エンディング、のような終わりなのか、一応?

 議事堂が破壊されて使用不能なため、城内の広い一室を借りて開催されたタルムニス都議会は荒れに荒れていた。


「まず、街の中心部から整備することによって迅速な街の再建がなされるものと思います」


 壇上に立った男の言葉に、


「賛成だ!」「横暴だ!」


 次々に声が上がる。


「いやまず、周辺部から再建することで、スムーズな資材の搬入路が確保されるはずだろ?」

「いいや! 道路整備が先だ!」

「そうだ、そうだ!」

「いやいや、被災した個々人の生活の立て直しが先だろうが?」

「そんなものは後回しだ!」

「何だと、てめえ! 自分には大した被害がなかったからって、いい気になりやがって!」

「自分のことじゃなくて、もっと先を見据えろ!」

「それは単に、お前が自分のことを考えなくてもいいからじゃねぇのか!?」

「何だと!」

「テメェ、何様のつもりだ!」



 ついには、つかみ合いのケンカまで始まっていた――




「うわ、また、ものすごいことになってんなー」


 騒然としている議場を通路から見て、俺は苦笑した。破壊活動に携わった者たちをどう処罰するかとか、破壊された街をどこから修復するかとか、再発防止策はどうするかとか、お互いの利害や立場が絡んで紛糾している議会をなだめてくれと議長から要請があったんだが、……正直、俺ごときがしゃしゃり出たところでどうにかなるのか、これ?


「王子?」

「ん……?」


 隣で呼ぶ声に顔を向けると、


「緊張、してます?」


 微笑みを浮かべたイト・ヤンゴトナーキ・オカータに、……“姫様”にそんなことを言われる。


「まあな」


 肩をすくめながら俺は頷いた。


「また、深呼吸でもします?」


 茶目っ気たっぷりに言ってくる“姫様”に、


「いや」


 俺は笑って首を振った。彼女の軽口のおかげで、いつの間にか緊張がほぐれている。……何だかすっかり自分のことを知られてしまっているみたいで気恥ずかしいというのもあるけど、こんなふうに支えてもらうのも、まあ、悪く、ない。


「あの時ほど、展望がきかないってないわけじゃないからな。一応、話の通じる人間相手だし」


 「そうですね」と微笑んで頷く彼女に頷き返し、


「さてと、行くか」


 俺はニヤリと笑ってみせたのだった。





「我が、王権神授党は、治安を乱すものどもに対して断固たる態度で望むことを要求いたします!」

「反対!」


 壇上で主張する者に、反対の立場の者が立ち上がって叫ぶ。


「我々、天賦人権党としましては、まずは反王家を名乗る者たちとの対話を重視するべきではないかと考えます。力で抑えつけようというその発想自体が、ますます王家を認めない者たちを増やし、過激な行動に走らせるのです!」

「そんな弱腰はやつらをつけあがらせるだけだ!」

「強硬なだけが政策ではない! そんな単純な思考だから、ついていけない者がでてくるのだ!」

「論理を机の上でこねているだけの奴らには、現実が見えてないだけだ!」

「結論ありきの話しかできないやつらなど、思考停止に陥っているだけだ!」

「何だと!」「やるか!」

「静粛に!」


 議長が騒然となった場を取りなそうと呼びかける。


「シュ・ジーン・コウ王子、並びに、イト・ヤンゴトナーキ・オカータ王女の臨席を賜ります。静粛に、諸君!」


 会場に二人が姿を見せると、場がまるで水を打ったように静まりかえる。議員たちは自然と立ち上がって王子と王女を迎え、二人が着席するのを待って一斉に腰を下ろした。


「それでは、王家を代表して、シュ・ジーン・コウ王子より、お言葉を頂戴いたします」


 議長に紹介された王子は、立ち上がると王女と視線を交わして、うなずき合う。そして壇上へとあがると、右掌に刻まれた“王家の証”を議員たちに見せながら、おもむろに話し出す。


「この国を想う皆の熱い議論、頼もしく思う」


 王子はそんな言葉で話を始めた。


「この度の悲劇は、王家を快く思わない者たちだけに責任があるのではない。我々王家、そして、この街に住む、王国の民たる諸君にもその一端がある。何故なら、今回の件は、我々が貴族たちの不正や行政内部の腐敗などの問題を知りながら目を瞑ってきたこと、あるいは、そういう問題があるということを知りながら解決を先送りにしてきた事が原因だと思われるからである」


 ぐっと力を込めた視線で場を見回し、


「今こそ、問題を直視し、議論し、解決に向けた努力を始めるべきである!」


 声にも力を込める。


「もちろん、全てが解決できるわけではないだろう。しかし、解決できることも多いと思う」


 ふと、表情を緩め、口調を変える。


「……だからさ、他人が自分より優先されてるとか、自分の取り分が他人より少ねーとかただ目を三角にしてひがんでみたりとか、逆に、全てを失っちまったから何やっても仕方ねーとか、混乱しているからもうだめだーとか投げやりになったりもしねーで、これをいい機会だと前向きに捉えて、時には真面目に、時には息を抜いたりしながら、みんなで生き抜いていこうじゃねーか!」


 すっかりいつもの口調に戻ったコウはちょっとだけ苦笑を浮かべ、


「俺なんぞ、“王子”なんて言うエラそうな肩書きを持っているだけの単なる若造に過ぎねー。だから、至らない点があったら、容赦なく指摘してくれ。あんたたちの方が俺よか経験も知識もある。だから、」


 そこで言葉を切って、もう一度、場内を見回す。


「――この国をよりよいものにするために、どうか、みんなの力を貸してくれ! 頼む!」


 頭を下げた王子に、場内からどよめきがあがる。


 ――大歓声が上がる議場から、王子は王女を伴って堂々と退場していった。





「あー、緊張した」

「ふふ、お疲れさまでした、コウさん」


 廊下を歩きながら、王子と王女――言わずと知れたコウとネ子――は言葉を交わしていた。


「ガラじゃねーよ、こんなの」

「結構、堂にいった演説でしたよ?」

「か、からかうなよ」

「ふふ」

「会話の途中、失礼いたします」


 後から、クロウ・ニーンが割り込んでくる。


「お疲れ様です、王子、……ネ子どの」

「おいおい」


 コウは呆れたように眉をしかめた。


「愛称とかじゃなくて、“姫様”とか呼ぶんじゃねーのか、普通?」

「でも、しかし、王子、」

「俺のこともコウと呼んでくれていいんだぜ?」

「彼女は、その、……影武者です、王子」

「へぇー、そーなの。……って、はぃぃぃ~~~~!?」


 呆気に取られたコウは大声をあげ、


「そうなのか、ネ子?!」


 不可思議な笑みを浮かべている“王女”に振り向いて、問いかける。


「はい……」


 ネ子は穏やかな口調で頷くと、


「黙っていて、申し訳ありませんでした」


 おどけたように貴婦人の礼などしてみせる。


「あ、いや……」(何だったんだ、俺の葛藤って……。)


 思わずぼやくコウだったが、


「? 何か、おっしゃいました?」

「あ、いや。……な、なんでもねーよっ!」


 小首をかしげて聞いてくるネ子にぶんぶんと首を振ったところでちょうど控え室の前に着く。


「じゃあ、着替えてくる。また後でな」

「はい、コウさん。……また、後で」


 部屋の中へと入っていくコウを笑顔でネ子は見送ったのだった。





「まったく、いろんなことがありすぎだぜ」


 室内着に着替え終わり――良いと言ったんだが、『これが仕事です』と半ば無理やり着替えを手伝ってくれたメイドたちはすでに退室している――控え室で俺は一息つく。


「しっかし、これからやらなきゃならねーことが山積みだなー」


 俺は、一人、苦笑する。……もっとも、やることがない時代なんて、問題がなかった時代なんて、ないんだろうけど。もし、『そういう時代があった』と思っているやつがいたとすれば、それは、やるべきことに気がつかなかったか他人任せにしていただけだろうからなー。


 そんなことを考えた俺の背後で、



 ことり。



 と、かすかな物音がする。


「! 誰だ?!」


 俺が振り返るとそこには、


「さすがは王子様。見事なお手並み」



 ――そう言って冷ややかな笑いを浮かべる白いローブの男の姿があった。



「お前は、セン=ニン……!」


 一瞬、人を呼ぼうと考えた俺だったが(護衛の兵が部屋の外に待機しているはずだ)、


「さすがに、フロー=フシの、……タルムニアの見込んだ人材だけはありますな。ご高説を賜り、議会の者たちと行政の関係者は恐悦至極だったことでしょう」


 やつのその言葉で気が変わった(どうやら、ヨネーの“敵討ち”というわけではなさそうだ、な)。


「……それは違う」


 俺は相手の表情をうかがいながら首を振った。


「俺は、あくまでこの国に生きる一人の人間としての意見を述べたに過ぎない」

「ほう?」


 こちらを値踏みするような態度を崩さない男に、俺は落ち着いて自分の考えを述べていく。


「みんなが心の底から納得するなんてことはないだろうが、少なくとも、必要な時に必要なことができないほど愚かでもないって、俺は信じてるんでな」

「ふむ?」

「何故なら、それをやらないことは自分たちにとって単なる不利益にしかならないからだ。感情と理性でそれが認められるなら、やらないでいられるはずはないだろ?」

「人間というものをよく知っていらっしゃるようだ、王子様は」


 どこかあざ笑うような物言いの男に、


「さてな?」


 俺は、思い切り挑戦的な笑顔を向け、


「……あんたの方がよく“知って”いるはずだ。それなのに、何故だ……?」


 もし、機会があったら(……正直に言えば、まず、ないだろうと思っていたんだが)、この男に聞いてみようと思っていたことを口にしていた。


「何が、ですか?」


 あくまでとぼける男に、


「あいつを、……ヨネーのやつをもてあそんだのは、何故だ?」


 はっきりと問いを口にした俺はやつに斬りつけるような眼差しを向けた。


「もてあそんだなどは心外ですな。私は、ただ、ヨネー様のお手伝いをしたにすぎません」

「そんな嘘が本気で通用すると思ってるのか?」

「……だいたいの見当はついているのではないですか?」


 そう言って、うかがうようにこちらを見つめてくる白いローブの男に、疑念が確信へと変わる。


「俺のため、か……?」


 俺は呆然とつぶやいた。


「王家を憎み転覆を願うようにヨネーの環境を整え教育し洗脳し、俺の乗り越えるべき壁として仕立て上げたってのか……!」

「ほう。その自覚があるなら、行動した甲斐があるというものですね」


 男は恭しく一礼した。


「そんなこと、頼んじゃいない!」


 激高した俺が一歩詰め寄ると、


「残念ながら必要なのですよ。王たるものには、“試練”が」


 どこまでも芝居かがった態度で男は、笑う。


「ふざけるな!」


 思わず叫んで一歩詰め寄る俺だったが、


「あなたが思っているより、この世界を維持している“システム”は強固で複雑なのですよ」


 男の笑みは、あくまでも揺るぎなく自信に満ち溢れたものでしかない。


「そんなもん……!」

「破壊しますか? 人々に多大な混乱と犠牲を強いても?」

「くっ」


 機先を制され――それはヨネーにおれ自身が指摘したことでもあった――思わず言葉に詰まる俺に、


「これがもっともコストが安く、リターンが高い方法なのですよ」


 男は止むを得なかったというように朗々と言明する。


「……そんな、ことは、ない」

「ほう?」


 『お手並み拝見』といったように見つめてくる男に、俺は、不思議な確信に満ちた言葉を告げる。


「きっと、……きっと、別なやり方があるはずだ。人の命をコストなんて言わない、別な“システム”を俺たちは作れるはずだ」

「ふむ。努力してみるのですね。今までだれも成功したことのない、“夢”に向かって」


 揶揄するように言って取り合わない態度を見せる男に、俺は、腹の底から煮えたぎる怒りを感じていたが、同時に、これ以上にないほど醒めていた。


「……だから、あんたの力も、貸してくれないか?」


 だからだろうか、そんなとんでもないことをそいつに言ってしまったのは?


