆっくりとリビングに姿を見せた。
「ヨルだ。間違えるな。ってまだメシできてねぇのかよ...ほんとお前は使えねぇな」
「あ、あと少しでできるから...もう少し待ってください」
「はぁ.....そうだ、昨日言った動画の編集。勿論完成しているんだよな?」
「うん、今エンコードに掛けているところです」
「俺がよこせって言ったらすぐに渡せるようにしとけよ!」
ここで補足しておくと、エンコードとは簡単に言うと動画として見れるようにするための出力作業のことだ。動画の書き出しとでも思ってくれれば想像ができるだろう。
「エンコードが終わればデータ渡せるから...」
「そんなもんわかってんだよ!」
「ご、ごめんなさい」
「...たく、メシ出来たら教えろ。後で食う」
「あと少しでできるよ?」
僕がそう言うとわかりやすく眉間にしわを寄せた。
「てめえがもたもたしてるから作業に戻るんだよ!」
「う、うん...ごめんなさい。出来たら連絡入れます」
「最初っからそれでいいんだよ」
そうして叔父...ヨルは大きなため息をついてまた自室へと戻っていった。
昨日の大会メンバーのほかにもう三人この【祝い酒】にはメンバーが在籍していて、僕含めて計7人で共同生活をしている。大体の人たちがちょっと不愛想だけど、ちゃんと褒めてくれるときは褒めてくれる。だから僕は褒めてくれるように頑張るしかない。
...ってなに考えているんだろ、早くご飯作らないとほかの人にも叱られちゃうや。
◇◇◇
時刻は変わって11時ごろ。僕は作業デスクの方で打ち合わせをしていた。
『はい、その件はそのようにお願いいたします』
この時の打ち合わせ相手はスポンサー企業の【Valkyrie】。ゲーミングデバイスを中心に販売している大手のメーカーだ。
『わかりました。それと、再来月発売予定の新商品のレビューをお願いしたいんですけど、いいですかね?』
『えっと確かマウスでしたっけ?大丈夫だと思いますよ』
『では確認ができましたらメールでお願いします。いいお返事が来たらすぐに全色揃えてお送りします。期限の方は配達完了から1か月ほどでお願いします』
『わかりました。ちなみにこちらは貸出ということですか?』
こういったスポンサーからの送られてくる製品には大きく分けて二種類ある。『貸出』か『提供』だ。どういった裁量で決まるのかはメーカーによるのだが、貸出は書いて字のごとくで動画を撮り終えたらメーカーに送り返すこと。提供は送ってもらった商品をそのままもらい受けることだ。
『先日の大会で見事に優勝されていましたので、こちらの製品はすべて提供とさせていただきますよ』
『ありがとうございます!今リーダーのヨルに確認の連絡を入れましたので、すぐにお返事できると思いますよ』
そのまま打ち合わせは順調に進んでいき、終わりのころにはヨルから返信があり、レビューの件も承諾する方向で話が進んだ。
打ち合わせが終了して時計を確認してみると時刻は13時過ぎ。通りでおなかが空いてくるわけだ。
この家には昼食に関しての決まりがない。メンバー同士の予定がかみ合うことが少ないからである。
だから基本家で作業をしている僕がその時家にいるメンバーにお昼の有無を聞いて回るのだ。
「ヨルさん、買い出しに行ってくるんですけど、何かいりますか?」
階段を上がってまずはヨルの部屋に顔を出す。
「あ?別にいらねえよ。まだ朝飯残ってるし」
「わかりましたー」
「あ、待て」
「何かありました?」
「エイヒレとイカ買って来い」
「...わかりました」
この調子で残るメンバーにも聞いて回り、僕はコンビニまで買い出しに行く。
◇◇◇
「買ってきましたよー」
「ん」
差し出された手に買ってきたコンビニの袋を掛ける。
「おい、これはなんだ?」
「ええっと、頼まれたものですけど...」
「なんで、ゲソなんだよ!俺が頼んだのはスルメだぞ!」
「え、でも、いかだって...」
「そんなこと言ってないだろ!」
「ごめんなさい...次から気を付けます」
そう言って僕はそそくさと部屋を出る。
ほかのメンバーにもお昼を届けて、僕もコンビニ弁当を頬張る。
「たしか午後にも打ち合わせがあるんだったけ」
ご飯を食べながらも仕事のことを考えておかないと今日のタスクが終わらないのはどうにかしないとなぁ...
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