第二章 ドクターの異様な熱情とかなのか、多分

 暇な昼下がりのある日。


 酒場でマスターと駄弁っていた俺の目に(さすがに真っ昼間っから酒飲んじゃいないが、やることなくて退屈してたんだよー)、酒場に入ってきた緑の長髪が綺麗な飛び切りの美女の姿が飛び込んできた。……格好からすると、メイドさんぽいな。こんなところにメイドさんが何の用だ?(「こんなところで悪かったな」byマスター)


「あの……(もじもじ)」

「はい?」


 一番近くにいた俺にメイドさんが話しかけてくる(ん? 何か今、ヘンなのが聞こえたような……?)。


「ちょっとお聞きしますが、……チョトツ・モーシン様は、こちらにいらっしゃいますか……?(おずおず)」


 やっぱり、何か聞こえた気がしたが、気のせいか……?


「えーと。……あんた、モーの知り合い?」

「は、はい(こくこく)」


 やっぱ、何か余計なもんが聞こえる気がするんだが?


「……おーい、モー! お前にお客さんが来てるぞー!」


 取りあえずは気のせいっつー事にしといて、俺はモーを呼んだ。


「はーい♪」


 元気のいい返事と共に酒場の二階の自分の部屋からぴょこりとモーが顔を出し、


「あれ~~~?」


 うれしそうな声を上げながら、二階から階段の手すりを使って滑り下りてきた(つーか、危ないだろ、モー?)(まったく、何度言っても止めねーんだから、お前は)(苦笑)。


「ノーマねーちゃ~~ん! どうしたの~?」

「モーシン様、お久しぶりです(ぺこりっ)」


 モーに勢いよく抱きつかれながら、メイドさんが器用に一礼する(って、やっぱり、ヘンなこと言ってるよな、この人……?)。


「うん! お久しぶり~」


 モーのやつには聞こえてないようだな(俺だけ、なのか、ヘンなのが聞こえるのは?)。


「知り合いか、モー?」

「うん!」


 満面の笑顔を浮かべたモーは俺の方に振り向いて、


「ヘンな発明家のおじーちゃんとこのメイドさんだよ~」


 メイドさんのことを紹介(?)する。


「……へぇー」


 どういう経緯で知り合ったかは知らないが、発明家と知り合い、か(『ヘンな』という枕詞が気になるけど)(何気に交友関係広いな、お前)。


「自己紹介させていただきます(どきどき♪)」


 モーの言葉を受けて、メイドさんが口を開く(うーん。擬音?が、気になるなー)。


「わたくし、この街の発明家、通称、博士こと、ドクター・ストレンヂの助手を務めております、ノーマ・ルーと申します(ノーマとお呼びください♪)。以後、お見知りおきを(ぺこり☆)」

「こちらこそよろしく。ってやっぱり、(ぺこり☆)、って口で言ったよ、この人?!」


 思わずツッコんでしまう俺に、


「ノーマねーちゃんのいつものクセだから、気にしなくていいよ、にーちゃん♪」


 モーがフォローするように言ってばしばしと俺の背中を叩いてくる(イテテ)。


(癖、ねぇ……?)


 呆れたような視線を向ける俺に、


「(どきどき♪)」


 メイドさんが緊張したように(って、口で「どきどき」言ってるよ……)やや表情を固くするが、


「で、今日はどうしたの~? ここに来たことって、今までなかったじゃん?」


 モーはいつもとまったく変わらない調子で気さくに話しかける。


「あ、はい(こほん!)。あの、実は、是非、モーシン様のお力をお借りしたいテストがございまして…(もじもじ)」

「あ~! ひょっとして、例のアレかな?」


 思い当たる節があったのか、すぐに聞き返すモーに、


「ええ、例のアレ、ですわ(ウムウム)」


 メイドさんは我が意を得たりと(ウムウム)と頷く(うう、やっぱ気になるなー)。


「おっけ~! じゃ、すぐ支度するからちょっと待ってて~♪」


 モーは言い残して二階の自分の部屋へと戻っていく。


「はい(おっけーです♪)。無理なお願いを快く引き受けてくださって感謝の言葉もありません(感謝♪)」

「言ってるじゃねーかっ!?」


 こらえきれずにまたツッコんでしまう俺に、


「あ、にーちゃーん♪」


 階段の踊り場で振り返ったモーが言う。


「何だ?」

「にーちゃんも一緒に行く?」

「いいのか?」

「うん♪ いいよね、ノーマねーちゃん?」

「少々、お待ちになってくださいませ、モーシン様(ぺこりんこ☆)」


 一礼したノーマさんは(ってか、ぺこりんこ☆って何だ、ぺこりんこ☆って?!)、胸元のペンダントを両手で顔の前に捧げもつと、おもむろに咳払いを始めた。


「おっほん、ごほんっ!」


 ひとしきり声の調子を整えると、ノーマさんはペンダントに向けて話し始める。


「(あー、あー、ただいま、まいくのてすとちゅう。本日は晴天なり。ニイタカヤマにたまにはノボレ、トラトラトラふぃっく。…博士、博士、聞こえますか? こちら、ノーマ・ルーです)」


 小声だけど、しっかり聞こえてるぞ? ホントに大丈夫なのか、この人?(あ、それともそういう発明品なのか、このペンダント?)(発明家のメイドなんだもんな、一応)


「(コソコソ、ええ、首尾よく、被験者は確保しましたが、問題が発生。保護者と思しき人物の同行許可をモーシン様から求められましたが、いかがいたしましょう?)」


 何気に、『被験者』とか『問題』とか、ある意味、物騒な単語が飛び飛び出してるなー(つーか、俺はモーの『保護者』じゃねーんだが)(じゃあ何?とか聞かれると答えにくいなー)(『兄貴』じゃ、確かに保護者みたいだし、『友達』で間違ってないけどもっと親密だし、そうだな、やっぱり『仲間』

が一番正確かな?)。


「(はい、はい。かしこまりました。では、そのように)」


 会話を終了すると、ノーマさんは(ぺこり♪)と一礼してペンダントから手を離す(てか、また、(ぺこり♪)って口で言ってるよ……)。


「お待たせいたしました、モーシン様」

「どうだった?」


 期待を込めた眼差しで見つめるモーに、


「博士の許可が出ましたので、よろしいですよ(うふふ☆)」


 ノーマさんがにこやかに一礼して告げる(最後の含み笑いっぽいのが気になるんだがな、俺としては)。


「やった~! 良いってさ、にーちゃん」

「お、おお…」


 ノーマさんの事を観察していた俺は、モーに声をかけられて驚いた(いや、別に、美人のメイドさんにみとれてたわけじゃないぞ?)(苦笑)。


「じゃあ、同行させてもらうぜ?」


 確認を取る俺に、


「はい。どうぞ、ご自由に(にっこり♪)」


 ノーマさんはスカートの端をつまんで優雅に一礼してくる。…何だか、何気に気になる笑い(にっこり♪)だが、そこのところは敢えて無視して、


「どうやって許可をとったんだ?」


 意地悪く聞いてみる俺に、


「それは秘密です♪(うふふ☆)」


 ノーマさんは胸元のペンダントを握り締めて得意げに微笑んだ。…いや、まあ、そのペンダントで連絡取ったのはバレバレなんだがなー(汗)。


「ほらほら! にーちゃんも早く支度してよ~」

「お、おう」


 急かしてくるモーに俺は返事を返して、外出の準備をするべく二階の自分の部屋へと向かったのだった。





「まだ遠いのか?」

「いいえ(ふるふる)。もう少しです(ガンバ♪)」


 俺の問いに、ノーマさんはそう言って笑顔を浮かべた(しばらく前に一度そう言われてからも、結構、歩いてるんだけどなー)(苦笑)


 ノーマさんに案内された俺たちは、郊外へと足を運んでいた。半日とは言わないまでも、かなり街から離れたところに彼女の言う、“博士の秘密研究所”はあるらしい(ってか、“秘密”なのに部外者の俺に場所ばれていいのか?)(汗)



 ――何てことを思ってた俺に、



「着きました(お疲れ様です♪)。あちらが当“秘密研究所”でございます☆(じゃじゃん♪)」


 ノーマさんが到着を告げると建物を手で指し示す(今度はホントに近かったか)(微苦笑)。


「へえ……」


 ノーマさんの指し示す“研究所”を見て、俺は軽い驚きの声を上げた。


「結構、デカいなー」


 ちょっとした貴族の館ぐらいの大きさがある。窓のある居住区よりも、鈍く光る巨大な鉄製の歯車みたいなのがごちゃごちゃはみ出してる窓のない円筒形の区画の方が大きいのが発明家の屋敷って感じだな(あの中で発明とやらをしてるんだろうか?)。


「いえいえ、それほどでも(えっへん!)」


 謙遜してねーじゃん。つーか、むしろ、威張ってんじゃねーか?(おいおい)。


「そんなところで立ち止まってないで、早く、行こうよ~」


 呆れていた俺を、先行していたモーが呼ぶ。


「お、おー……」


 俺は返事をして歩き出した。ノーマさんと顔見知りのモーのやつはそんな感慨とは無縁のようだな(つーか、モー自身がそういう細かいところにはまるでこだわらない性格なせいもあるかな?)。


「了解いたしました、モーシン様(ぺこりんりん♪)」


 ノーマさんも返事を返して、俺たちの案内役へと戻ったのだった(ううー、ツッコみたい、ツッコみたいぞ! (ぺこりんりん♪)ってその台詞っ!)。





「こちらが実験場となります(ウフフ☆)。足元にご注意くださいませ(おっと♪)」


 言いながらコードに足を取られそうになってノーマさんがよろけるが(実験場に出入りし慣れてる人がそれじゃ、俺なんかは相当気をつけないと転びそうだな)(って、うお、頭をパイプにぶつけそうになったぜ)。


 少なくとも応接間でお茶ぐらい振舞われるだろうと思っていた俺の予想は裏切られ(いや別に、来客のもてなしをされたかったわけじゃねーけどさー)、テストの場となるらしい実験場へと俺たちは即座に案内されていた(人々の役に立つものを発明することを目指す発明家らしく?、見事に実務優先だな)(まあ、あくまで俺のイメージだけど)。


「こちらが、今回、モーシン様にテストしていただく機体となります♪(じゃじゃーん!)」

「へー」


 そんなに大したことは無いだろうと高をくくってノーマさんの指差す方に顔を向けた俺だったのだが、


「って、うおっ!?」


 思わず驚きの声を上げてしまったのだった。



(な、何だ、この巨大な黒い鉄の塊はっ!?)



 俺の視線の先には、大人の身長の五倍近い大きさの巨大な人型の姿があった(見たところ鉄製みてーだが、こんだけデカいのを作るのにどんだけ金かかってるんだか)。あくまで推測なんだが、人型なところを見ると、こいつが動いたり歩いたりするってことなのか?(つーか、モーが呼ばれたってことは、こいつとモーが戦ったりするってことなのか!?)


「へえ~。また、おっきくなったね~」


 感嘆の声を上げるモーに、


「また?!」


 俺は思わず振り返ってしまう。


「……お前、ひょっとして、ここに来るたびにこんなのと戦ってたのか!?」

「まあね~」


 モーはこともなげに頷いて、


「弱い敵と戦うよりか、全然、修行になるよ~♪」


 にこり、と白い歯を見せた。いや、まー、そりゃ~そーだろーけどよ~(並みの戦士じゃ修行どころか、全然歯が立たなくて瞬時に蹂躙されてるぞ、きっと)(汗)。


「テストの前に、あらかじめ注意事項(仮)を申し述べて起きますが(おっほん!)」


 ノーマさんがもったいぶった口調で口を開く(って、何だ? (仮)の注意事項って?)。


「実験中、この機体と相対した際、攻撃が回避できなかったり、または予期せぬ事故などにより、ムチ打ちになったり大怪我したり半身不随になったり、最悪の場合は死亡する危険性もありますのでお気をつけくださいませ(ペコリンこっこ♪)」

「おいおいおいおい!」


 何だよ、その物騒な注意事項(仮)はっ!?


「なあ、モー?」

「なに、にーちゃん?」


 顔を向けてくるモーに、俺は思い切って言う。


「戦うの、止めた方がよくないか……?」

「あ、そっちか~」


 モーはちょっとだけ『予想外~』という顔をして、


「また、ノーマねーちゃんが口で、(ペコリンこっこ♪)って言ったことかと思ったよ~。さっきの注意事項は、いつも言われてるから、大丈夫だいじょーぶっ♪」


 あっさりと俺の危惧を笑い飛ばす(いやさ、それは、確かに思ったよ、俺は。でもしかし、この場面はそーいうとこにこだわってる場合じゃないだろ?)



「良く来てくれた! 前途洋洋たる若者の諸君……!」



 その時、白衣を着て眼鏡をかけた白髪の老人が俺たちの前に姿を現した。この人が、博士こと、ドクター・ストレンヂか?(諸君ってことは、俺も一応、数には入ってるってことか)。


「はあ、どうも」

「おじーちゃん、久しぶり♪」

「今度こそ、お前さんに勝てる機体を発明したぞ! うおおっ! ワシは天才じゃっ!」


 うわ、自分で自分のこと天才って言っちゃってるよ、この人(友達はよく選んだほうがいいぞ、モー?)(友達かどうかは知らないけど)(苦笑)。


「資金不足のため、ツノはオプション装備、色もレッドではないが、前のバージョンに比べて反応速度は二倍半近くアップじゃっ! うおおっ、認めても良いぞ! 年を取った功は亀の甲にも劣らぬということをっ! 開発中のブースターと合体すれば空も飛べる予定なのじゃあああ!」

「はぁ、そーですか」


 やたらとテンションが高い爺さんは取りあえず放っておくことにし、俺は、目を輝かせ機体に見入っているモーに話しかけた。


「なぁ、モー?」

「なに、にーちゃん?」

「お前、ひょっとして、この爺さんの発明品、ぶっ壊しまくってたのか?」

「人聞きが悪いよ、にーちゃん♪ このおじーちゃんが、『強くて俊敏な武闘家に勝てる発明がしたい!』って言うから、おいらはそれにお付き合いしてただけだよ、本気で♪」

「……本気で、か……」

「うん♪」


 パーティ一1の攻撃力と素早さを誇るお前が本気を出すってことがどれほどのことなのか、お前は分かってない! いや! そうに違いない!(断言)


「この発明が実用化できれば、それ即ち! 世界はワシのものなのじゃあああぁぁぁ~~~!」

「手に入れてどうするんですか、世界なんて(ヤレヤレ)」


 掛け合い漫才(?)してる博士とノーマさんは放っておくとして、


「……なあ。そろそろ帰らないか、モー?」


 やっぱりモーのことが心配な俺は冗談めかして言ってみたのだが、


「大丈夫だよ、負けないから♪」


 モーは、パシン!と自分の手のひらを打ち合わせて、不敵に微笑んだ。すっかりやる気だな、お前(ホントーに、強い相手と戦うの好きなんだなー)。


「危ないと思ったら、割って入るからな?」

「心配症だな~、にーちゃんは♪」


 モーはニヤリと笑い、拳を突き出してきた。


「おっと……!」


 俺も笑いながら、モーの拳を手のひらで受ける。パシン!と小気味いい音がした。


「大丈夫だから、心配しないでいいよ♪ ……でも、」

「でも?」


 見つめる俺の前で、モーが照れたような笑みを浮かべる。


「――ありがと、にーちゃん」

「……おう」


 くしゃりとモーの頭を撫でてやった俺は、


「まあ、そういうことで、ちゃっちゃっとテストしちゃってください」


 ドクター・ストレンヂにさくっと告げた。


「ふおっふおっふおっ! 良くぞ言うた、若いの!」

「はあ……」


 テストされるのは俺じゃなくてモーのやつですからね?(一応言っておきますけど、心の中で)(倒置法)。


「そうじゃっ! 見学は初めてのお主に、こいつの説明をしておこう!」

「あ、いや、そんなのどうでもいいですから、テストの方を」


「こやつの名は、世界征服用巨大人型機械神州神船人民生活安全第一国家公安泰山北斗……」

「聞いてねーよっ?!」(つーか、何ですかその名称?は)

「安心立命七転八倒捲土重来栄枯盛衰岡目八目快刀乱麻我田引水奇想天外驚天動地…」

「うわ、何故に四文字熟語連チャン?」(しかも、あんまり関連なさそうだし)


「疾風怒涛奇奇怪怪自暴自棄五里霧中大義名分巧言令色言語道断獅子奮迅……」



 ――その後も博士の弁舌は続く続く。……説明に入る前の口上にしては長すぎると思うんですがー?(汗)。



「……ねー、にーちゃん。これって、いつまで続くんだろ?」(ひそひそ)

「さあな。…やっぱり帰らないか?」(こそこそ)


 小声で話しかけてくるモーに、俺は小声で言葉を返す。


「ここまで来たからには戦ってみたいんだけどねー、おいらは」(ひそひそ)

