北風の後継者

第16話 フラグメンテーション・ノート

登山者は谷を見下ろすことなく、息を呑んだ。先ほど背後から襲ってきた突風が、まるで見えない手のように岩場に固定され、身動きが取れなくなっていた。風が弱まったのを見計らって、リベットを岩に打ち込んだ。しかし、ロープを用意するやいなや、その手は横から戻ってきた。葉っぱのように吹き飛ばされないように、崖にしがみついて危険な横風と戦わなければならない。

そして、ついに約束の場所に到着した。太陽がさんさんと輝いていても、この雪線上の高台は、まだ体感温度は低い。

避難所の片隅で、セラは気もそぞろに雪の一片を観察している。雪の中から小さな植物の房が伸びている。すれ違ってもなかなか気づかないほど白い。雪を指でつつき、茎を見せる。"この花ヘッドは、一本の茎を共有しているんですね。いや、葉っぱは見たことないですね。これはある種の菌類のはずだ。菌類ですから、根は浅いはずです。"

セラは、根が完全に露出するまで、雪の層を取り除き続けた。彼女は指を伸ばし、「この菌は寒さに適応しているのでしょう」と引っ込めた。私の体温で傷つくことはないはずだ" と。そう言って、彼女はポケットからピンセットを取り出し、試験管に全株を取り出した。"栽培するためには、雪のような環境を作る方法を考えなければならない"

登山と待ち時間の後、キエンは前の会話のことを忘れていた。"さっきの話は？"

"魔法 "を知っている人が残したメモです。彼は慎重で、あなたに手がかりを残したくなかったのです。"セラは警告した。"ウィニー "には、その理由がない。でも、彼女以外に誰がいるんだろう？"

"この人物はフロストフェラに 関係している可能性があります"

"そう言うことに意味があるんだ"セラは唇を指でこする。"メモ "によると、冬と仲良くしてほしくないそうです。でも、彼には別の意図があると思うんです。"

"あの男 "は、人が思うほど賢くない。冬を軽蔑しても、権力に対抗する力はない。"キエンは、ロックシューと呼ばれる羊の糞の乾いた部分をいくつか拾って積み重ねた。

"だから、もし彼が本当に私たちにWinterと力を競わせたいのなら、彼はきっとこれからそれを示してくれるでしょう。"セラは炎を出す粉を取り出して、糞の山に振りかけた。糞の焼ける匂いを考えて、さらにスパイスを振りかけた。

"どんな？"

"取引を有利にしたり、チャンスを作ったり "と。セラは水を打ったような息を吐きながら、「これ以上、手をこまねいていても仕方がない」と言った。そのときがくれば、自然とわかる。他に面白いものはありますか？"

"レディー "はスパイとして送り込まれたことを認めた。私の個人的な復讐に彼女を巻き込みたくないんです。他の場所に行かせるべきかもしれない"杵が火打ち石をこすって火をつけた。

"レディー "はウィンターフライアーズと私たちをつなぐ大切な存在であり、他の家族と遭遇したときの盾でもあるのです。私たちのそばにいたほうがいいんです。そう、彼女がどこから来たかわかった後でもね。"セラはもう一度、自分の考えを仲間に確認するように頷いた。"普通じゃないことをしない限り""あなたはずっと彼女の主人ですちなみに、私はランデブーの心理を観察するのが好きなんです。"澄んだ湖水のようなもの "ですね。

"茶色い湖 "を見たことがないんです。彼女はとても葛藤しています。それが心配なんです。"

"むしろ、葛藤しているのでは？"世良はぶっきらぼうに言った。"昨日の夜から今まで、レディに止められたらどうしようかと考えていたはずだ"

"はい "です。その選択をするのが嫌なのは、わかっているはずだ。彼女が迷わず戦うのなら、私は彼女を信じてあげよう。彼女は戦士のように死ぬべきだ。そうすれば、"エッセンスの神殿 "は彼女のために扉を開いてくれるでしょう。

ゆったりとした時間のはずが、気づかないうちに悲しい時間になっていた。セラは別の話をすることにした。

"......"