「!?」


 白いローブの男は明らかな動揺の表情をその端正な顔に浮かべ、


「何故、です……?」


 今まで見せていた余裕のある口調ではなく、どこか切実な言葉遣いで聞いてくる。


「『何故か』だって? あんたほどの人が分からないのか?」


 俺は、ある意味、先ほどのセン=ニンのような“余裕のある態度”でせせら笑ってやった。


「あんたが今まで得てきた膨大な知識と経験は、必ず、新しい“システム”を構築するのに役に立つんじゃないのか?」

「それは、そうかもしれませんが……」


 まともに俺の“悪意”を受けた男は言いよどみ、


「……私のことが憎くないのですか?」


 そんなことを聞いてきた。


「憎くはない。だけど、俺はあんたのことを許さない」


 俺は断言し、


「あいつをある意味、“見殺し”にしたのは絶対に忘れないが、敵を討つよりはあいつの“供養”になるかと思ってな。あいつがやろうとしていた“革命”を真の意味で成し遂げることに、あんたの力も使うことが」


 『お前など殺す価値はない』と“残酷”に宣言してやる。それが、こいつに対しての俺なりの“復讐”だった。


「……これは、予想外だな」


 そのつぶやきは俺の耳にも届いていたが、


「返答は?」


 俺はあくまでもやつの口から言葉が聞きたくて問いただす。


「……まだやらねばならないことがありますゆえ」


 白いローブの男――タルムニアは、慇懃に頭を下げた。


「そいつが片づいたら、」

「考えて、おきましょう」


 俺に最後まで言わせずに、白いローブの男の姿は俺の前から霞のように掻き消えたのだった。



「コウさん? コウさーん?」



 部屋の外からノックの音とネ子の声が聞こえる。着替え終わった彼女が、俺のことを迎えに来たんだろう。


「ああ、……今行く」



 俺は返事をすると、扉の方へと向かったのだった。





「――王子、……王子! 聞いてらっしゃるのですか?」

「……聞いてるよ」


 クロウ・ニーンとかいうやつに、オレはめんどくさそうに返事を返した。城の中のある一室。今後のことについて説明を受けていたのだが、別に関心事があるオレにはいまいち気が乗らないのだった。


「課題が山積みです。時間は一刻も無駄に出来ません」

「へいへい」


 説教口調のクロウ・ニーンにオレはおざなりな返事をして立ち上がると、……窓際から外を眺めた。


「――もう、あいつは発ったのか?」

「ええ、お引き止めしたのですが……」

「フン。そんなもんじゃ、あいつは止められんよ」


 オレはふと口元を歪め、


「こんな面倒なもの、オレに押し付けやがって、あいつめ」


 ぽつりと、つぶやいた。


「そうすることで、あなたをお救いになられたのです」

「分かってるさ、そんなことは」


 言わずもがなのことを口にするクロウ・ニーンに、オレは顔を外へと向けたままで相槌を打った。顔かたちや背格好なんかも瓜二つだから、髪の色を元に戻せば(目立つように赤く染めていたのでな)、外見からじゃ見分けがつかないだろうし、な。


「それが王子の優しさ、――器の大きいところだと思いますが、正直、私は、まだ、……あなたのことを信用しておりません」


 クロウ・ニーンの苦渋に満ちた言葉に、


「上等だ。まあ、オレの足を引っ張りさえしないでくれれば問題ない」


 オレは振り返ってニヤリと笑ってやる。


「あなたも、王子の役割をきちんと果たしていただけるなら、何も問題はありません」


 冷静な表情で言ってくるクロウ・ニーンと視線を合わせ、


「フン。それがオレの恩赦の条件だからな」


 かつて、ワーキヤーク・ダ・ヨネーと呼ばれたオレは皮肉につぶやくと、着席してクロウ・ニーンに話の先を促がした。


「あいつが旅に出ている間は、せいぜい影武者としてやつの代役でも果たしてやるさ」


(……だから、貴様は、もっと大きく、強くなって帰ってこい、コウ……!)



 ――オレは、オレのやるべきことをやり始めた。





「良かったのか、コウ?」

「何がです?」


 街の外から城を眺めていた俺は、フローさんの声に振り返った。


「帰ったときには、城はあやつに乗っ取られておるやもしれぬぞ?」

「それは好都合ですね、めんどくさくなくていいです」

「コウ……」


 苦笑を浮かべるフローさんに、


「冗談ですよ」


 俺はおどけて肩をすくめると、


「さあ、行くか!」


 仲間たちに声をかけた。



 俺は、……俺たちは旅に出ることにしたのだった。もっといろいろなものを見て、もっといろいろな経験を積み、腕を磨き、見識を広め、――もう一回り大きな自分になるために。