「そうか。……いっつも、こんな感じなのか、この博士は?」(ひそひそ)

「うーん。まーね~」(ひそひそ)

「今日じゃなくちゃ駄目ってわけでもないみてーだし、今日は帰らないか?」

「博士、いい加減にしてください(ズビシ)」


 しびれをきらしたノーマさんのツッコミがもろに博士に入る(って、うわ、ツッコミの音まで口で言ったよ、この人)。


「う、うむ。そ、それではさっそく実験を始めようかの」


 ようやく我に返った(?)博士の宣言で、実験は開始されたのだった。





『それでは、行きますよ~(どきどっきん♪)』


 世界征服用巨大人型機械(後略)に乗り込んだノーマさんの宣言に(…ってか、何だよ、その、(どきどっきん♪)って)(俺も、飽きずに律儀にツッコんでるなぁ)(微苦笑)、


「いつでもいいよ~♪」


 モーがお気楽な調子で答えて、身構えた。……つーか、何だか、すごい絵だ。なんつーか、『鋼鉄巨人兵士』対『子ども武闘家』の対決ッ!みたいだ(って、そのまんまか……)(苦笑)


『行きま~す(ええ~い♪)』


 一歩踏み込んでくる世界(中略)巨大人型機械(後略)のデカイ足先を軽くかわして、


「えいやっ!」


 ジャンプしたモーが(前略)巨大人型機械(後略)の膝の辺りに強烈な飛び蹴りをかます。……うおっ。ちょっとはぐらついたけど、ほとんどダメージはないみてーだな(どういう強度の装甲なんだか)。


『捕まえちゃいますよ~(えーいっ♪)』


 手を伸ばしてモーのことを捉えようとする巨大人型機械(仮)だったが、


「へへ~んだ♪」


 素早い身のかわしでモーはその巨大な手を避ける。


「鬼さん、おいで♪ 手の鳴る方へ~♪」


 モーは、まるで挑発するかのように歌いながら、巨大人型機械(仮)の手の届く範囲にまとわりつく。モーのやつ、追いかけっこを楽しんでやがるなー(見ている身としては、はらはらしっぱなしなんだがなー)(冷汗)。


『動かないでくださいね~。間違って踏んじゃわないように(えーいっっ♪)』


「やだよ~♪ その手には乗らないよ~♪」


 隙を突いて、モーの一撃が巨大人型機械(仮)を襲うが、やっぱり、有効な打撃とはならないのだった(今の攻撃は、ノーマさんが乗っている辺りにヒットしてたけど全然焦ったふうもないしな、彼女)。



 ――鋼鉄巨人とお子様武闘家の追いかけっこ?は、その後もしばらく続いた

のだった。






「お疲れ様でした、モーシン様(お疲れお疲れ♪)」


 人型機械(略称)から降りてきたノーマさんは、労うようにモーに頭を下げた。どうやら、テストはこれで終わりのようだな(お互いに有効な攻撃をすることはできず、引き分けといった雰囲気だ)。


「むむう! まだ、お前さんを倒すまでには至らんかっ!」


 数値のチェックをしている博士が悔しそうに呻いた。


「えへへ~。まだまだ負けないよ~。おいらも伊達に修行はしてないしね♪」


 鼻の下をこすりながらモーは得意げに言う。


「それでこそ倒し甲斐があるというもの! おおう! ますます意欲が涌いてきたわい!」

「精進です、博士☆(ぱちぱちぱち♪)」


 似合いのコンビだねぇ、お前さんたち(ある意味、うらやましいぜ)。


「ねえねえ、おじーちゃん」

「なんじゃ?」


 上目遣いに話しかけるモーに博士が振り返る。


「えーと、……おいらも乗せてくんない?」

「お、おい、モー!」


 あまりにも厚かましい(かもしれない)モーの申し出を俺はいさめようとしたのだが、


「ほう! こいつに乗りたいとな?」


 博士はまんざらでもない口調で聞いてくる。


「うん♪」


 屈託無く言うモーに、


「うむ、いいじゃろう」


 ドクター・ストレンジは事も無げにあっさりと頷いたのだった(あ、いーんですか、そーですか)。






『じゃあ、いっくよ~♪』


 巨大人型機械(仮)に乗り込んだモーが宣言して動き始める。って、モーが乗ったら動きがシャープになったな……?