"トルシンド "という男のことを昨夜聞いたのですが、昔は "ドイル・ティン "と呼ばれていたそうです。彼や彼の部下たちは、ゲルゼンをかなり批判していた。だから、みんなギセーンによって東の峠に送られたんだ。"

"凍った川に人を追い込んで、死ぬのを待つようなものだ。ジョセフィーヌの言うように、ゲルフはとてもスバラシイです。今、私たちはそれを見たのです。"

"......"

"コーヘン一家は引っ越しを余儀なくされた。昔のコニーが街を罵りながら去っていくのを、多くの人が歌った。"セラは短いため息をついた。

"他人の傷に塩を塗る "のが得意なんです。コエーリョ一家は一体何をやらかしたんだ？"

"大きなコヨーテは誰かの言葉を信じて、乾燥して燃えやすい糞になると言って、近所の羊に木くずを食べさせた。若いクーンはというと、一日中若い女の子にいやらしい歌を歌い続けていた。もし、老人がウィンターフライアーズとの古い友好関係がなかったら、彼の二人の息子は殴り殺されていただろう。"

"......"

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レディーは玄関を歩き回りながら、何か不安そうにしていた。主人と奥様の帰りを見届けて、「執事長が大事なものをお持ちしたそうです」とご挨拶をしました。

"中で話そう"木根はそう答えた。

執事長、ペレイト、ジョンの3人が居間で何やら話し合っていた。主人の帰りを見届けて、席を立った。

"昨夜は飲めなかった "と。気にしないでください、いつか仲直りしましょう"とJinは言った。

"ロード・ジーザス"キエンはそう答えた。何日も前から相手を見ていたが、二人が顔を合わせるのはこれが初めてだった。目の前の男は、腕が太く、髭を編みこんで胸に垂らしていた。彼の体には、野生動物や武器による傷がいくつもあった。

"ハンターのようだな？"ジーンは壁に掛けられた狩猟用の弓を指差した。

"ほとんど "農家です。弓矢を使うより罠を仕掛ける方が得意なんです。私は一人なので、ダイアウルフのような大きな獣に窮地で会いたくないのです。"

"ハッ "としました。それは勇気ではなく、とても賢明なことです。私たちは通常、そのような獣を「一匹狼」と呼んでいます。常に単独で行動し、執念深い。以前、未熟なものに遭遇したことがあるんです。痛めつけました。その夜、匂いを追って町外れに行き、私から血を出せと吠えた"と、ジンは振り返った。

"それからどうなった？"セラはジーンが自分をチラ見しているのに気づき、会話に加わった。

"その後、何人かの男たちと一緒に街の外に到着した。男は私たちが劣勢であることを悟り、森の中に隠れて吠え続けた。私たちを自分のテリトリーに誘い込もうとしたのです。騙されるつもりはなかったんだ"今でも森を徘徊して復讐を待っているのを感じることができる。それは私を忘れないし、私も忘れない。"

ジレンが本題に入らないのを見て、ペレイトが「良いハンターは、タイミングを合わせて攻撃することも、潜伏することもできる」と前置きして、こう言った。ウォーキー・ヤー・ロード・アンド・レディー、ごきげんよう」と頷く。

"ビジネス "を忘れるところだった。今度は一緒に何か大きなものを狩りに行こうよ "と。ジーンはペレイトの肩を叩いた。「チーフスチュワードが話すのが一番いいと思うんだ」。

リビングにいるウェイターを見て、ペレイトが首を振った。"静かな場所を探そう "と。

数人が書斎に入ってくると、ペレイトがポケットからボロボロのページを取り出してテーブルに置いた。"魔道士の塔 "を調査していた時に見つけたものです。書かれている文字が気になる"

ページの端が焼けていて、「儀式」「軍隊」「シャロン」という文字がかろうじて読み取れるだけだった。"これは何を意味するのか？"

"フロストフィヨルドは生前、何らかの魔術の実験をしていたと思う。この魔術は、死者を操り人形に変えて、自由に使うことができる。魔道士の塔の地下にある他の調査結果でさらに確認できたが、それは実験の一部に過ぎない。"ペレイトが地図を広げ、その上に指を落とした。"残りの実験はまだここで行われているのだろう "と。

"シルーン峰"？真っ先に反応したのはレディーだった。

"この場所に詳しいですか？"と木根が聞いた。

"眠れる山脈 "のシャロン峰とタリア峰は、地図に描かれているように、大陸の屋根であり、「姉妹峰」とも呼ばれている。その昔、海の神スサメスは、破滅の主アメスデンに扇動され、大陸を食い尽くそうとしたという伝説がある。人々は海獣の侵略に対抗するために組織化され、タリアとシレンの姉妹は押し寄せる洪水から人々を守るために魔法の障壁を作り上げました。戦争は何年も続き、ついにキリアン（ウィッサン世界では戦争と戦いの神）とキル（ウィッサン世界では大気と嵐の神）が使者を地上に送り、人々が海の生き物を撃退するのを助けた。この時、二人の姉妹はとっくに過労死していたが、それでも倒れずに立っていた。そこで、二神は彼らを山に変えて、永遠に大陸を守るようにしたのです。"

"そこで神聖なはずの大陸は、嵐の神と武の神の祝福を受けている"セラは、地図の端に数筆で描かれた2人の神々に気がついた。キレは、空を覆う雷雲の嵐のような形をしていた。キリアンは、複数の武器を同時に操る戦士として描かれていました。

"ほとんどの人の頭の中では "そうなんです。話がそれてしまいましたが......"地図を指さしながら、「東峠と西峠を結ぶ道は、『呑気な音の喉笛』と呼ばれている」とレディーは続けた。それは、突風が吹き荒れると歩行者の声がかき消されてしまうからだ。この道路は、スリーピング・レイニー山脈を南北に分断している。何世代にもわたって整備された道はかなり整備されているが、2つのピークを探索するのは困難である。この2つの山は、誰も本気で探検したことがないんです。よく、"一度大通りを外れると、遠からず迷子になる "と言われます。

"狩りに誘いに来たのかと思った"世良は皮肉っぽく言った。

"シャロン峰を調査せよということか？"とキエランは尋ねた。

"はい "です。谷の住民のためにも、この件は調査してもらわなければならない。ジョーン公が調査団を率いてくれることになった。ウォーキー・ヤーオー殿も参加されれば、いい話になるのですが......」。ペレイトが両手を前に出して、主人の返事を待っていた。

キーンはためらった。しかし、本心ではフロストフェローズの共犯者を排除し、ジリアンを死刑にする機会を見出せたことを喜んでいた。"参加する"

"ハッ、やっぱりハンターはこの絶好のチャンスを逃さない！"今度は本当に大きなものを狩ることができるかもしれない」と手を叩いた。

"ジュン "殿、お忘れですか？旅の目的は狩りではなく、調査です"ペトラはそう言い直した。"この間、あなた方の家族と邸宅は十分に世話になる"

キーンというのは、もう自明の理です。これはまさにグッドチャンスです。世良は巻き込まれるのを嫌がっていた。"薬屋さん "だから、ついていくよ。屋敷のことは......」彼女はレディに視線を送った。

"いいえ、セラ "です。つまり、女性です。私が必要になります。私の仕事を引き継ぐルミックを手配します。"レディーは忙しそうに言った。

"はい、レディ "です。ふさわしい配置です。"屋敷に足を踏み入れてから、キエンは最悪の事態を考えていた。これは、以前、冬を退陣に追い込んだのと同じように、自分に対する陰謀かもしれない。さて、レディングは、このままではいけないと思った。そのため、彼には選択の余地がなかった。

"わかった"セラはため息をついた。"エッセンスの神殿の門が同行することを願う"

