第62.5話 出逢い

―チリン、チリン…

薄い霧のような暗さが、見慣れた室内に落ちていた。

奥を見据えるにつれ、深く、暗く沈んだ闇がある。

その闇が、僕を見ているような気がして、なんとなく落ち着かなかった。

「蓮…一体どうしたのさ、あの男に何かされたの?…白坂ちゃんも…心当たりとかない?」

普段とは違う、茶化す雰囲気なんて微塵もない様子のあさみさんを見るのは初めてだったのか、若干の動揺を見せつつも、心当たりがないと首を振った

…僕はだだ、シンプルに…

「兄…さん…?」

唐突に響いた、少し高い声変わり前の少年のような声

その声がした方向を見た

そこには

見覚えのない、どこか中性的で、整った顔立ちをした一人の少女のような人がいた。

―いや、違う。

だが記憶のどこにも、彼女のような存在はいない

なのになぜか

なぜかひどく

…懐かしい。

―違う、僕は…僕は、彼女を

知らない、知らないとわめく頭を押さえつけ、彼女を思い出す。

わからない…

わからないけど、

わからないけど確かに…

確かに彼女を知っている。

そして僕は、ある1人を…

ある一人の…を思い出す

―それはあまりにも突拍子がなくて

  あまりにも意味不明で

   あまりにも…会いたくてしょうがなかった人―




         「春…?」




紀村きむら はる

僕の、『おとうと』だ。


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