「へー。動きが全然違うもんなんだなー」


 ノーマさんが乗っていた時よりも人間に近い動きをする巨大人型機械(仮)に、思わず俺は感嘆の声を上げてしまう。


「当然です(えっへん)。何せ、博士の発明ですから(うふふ♪)」


 俺の言葉を聞きつけたノーマさんは、得意げに言って胸を張る。


「あの機械は、モーシン様の動きを元に開発されたので、搭乗者がモーシン様なら十二分にその能力を発揮できるのですわ(きらーん☆)」

「へぇー」


 目を輝かせながら言うノーマさんに、俺は気のない相槌を打ちつつ、


「……あの、ちょっといいか?」


 タイミングを見計らってノーマさんに話しかけた。


「はい、なんでしょう?(どきどき♪)」


 ちょっとだけうかがうような上目遣いで見つめてくるノーマさんに(まあ、“言葉”通り、本当にどきどきしてはいるみたいだけどさー)、俺は率直な言葉で告げてみる。


「わざわざ、口で言わなくても、いいんだぜ?」

「え……?」


 ノーマさんは驚いた表情を浮かべ(あ、ヘンな台詞忘れてる)、


「そのことでしたか(嗚呼手…)」


 悲しげな面持ちで目を伏せた(って、ヘンな台詞は速攻で復活してるなー)(苦笑)。


「ああ。無理して賑やかにしなくても、俺は別に退屈したりしないぜ? こうやって実験を見てるだけでも結構楽しいしな」


 気遣いの笑みを浮かべる俺に、


「あの、……ここだけの話なのですが……(ひそひそ)」


 ノーマさんが意を決したように話しかけてくる。


「何?」

「私、男性の方に、『感情表現が薄くて、クールすぎる』と言われたことがありまして(こそこそ)」

「うん?」

「それ以来、感情表現に自信がないので、つい、口に出して言ってしまうようになってしまったのです……(もじもじ)」

「そうだったのか……」


 確かに、表情だけを見てると、クール(というか、無表情)に見えなくも無い、な。


「はい。不快だと仰るのなら、コウ様の前では控えます……」


 ノーマさんはそう言って、ちょっとだけ辛そうに微笑んだ。……あ、今はヘンな台詞は言わなかったな。やっぱり、普通にしゃべることもできるのか(驚いた時なんかは素で付け忘れることもあるみてーだがなー)。


「……いや。やっぱいいや、そのままで。そっちの方が面白いし」


 ノーマさんのヘンな台詞が何だか些細なことに思えてきた俺は(単に、慣れちまっただけか?)(苦笑)、彼女にニヤリと笑いかけた(『面白い』と言うにはホントは語弊があるかもしれないけどな)。



「えっ……?」



 俺のことを一瞬だけ驚いたように見つめた後、


「――ご理解、感謝いたします、コウ様(ふかぶか~)」

 

ノーマさんはとても嬉しそうに笑って深々とお辞儀をした。


「このご恩は、何かの形できっとお返しいたします。ええ、それはもう絶対に!(ウムウム)」

「そんな、感謝されるようなこと、してねーって、俺は」(何故か倒置法)

「いえいえ、それでは私の気が済みませんので(テレテレ)。是非是非、何かお申しつけくださいな、コウ様(どきどきどき♪)」


 期待するような視線を向けてくるノーマさんに苦笑しながら首を振ろうとし

た俺だったが(……下心なんて、これっぽっちもありませんけど、何か?)、


「あ、じゃあ。ひとつお願いがあるんだが、」


 急に脳裏にある考えが閃き、それを口にしてみることにする(いや、だーかーら、ヘンな下心じゃないってば)(謎)。


「何でしょう? 私にできることなら何でも(どきどきどき♪)」


 ……あ、何でもしてくれるんだ? ――って、だから、そういうことじゃないだろ、俺(恥)。


「ええと、……様づけで呼ばれるのは照れくさいから、止めてくれないか?」

「えっ……?」


 ノーマさんはちょっとだけ驚いた顔をした後(ヘンな台詞つけ忘れるほど驚いたのか?)、


「……そ、それはちょっと、ご期待には応えかねます(モジモジ)」


 手を胸の前でもじもじさせながらつぶやいた。


「どうして? 俺は、別に呼び捨てでも構わないぜ?」


 冗談めかしつつなおも畳み掛けてみると、


「も、申し訳ございません(あうあう)。お客様は様づけで呼ぶのがデフォルトですので、コウ様で許してください(ふかぶかぶか~)」


 ノーマさんは顔を真っ赤にしながら、本当にそれが彼女の精一杯であることを示すように深々と一礼した。


 このままいぢめてても楽しいんだが、そろそろ許してやるか(何だか、偉そうだな、俺)。


「分かったよ。今回は諦めとく」


 俺は肩をすくめて敗北宣言(?)したのだが、


「そうしていただけると、助かります(はふぅ~)」


 ほっとしたノーマさんの顔を見て、またいぢめたくなってしまったのだった(性格悪いなー、我ながら)。


「じゃ、“お客様”じゃなく、“お友達”になったら、もう一度提案してみっかなー?」

「そ、それは、……(あわあわあわ)」


 ノーマさんは言葉を探しまくったあげく、


「は、はい……(テレテレテレリン♪)」


 顔を真っ赤にして照れながら、頷いてくれた。



(……モーに付き合ってここに通うのもいいかなー)



 なんて考えた俺の前で、


「!」


 ノーマさんが不意に真顔に返り、


「失礼いたします!(とうっ!)」

「は?」


 俺の身体に身を預けるようにして押し倒してきた! 不意のことで対応できずにもろに押し倒されてしまう俺。


「ちょっ、ノーマさん?!」


 いきなり、こんなところでっ!? っていうか、順番が違う!(何?) っていうか、言行不一致のような?!!(大混乱中)。


 ノーマさんにのしかかられて焦る俺だったが、次の瞬間、



 ドウンッッッ!



 実験場をものすごい爆風が襲う!


「うおっ!?」

「危ないところでしたね(ふぅ~)。お怪我はありませんでしたか、コウ様?(どきどき☆)」


 俺のことを庇ってくれたノーマさんが覆いかぶさったまま聞いてくる。……こんな時でもヘンな台詞は出てくるのな(余裕あるんだかないんだか)。


「ああ、庇ってもらったから大丈夫だ。ノーマさんは?」

「ええ、大丈夫です……」


 ちょっとだけ苦しそうに顔を歪めるノーマさんを怪訝に思い、確認すると、


「って、怪我してるじゃねーか!」


 彼女の服の背中が破れて血が滲んでいるのを見つけて、俺は《キュアー(癒し)》を詠唱する。



【偉大なる[広大無辺の、力の持ち主で、ある]

  光の主神[光側の、筆頭神に、して] 

   アルディーン[秩序の、守り神たる、アルディーンよ]

    御身が力を[御柱の力を、癒しの、魔力に変え] 

     分け与えたまえ[敬虔な僕たる、我の手を通して、彼の者に、与えたもう、ことを、請い願う]】



 ノーマさんの傷が治癒するが、……あれ? 今、微妙に唱和の[声]が遅かっ

たような……?


