第58話 パンドラの箱
「…琴音ちゃん」
四人並んで食べている朝食。
そこで、なんとも
拓磨さんと奈那さんが料理のことではしゃいでいた裏、僕は…苦しい話をしようとしていた
「…なに?」
「…拓磨さんに、『あのこと』を言うのはどうかな?」
「…」
そうコソッと耳打ちすると、彼女はおもむろにうつむいてしまった。
…悩みを…それも最悪の記憶を…
唯一信頼できる僕が、踏みにじっているような感覚がした
僕を信じてくれたのに
僕を…好いてくれているのに
結局、僕一人では彼女の深淵に眠る禁忌を解決することなど不可能なのだ…
何度も何度も、彼女を助ける方法を考えていた
だが…足りない。
何もかも…権利も、証拠も、地位も…それ以前に説得力が…足りない。
これは、ただ事実である故に…彼女にとっては…一番辛い記憶をさらけ出すことになりかねない。
「…琴音ちゃん、拓磨さんは信頼できる人だ。今、君の前にいる僕は、あの人が居なかったら何も変われなかった、何も…できないままだった。」
数々の思い出を頭に浮かべながら
拓磨さんの「お人好し」は、嫌という程知っている。
「あの人が、僕に『生きる意味』をくれた。」
「…」
「だから僕は、琴音ちゃんにそれを繋いだ。」
「…」
「僕個人の力じゃ…この問題は解決できない…だから、僕の最も信頼できる大人に任せる。…っていうのは…どうかな…」
「…」
サクッ、と彼女がサンドイッチを噛み切る
目だけは、前髪が重なっていて見えない。
失望させただろうか…
「…わ…かった…」
「…本当に…?」
「…うん。」
無意識に、手を繋ぐ
少しだけ震えていた…その手に優しく、僕の手を重ねる
すぐに、彼女の両手が僕の手を包む。
「…たすけて…」
酷く震える手に、更に僕は手を重ねて
「…安心してください…絶対…許しませんから。」
「拓磨さん」
「なんだい?蓮くん…。」
この一言だけで…何かがあると感じたらしい。
「あぁ…そうだ、天木ちゃん…ごめんだけど、みおを起こしてきてくれないかな…」
…ほら、今も当たり前のように気を遣っている
この人に話す以上に最適解はないだろう…
「え~…みおさん寝起きに拓磨さん居ないとまあまあ怖いんですよね…」
「頼むよ…」
「わかりました。みおさ~ん?」
トントンと、階段を登っていくのを確認して
「…何があったんだい?」
目線を合わせ、優しい目で…しかし強さを感じるその雰囲気はまさに『父』だった。
「相談があります。」
「うん、話してみて。僕にできる協力は全部する。」
「では…ここにいる、琴音ちゃんに関する事なんです。…本人が言うのも
「…わかった。」
少し、琴音ちゃんを見て…僕の
「単刀直入に言います。彼女は、学校で彼女が所属するクラスの教師から頻繁にレイプをされています。」
瞬間、空気が一変する。
優しい目は消え失せ、柔らかい雰囲気は殺意を帯びる
「…そのことを、親は?」
「…どうですか…?」
「…知らない…」
「良かった、親が知っててそんなことをしてたら…流石の僕も…我慢できなかったはずだから…」
本当に、今までかつてない程、拓磨さんは怒っている
僕が彼に怒鳴った時も、あんな表情は見せなかった
「蓮…この件は全て僕に任せてもいい…でも、本当に彼女を救いたいなら、蓮がこの問題に終止符を打たないといけない。…あとは分かるね?」
今、僕は試されている
本当の意味で彼女を救うか
ただただ…問題だけを解説するか
答えなど、決まっている。
「やります。…これは、僕がやらないといけないんです。」
しっかりと拓磨さんの目を見据え、覚悟を決めて言い放つ
「…流石、僕の
一瞬だけ、柔らかく微笑んだ。
ーギリッ…
思いっきり力が入った手から、そんな音がした。
「…何それ…!…絶対…絶対許してやるもんか…!」
金色の短髪を激情に揺らし、彼女は噛み締めるような声で決意を決める。
一人の少女の悲劇
ただの小さな舞台の上で繰り広げられるそれは極めて非情で、卑劣で、下劣な行いだった
脚本通りの
彼らは、動く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます