第60話 嘘でもいいや

―キーンコーンカーンコーン…

「ん…チャイム鳴ったか…一応この公式だけは覚えとくように…書き終わった者から休んでよし。」

そう言って、黒板につらつらと数式を書いていく

…内容がわかるかと言われればわかる。

まだ頭で処理できる内容ではある。

…どうせここからもっと難しくなるんだろうな…

XとYで簡略化されたとは言え、それを扱えるか…ひいては応用して問題を読み解くのは苦手だ…

「蓮、書き終わった?」

僕がノートにしかめっ面で悪戦苦闘していたところ、もう書き終わったらしい琴音ちゃんが話しかけてきた。

「もう少し…」

ノートから目を離さずに答えると、琴音ちゃんは

「そ…」

とだけ呟いて、じーっと僕を見る。

ひたすら、じーっと。

ずーっと見られ続け―視線に敏感な僕はとても集中などできなかったが―何とか書き上げ…

「…書き終わりました…」

「ん、じゃ行こ?」

「ちょっ…!」

僕の返答を聞くや否やスタスタと歩いて行ってしまう琴音ちゃんにどうにかついていく

「あれ?アイツらいつの間にあんな仲良くなったんだろ…?」

「お互いあんまり誰かと話そうとしないから…どっか気が合うんじゃねえの?」

「あ~ね…納得だわ。」

本人たちは小声なんだろうが…わりと聞こえる…

特にクラスメートの名前も覚えきれてないので誰かというのは全く検討もつかないが…

とりあえず琴音ちゃんについていって…話はそれから…

「あれ?佐藤くん…?」

「ん?どうしたよ鈴~」

「ん~…なんでもな~い」



「…あの…どこに行くんですかね…」

相変わらずスタスタと歩いて行ってしまう琴音ちゃんを追いかけて廊下を若干小走りで進む

「ん、着いた」

「…自販機…ですね。」

「…コンポタ」

…買えということだろうか…

「まあ…良いですけど…」

ピッ、と軽快な音を立てた後、ゴトンと下に落ちる音がする

「蓮も。」

「僕も…」

何を買おうかと視線を巡らせ…

好みの飲み物が見つからないことに驚く…

もう気温は温かい…

もう5月になって早い。

…だというのに未だに温かいコンポタがあることにも多少の疑問はあるが…

とりあえず無難なミルクティーを買うことにした

「…好きなの?」

「いえ…美味しいとは思いますけど…」

「そ?」

そして琴音ちゃんはベンチへと歩いていき、一人が座れるくらいの間をとなりに空けて…トン、と叩いてこちらを見る

…まあ…座れということか。

「では失礼して…」

なるべく距離を空けて座る

「…」

無言で距離を0に変えてくる琴音ちゃん

「…付き合ってもないのにこの距離は…」

「拓磨さん。」

「…そういえばですね…」

そういえばだが…拓磨さんからは、僕と琴音ちゃんの二人が付き合ってるように振る舞って欲しいとのことだった。

要は僕が琴音ちゃんの近くに常に居ることで、ド外道教師が手を出せない状況を作り出し、それで収まるなら良し、収まらないのであれば確実に僕と間接的に出会うことになるであろう、姿ことが目的だ。

生憎、教師の特定が出来ていない現状。

それで間違えようものなら何があるか…

だが、

だから、万が一それで犯されることになろうものなら…拓磨さんに連絡した上で僕が突撃する。

目撃者がいて、被害者がいて…そんな状況を

そうなれば少なくとも…拓磨さんが到着してしまえばこちらの勝ちが確定する。

それまでの時間稼ぎが…『万が一』が起こったときの僕の役目だ。

「ほら、蓮。口移し」

「そんなにただれた高校生の付き合いがあるとでも…?」



「…ふ~ん…そういうことするんだぁ…」

僕らが見えない方向にある教室の窓

栗色の髪が、風に撫でられて揺れる

「全く罪作りな人だよね~…」

榎波えなみ 鈴加すずかと呼ばれた彼女は、一言。


あきらくんはさ…」

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