「ありがとうございますです♪(ペコリーナ♪)」


 ここは、我慢! ガマンだ、俺!(いざとなるとツッコミたくなる性分なんだなー、俺)(苦笑)。


「! そういや、モーと博士は?!」

「大丈夫です。実験中の博士は予想されるどんな衝撃にも耐えられる強度の防護カプセルから実験をモニターしてらっしゃいますし、モーシン様の乗っていらっしゃるコックピットもそれと同等あるいはそれ以上の強度に設計されていますので(ウフフフフ☆)」

「最後の含み笑いが気になるけど、今はノーマさんの言葉を信用する以外にないよーだな」

「そうしていただけるとうれしいです(ペコリ、ぽっ)」

「で、いったい、何が起きたんだ?」

「どうやら、何者かの襲撃のようです。私が把握している情報の範囲内で申し上げますと、実験機器の故障等による爆発ではなく、世界征服用人型機械(後略)をターゲットに唱えられた〈魔術師〉系の《炎の魔法》のようです。しかも、魔力を注ぎ込んで魔法の威力を最大限に強化し対象を無制限にした、無差別な攻撃のようです(プンプン)」

「どうやって把握したかは分かんねーが、たいした分析力だな」

「いえいえ大したことはありません(テレテレ)。こう見えても情報収集と分析は得意分野ですので(エッヘン!)」


 全然、謙遜になってないが、まあ、いいか。実際すごいし。


「ったく、どこのどいつだ。こんなひでーことをしやがったのは!」


 怒鳴った俺に答えるように、どこからともなく高笑いが聞こえてくる!



「ハッハッハッ! また会ったな。〈神官戦士〉!」



「! この声は……!」


 聞き覚えのある声の方に頭を向けると、……いた! 見覚えのあるド派手な赤い髪をした男が。手下らしき黒づくめの男たちも四人いる。


「この前の、あんにゃろーかっ!?」

「ハッハッハッ。貴様とはつくづく縁があるようだな」

「お前なんかとの腐れ縁なんて慎んで辞退させていただくぜ。今度は何の用だ?」

「おい! お前なんかとか言うな!」

「だって、名前知らねーし。つーか、言わなくていいぞ、知りたくないから」

「そこまで言うなら、教えてやろう」

「……お前、人の話聞いてないってよく言われるだろ?」

「我が名は、ワーキヤーク・ダ・ヨネー! 無断で愛称つけて、ヨネ様♪とか呼ばないでねっ!?」

「いや、呼ばないから。ってか、何者なんだ、お前ら?」

「だから、お前とか言うな! 我が名は、」

「あー、はいはい。で、ヨネーさん。あなた方はいったい何なんですかー?」

「フッ。聞いて驚くなっ!」


 ……さんづけはいいんかい。


「この国の王家の打倒を目指す者だ! 私欲のままにこの国を牛耳る奴らなどいなくなった方が綺麗さっぱり、『ああ~、い~い気持ち♪』になると思わないか? いや、思うに違いない!」


 こんなところで反語用法使って演説かよ。


「……いや、別にそーは思わねーけど? 俺たちの役に立ってるところもあるし?」

「我々は、そんな君たちの代弁者として、日夜、破壊活動に勤しんでいるのです♪」

「俺の言うことは無視かい。ってか、論理飛躍しすぎ。つーか、あんたらの方が迷惑」

「というわけで、そこの巨大人型兵器は我々が貰いうけ、破壊活動に使用させ

ていただきます!」


 ホントに、俺の言うことなんて聞いちゃいないのな、お前(嘆息)。



『なんじゃと!』



 突如、実験場に響き渡るドクター・ストレンヂの声。


「あ、博士か?」

「ご無事でしたか、博士!(はふぅ~~~)」


『巨大人型兵器! シンプルにしてディープなその名称! さっそく採用させていただこうかのう!』


 ……あ、そっちですか。そーですか。


「了解いたしました(記・憶・完・了♪)。世界征服用人型機械(後略)は、以後、巨大人型兵器と呼称させていただきます(承・認☆)」

「……もう、ツッコむ気力もないが、取り合えず、強奪だけは阻止させてもらうぜ!」

「でっきるかな~? はて、ふむむむ~ん?」

「やってみせる!」


 にらみ合う俺たちの横で、



 ぐおおぉぉぉぉぉん!



 と、突如として動き出す巨大人型兵器!



『あ、よーやく動いた~♪』



 そして、聞こえてくる仲間の声。


「モー! 気がついたのか?」

『あ、にーちゃーん♪』


 巨大人型兵器はまるでモーシンそのもののような動きで、俺の方に顔を向けた。


『ううん。おいらは大丈夫だったんだけど、機械が動かなくて焦っちゃってたんだよ~♪』

「そうか。無事でよかった……」


 胸をなでおろす俺に、


「おそらく、強い衝撃のせいで機械のセンサーにエラーが生じ、回復に時間がかかったものと思われます。予測の範囲内でしたが(ふぅ~)」


 安心させるかのようにノーマさんが解説を加えてくれた(……んだが、最後の何気ない安堵のため息の意味が気になるぞ~!?)(ま、まあ、この際、置いとこう)。


「ほう。あの爆発で損傷がないとはたいしたものだ。ますます、欲しくなったぞ」


 ニヤリと笑うヨネーに、


『お褒めに預かって光栄じゃが、君のような男には娘はやれんのう』


 博士の声が答えたんだが、……はぃぃ?(何だよ、“娘”って!?)


「そんな、お義父さん?!」

『ええい! 既に義父さんとか呼ぶな!』


 何で、義理の息子と義理の父ごっこ(おままごと)やってんのかは知らねーが、取り合えず、やつらには渡す気がないようで安心したぜ(ひょっとして、やつらの依頼で製作してたんじゃねーかとか嫌な想像しちまってたからな)。


「とまあ、冗談はさておき、奪わせてもらうぜ?」


 俺の方に振り返って、ニヤリと笑いながら宣言するヨネーに、


「させねーよ!」


 俺は不敵に笑って見せた。多勢に無勢だが(戦力として未知数のノーマさんは取りあえず数に入れないでおく)、ここで引くわけには行かねーし、な(それに、「護る戦い」が得意だってのはこの前の一件でやつらには証明済みだ)。


『にーちゃーん♪ 助けに来たよ~』


 睨み合う俺たちの方に、ズシン!ズシン!と地響きを立てながら巨大人型兵器が歩いてくる(威圧感のある巨体が何気に頼もしく感じるぜ!)。


「モー、サンキュ……」


 巨大人型兵器を見上げて俺は、モーのやつに礼を言いかけたのだが、


「って、うおっ!?」


 危うく踏み潰されそうになって、危うく巨大人型兵器の足から身をかわす。


「あぶっ、あぶあぶっ」

『ゴメ~ン、にーちゃ~ん♪』

「き、気をつけろ、モー!」

『だって~、まるで人がマメつぶのように見えなきにしもあらずなんだも~ん

♪』


 モーの口調がなんか変わってる?! 何か、あったのか!?


「はっ、いけませんわ(ぽむっ)」

「何が?!」


 はたと手を打った(いやまあ、口でも言ってるんだけどさー)ノーマさんを俺は思わず振り返ってしまう。


「きっと、モーシン様の精神は、巨大人型兵器を操作する副作用に犯されてしまったのですわ!(ウムウム)」

「な、何だよ、そりゃ!? 搭乗者の精神に異常が生じるような危ない仕組みとか、使ってるのか?」

「いえいえ(ちっちっちっ)。手っ取り早くかつ簡略かつ平素な言い方をすれば、」

「充分まどろっこしいけど、何?」

「モーシン様は俗に言う、『気が大きくなっている』状態にあるのですわ。何せ、視点とパワーが違いますから(ウフフフフフ☆)」

「……あっそ」(何だよ、びびって損した)(ため息)。


『いっくよ~♪ って、あれれ?』


 攻撃に移ろうとした所でぐらりとよろける巨大人型兵器。


「ど、どうしたー、モー?」


 慌ててノーマさんの手を引っ張って距離を取る俺の前で、



『あわ、あわわわわ~』



 足をもつれさせ、巨大人型兵器は倒れた!(あっぶねぇぇー!)


「うわっ、モー?!」

「あらあら(オヤオヤ)。威力のある攻撃を意識するあまり、バランスを崩されたようですね(ヤレヤレ)」

「ちっ! 現時点では兵器としてあまり役に立たないようだな。引き上げるぞ」


 舌打ちしたヨネーが部下に撤収の合図を出して身を翻す。


『役に立たないとはなんじゃっ! 仮にもワシの発明した機械(むすめ)じゃぞ!』

「待て、ヨネー!」(博士のことは放置だ、放置!)


 呼び止める俺の声に振り向き、ヨネーはニヤリと笑った。


「ふっ、〈神官戦士〉よ。機会があれば、また会おう! ……おっと、この巨大人型兵器、略して“機械”のことじゃないぜ?」

「いや、そんなの誰も聞いてないから」(いや、ホントに、まったく、これっぽっちも)

「ハッハッハッ、さらばだ! 今度は俺のサイン入り色紙を十名の方限定でもれなくプレゼントするぜ!」

「いらねーよ!」(いや本気の本音のマジの大マジで)


 去っていくヨネーのやつに思いっきりマジで叫んでやったが、ものの見事に無視されたよ、まったく(ほんとーに、人の話なんてこれっぽっちも聞いてないのな、お前)。……っと、いかん。あんなやつのことなんか構ってられるか。今はモーを助けるのが先決だ。


「モー! 大丈夫か?」


 仰向けに倒れた巨大人兵に駆け寄ると(間近で見るとますますデカい。こんなの悪用されちまったら、止める自信ないぞ、俺?)、ハッチがある場所へとよじ登る。



「いたた~」



 ハッチが開き、モーが顔を出す。


「モー! 無事か!?」

「うん、だいじょうぶ♪」


 《魔法》で傷を癒す準備に入った俺にモーが、「だいじょうぶだよ~♪」と笑顔を見せる。


「ちょっと頭をぶつけちゃったぐらいで、どこもケガしてないから」

「そうか…」


 俺は頷きつつ、モーの頭をさわって出血や腫れがないことを確認する。


「くすぐったいよ、にーちゃ~ん♪」


 頭をさわられるのがこそばゆいのか、モーが軽く身をよじるが、逃げ出したりはしない。結構、気持ちいいのかもしれない(髪とか撫でられるの好きみたいだしなー)。


 続いて、俺は、人差し指を一本立て、「人差し指を見ろよ~」と言いながらそれを左右に振り、モーの目の様子を観察する(人差し指を追う瞳の動きを確認するためだ)(ぶつけた場所が場所だけに慎重に診ないと…)。


「……大丈夫そうだな」


 どこにもおかしなところはないと俺は判断した(医者じゃないけど、怪我人ならたくさん見てるから、そんなに酷いミスはしない、はずだ)。


「だから、だいじょぶだって言ったじゃん。まったく、にーちゃんは心配症なんだから~」

「わ、悪かったなー」(ひとりで大騒ぎしちまったみたいで、ちょっと恥ずかしいな……)


「ううん」


 モーは恥ずかしそうな笑みを浮かべて首を振り、――嬉しそうに、微笑んだ。


「……ありがと、にーちゃん♪」

「お、……おう」


 抱きついてくるモーを受け止め、俺はそっと頭を撫でてやる。


「あ……」(おっ……と)


