第68話 青春のそよ風

六月の暖かい風を、教室の空いた窓から肌に感じた。

『明日から雨が続くんだって…』

『マジ?体育の実技、自習とかになったりしないかな…』

朝、校門前で弟と分かれてから少し耳に挟んだ。

明日からは、雨らしい。

…折り畳み傘を持ち出すべきか…

雨は、そこまで好きではない

かといって、嫌いでもない。

僕にとっては、思い出のてるてる坊主を思い出す日

そして、奈那さんとのあまりに苦く、甘い日々。

…いつの間にか、僕は彼女のことを考えていた。

本当の『好き』も『嫌い』も、知らないような僕が。

「お~い、佐藤?」

「は、はい!」

教卓に立つ先生が、軽く僕を注意する。

寝ていたわけじゃないんだけどな…

「…平安時代の概要は、約200年間続いた遣唐使が廃止された影響で、唐文化と日本文化が融合した結果、日本独特の文化である『国風文化』が形成されていき…って、お前らなぁ…」

教卓に立つ社会の先生は、歴史の概要を語っていたが…あまりにクラスが心ここにあらずな現状を感じ取ったのか、見かねて声をかける

「あと数日で文化祭が始まるからって、浮かれすぎだぞ…」

…なんだと…!?

日付を見るともうとっくに六月の最中。

6月3日という字がありありと書かれていた。

まさか…琴音ちゃんとデート(のようなもの)をしてた時にはもうとっくに計画されていたのか…!?

正直それどころじゃ無さすぎてあまり意識していなかったが…

まあ…どちらかと言われれば納得できる。

なぜかと言えば、僕も琴音ちゃんも、そもそもあまり話す性格じゃないからだ。

その結果、意見も特に出さなくてもなんの文句も言われず…といったところだろうか…

不味い、何をやるかも把握してないのは流石に不味い…

―キーン~コーン~カーン~コーン~…

「っと…鳴ったか…とりあえず、次の授業にノート点検するから、ちゃんと黒板写しとけよ~。書き終わったやつから終わってよし、挨拶はなし。」

この学校の教師挨拶無し派多すぎないか…?

そこに関しても時代が来たということだろうか。

「蓮」

「琴音ちゃん…」

「…呼ばれてた。」

「…寝てないですから…ちょっとぼうっとしてただけで…」

「…女?」

「…」

奈那さんのことを考えたことを言いたいのだろうか…

いや、いくらなんでもそれはないか。

「…今日って何かありましたっけ…」

そう言うと、琴音ちゃんは少し考えて…

「今日から文化祭の準備。」

「…ちなみに内容って…」

「…知らないの?」

痛いところを突かれてしまった。

「…はい。」

「…」

「…」

なんとも言えない絶妙な空気が流れる…

「…文化祭デート…も?」

「…はい?」

ちょっと待てそんなこと決めたか…?

いや、いくらなんでもそれはない…はず。

「…蓮、私とデートするって言った…」

「…すみません、マジで記憶にないです」


「…」

「…」


「…蓮」

「は、はい…」

「そこに正座」

「……」

「正座。」

「はい…」

そこから休み時間が終わるまで、床に正座する僕とそれをいいことに頭をひたすらチョップする琴音ちゃんが見られたという…


「…なんか…やってね?」

「…なんかやってんね…」

「なんかね、佐藤くんが白坂さんとの約束をすっぽかしたとか…」

「…あ~…それは…佐藤が悪いわ。」

「ね。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

てるてる坊主の次の日は。 夜桜カユウ @NightKayu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画