「はい」


 ネ子が笑顔で頷き、


「うんっ♪」


 モーが元気よく返事をし、


「そうじゃな」


 フローさんが静かに首肯する。



 ――そして、俺たちは歩き出した。



「ノーマねーちゃんと博士、どうしてるかなぁ」

「元気でやってるんじゃねーのか?」


 街を振り返りながら呟くモーに――その背には例の熊リュックがある――俺は笑みを浮かべてやる。


 そう、博士はちゃんと生きていた(兵器の自爆は俺の読みどおり追及を欺くためだったらしい)(コックピットは頑丈に作ってあるって言ってたしなー)(街の方がひと段落着いてすぐにペンダントで交信しながら博士の居場所を捜しだし、取り成すように王様に進言し受け入れられたのだった。やれやれ)。


「巨大兵器の研究はできなくなったし、“秘密研究所”の方は閉鎖されちまったけど、能力を認められて王家お抱えの発明家になったんだ。意外に、喜んでんじゃねーか?」


 もっとも、そのことは公には秘密だし(あんだけ派手に暴れちまったしな)、王家から派遣された監視役つきらしいけど、研究資金はちゃんとでるし、新しい研究所も別の場所に与えられたし、丸く収まったんじゃねーのか?(そうそう。やっぱり、あの巨大破壊兵器の資金源は、主流派ではない有力貴族の一グループだったらしい。でないと、あんなデカイものそうそう作れないよなー)(博士の登用には、そこらへんの口封じ的な意味合いもあるらしい)(秘密を握ることで有力貴族たちの力を抑え、いざという時の証人たる博士がそいつらに“口封じ”されるのを防ぐって理由も当然あるんだろうけどな)。


「でも、ノーマねーちゃん、寂しそうだったよ? ……もっと、ちゃんとお別れしてきた方がよかったんじゃない、にーちゃん?」


今度は俺の方に向き直って、少しだけ責めるような口調で言うモーシンに、


「……これ、なーんだ?」


 俺は首から下げているものを服の下から取り出して見せてやる。


「あれ? それって、ノーマねーちゃんのペンダント……?」

「さーて、ねー」


 俺は、はぐらかすように言って、もっとよく見ようとするモーのやつから隠すように服の中にそれをしまいこむ。


「改良版らしいから、かなり遠くからでも会話できるみたいだぞ。これで、国に何かあれば駆けつけることもできるし…」


 言いかけて俺は、駆けつけるためのアイテム(王家農場の一件の時に使った例の赤いロープを今度はちゃんと人数分もらってきたのだ)を保管しているネ子の様子がおかしいのに気がついて、


「……どうした、ネ子?」


 彼女に話しかけた。


「……別に」


 ぷいっとそっぽを向いて、歩みを速めてしまうネ子。


「お、おい、ネ子?」


 俺は慌てて追いかけるが、歩く速度を早くしたり遅くしたりと絶妙に変えるネ子と並んで歩くことが全くできないので会話もままならない(ホント、何でこういうのだけは得意なんだか、お前さんは……)。


「……俺、また何かやっちまったのか?」(トホホ~)

「さあね~♪」


 苦笑いして頬を掻く俺に、モーのやつがにやりと笑い、


「だいじょうぶっ! ねーちゃんにフラれたら、おいらがもらったげるから♪」


 胸を張って、宣言する。


「モ、モー?!」


 いや、その言葉自体は、嬉しい。……嬉しいんだが、今の状況じゃ、余計に事態を悪化させるだけなんじゃ……?


「コウのやつは押しに弱そうじゃからな。わしも、ひとつ、あたっくしてみるとするか……」

「な、なに、フローさんまで、そんなことしみじみ言ってるんですかっっ?!」


 ネ子の気を引こうとしてるのは分かるんですが、やっぱり、この状況では逆効果なんじゃ?


「ふーんだ」


 案の定、さらにネ子が足を早めてしまう。


「お、おい! 待てよ、ネ子!」


 逃げるネ子、追いかける俺、じゃれつくモー、後から俺たちのことを見守ってくれるフローさん。 



 ……まあ、たまにはこんなふうに息抜きして楽しむのもいいかもしれない。



 ――この世界で生き抜くためには。



 そんなことを思いながら、俺は、仲間たちと“ふざけて”しかし“真剣に”戯れ続けたのだった。

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イキぬけ、 @nanato220604

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