 いつもの鎧を身に着けた格好じゃないせいか(そういや、機械に乗り込む前に薄手の服に着替えてたっけな、お前)、意外に柔らかなモーの身体の感触に俺は思わず声を上げてしまう(当然、きっちりと筋肉もついてるんだけど、やわらかいというか、しなやかというか、とにかくそういう感じで、……って、いや別にヘンな意味(謎)じゃないぞ?!)。


「? なに、にーちゃん?」


 顔を上げて首を傾げるモーから、


「あ、いや。……何でも、ねーよ」


 きまり悪い俺は目を逸らしてしまう。


「……あ」


 薄手の服で俺に抱きついていた事にようやく気がついたらしいモーは顔を赤らめて俺から身を離し、


「べー! にーちゃんのスケベー♪」


 胸を両手で押さえながらおもいっきり舌を出してくる。


「なっ、なんでだよ?!」

「ふーんだ。どーせ、おいらはちっちゃいですよーだ」

「だ、だから、そういうことじゃ」(つーか、そっちかよ!?)

「あと五年もすれば、ねーちゃん、いや! ばーちゃんですら越えてみせるよ!」

「いや、だからな……」(いや、いくらなんでもそれは無理だと思うぞー?)

「よーし、ナイスバディ計画発動だよ~!さっそく、今日から牛乳飲む量、倍にしなきゃ♪」

「勝手にしてくれ……」(ま、いいかー……)


 俺は、安堵とも呆れとも区別のつかない深い深いため息をついたのだった。……てっきり、殴られるかと思ったら、お前、すこぶる前向き(?)なのなー。


(……そういうところも含めて成長してるんだな、お前……)


 俺は妹の成長に気がついた兄のような感慨を感じ、口元を笑みの形に歪めたのだった(そういや、言ってなかったっけ? モーは、れっきとした女の子だぜ?)。



「ワ、ワシの巨大人型兵器ちゃんが~~~!」



 姿を現した博士が嘆く。……作り直すの大変そうだな、これ(つーか、これ、どうやって立たせるんだ?)。


「すっかり気に入ったみたいだな、その名称。……って、“ちゃん”?!」

「ええ、恥ずかしながら、博士の“娘”なのですわ(ぽっ)」


 あー、それで、さっきの『娘は君にはやれん』発言なのね(ってか、そもそも、巨大人型兵器と結婚するという発想はさすがのヨネーのやつにもなかったと思うが)(いや、まてよ。あいつ、けっこうノリノリだったよーな気も……?)(汗)。


「へー、そーですかー」

「ええ(ウムウム)。実は、私も……(ウットリ)」

「ふーん、そーなんですかー、……って、ええええ?!」


 さくっと聞き流しそうだったノーマさんの言葉の意味に気がつき、俺は思わず叫んでしまう。


「あんたも、博士の作った“娘”なのか?!」

「はい(うふふふ♪)。あら、言ってませんでしたっけ?(オヤオヤ)」

「聞いてねー!」

「あらあら♪(ウフフフフ☆)」

「にーちゃん、残念だったね~♪」

「べ、別に、残念なことなんてこれっぽっちもないさ、いや、まったく」


 にやにや笑いながら俺のことを肘でつんつんと突っついてくるモーに、俺は「いやだから、なんでもねー!」と言い続けたのだった。





「……ってなことがあってさー」


 宿に帰った俺とモーは、酒場でフローさんとネ子相手に体験したことと、その顛末を語っていた(あんなこと、そうそうあるもんじゃねーだろーし)。


「そうそう、そうだったんだよ~。発明家の博士の助手でメイドなノーマねーちゃんが、実は、博士の発明だったって知った時の、にーちゃんの顔ったらさ~」

「いや、だからそれは、今回の件には関係ねーだろーがっ!」(ずっと言われそーだな、それ)

「どうかな~♪」


 苦笑する俺におどけるモーは、いつものようにじゃれあっているようなもんだったんだが、(……いや、ホントに、ノーマさんの事は関係ないから、事件には)(つーか、関係ないことにしておいてください、いや、マジで)(微苦笑)



「……そんなことがあったんですか……」



 ネ子が不意にそんなことを言って、席を立った。……おや?


「……ネ子?」


 声をかける俺に振り返ることなく、ネ子は二階への階段へと向かう。


「どうしたんだよ、急に?」


 呼びかけた俺の耳に聞こえてきたのは、「ふーんだ」というふてくされたようなネ子の声。


「……なあ、何で、ネ子のやつの機嫌が悪くなるんだ?」

「さあね~♪」


 言い残して、ネ子についてモーが席を立つ。何だよ、その、『にーちゃんに悪気はないんだからさ~』とか言う、フォローする気ばりばりの発言は…?


「……俺、ネ子に何か悪いこと言いました?」

「さて、な」


 フローさんは意地悪な笑みを浮かべ、ついで、少しだけ真剣な顔をした。


「それより、大変だったのう」

「まあ、参りましたよ。何か、ヤな感じです。俺たちの知らないところで何かトンでもないようなものが蠢いているような、そんな感じがしてなりません」

「……相変わらず、心配症じゃのう、お主は」

「わ、悪かったですね」

「ほっほっほっ」

「まったく……」


 意地悪く笑うフローさんの前で、俺はちょっとだけ憮然とした顔でジョッキを傾けたのだった。





「俺も、もう寝ます。お休みなさい、フローさん」

「ああ、お休み、コウ」


 ――席を立つコウのことを笑顔で見送ったフローの顔が不意に引き締められた。


「相変わらず、鋭いやつじゃのう」


 少しだけ悲しい顔をしてフローはつぶやいた。



「わしも、わしのやるべきことをせねば、のう……」



 切なげなため息だけが虚空に吸い込まれた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る