"それはとても良いことです。私は行って、街の主に報告します。"そう言って、ペレイトさんは足早に去っていった。

"ロード・ジェイズ "その傷はどうしたの？高冷地が古傷に効かないのはご存知でしょう？"キエンが相づちを打った。

"心配ない "です。死んだ○○の息子に由来する。数ヶ月前、私たちは捕虜の一団を黄金の水車で護衛し、アヒア・シュテットルへ向かう途中でした。ある夜、捕虜たちが突然暴れ出したので、私は部下を組織して彼らに紛れ込ませた。二人の女性が突進してきて、私に襲いかかってきた。そのうちの一人が死ぬ前に私を噛んだんです。助けてくれたのがフロストファイヤーであることは認めるので、面目は丸つぶれです。さて、もう行かなくちゃ。私たちの狩りを楽しんでください"

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夕食後、中庭からハミングのような音が聞こえてきた。湖のようにまだ澄んだその声は、風に乗って壁を登り、何度目かの挑戦で領主の窓をノックした。

"いいか、トリッキーな心の持ち主が歌うようなメロディには聞こえないんだ。"セラは窓際に立って目を閉じ、すべての思考をクリアにして耳を傾け、一音一音に込められた感情を読み解くために手を引く。"手付かずの若い娘 "に過ぎない。彼女は何かを企んでいるつもりはない。"

木根は隅に座り、武器を整備していた。"私たちには2つの頭と4つの手しかない。何があっても大丈夫なように準備しておかなければならない。間違っていればいいのですが......」。

"証明してみせる"世良は蝋燭を手に取ると、部屋の外に出て行った。厨房の前を通ると、鶏の餌の入ったボールと木の樽をおんぶしていた。

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領主の妻が樽を長屋から運び出すのを見て、レディーは革の製造棚を離れ、歩み寄った。"貯水タンクは空ですか？"

"いや、鶏小屋の餌とヤギのミルクを届けに行くだけだ "と。世良はバケツに入った鶏の餌を見せながら、「手伝おうか」と言った。

"もちろん"

2人は囲いの中に入っていった。セラはレディに飼料を手渡した。"これは鶏が柔らかい卵を産まないように、卵の殻を砕いたものを混ぜてあります "と。そして、ドアの脇にあったろうそくの半分を取り出し、火を点けた。

"そんなにすごいことなのか？"ライダーは、意を決してフィードを取った。

"今にわかる"セラは羊小屋に入り、雌羊を一羽連れて行きました。"さあ、お会いしましょう"雌牛の○○室をマッサージして乳を搾る。"ペレイトについて教えてください"

レディはセラのそばからロウソクを離さずに、暗闇の中のトラフに餌を投じた。「ペレイトは少なくとも20冬は都に住み、何期か続けて執事長を務めた。残念なことに、彼には妻も子供もいなかった。

"どうしてこうなった？"

"谷に人生を捧げる "とよく言っていた。そのおかげで、彼は街で評判になったんです」。レディッシュは肩をすくめた。"早世した石工によると、ジョセフィーヌは若い頃ペレイトと恋に落ちたが、その愛を拒んだ "という。

"信じられない "です。彼が恋する女性はいないのでしょうか？それとも......」世良は片手を引っ込め、ミルクを吸い、曲がった小指だけを残した。

レディが世良の意味するところを考えるのに一瞬、「えー。誰にもわからない。"彼女は顔を赤らめて、物陰に隠れてしまった。

ほどなくして、レディが空のボウルを持って世良のもとに戻ってきた。"いつか、人のためにネズミを退治する薬でも作ってくれないかと思ったんだ"。

"簡単にはいかないよ"セラはバケツから新鮮な牛乳をすくい上げ、レディに手渡した。"飲め "です。ハニーワインのような甘さです。家事はひとまず置いておいて......」。

ライダーはグラスを手に取ると、一気に飲み干した。腕を下ろした瞬間、その琥珀色の魅惑的な瞳に迎え入れられた・・・・・・。