第7話 呆気のない決まり方
夕方の8時となると、最寄駅に降りる人は社会人が多くなる、ついさっきまでなら私たちのような学生も多かったはずなのに、役目を終えくたびれた表情の大人たちの方が数を成していく。
買い物を終えてハンバーガー食べている最中に犬山かごめの昔話を聞いていた。彼が自分の趣味を一番最初に打ち明けた親友、秋山涼太。彼との会話ではあまり近づくための情報は手に入らなかった、友達のことをペラペラと話すタイプではない事は薄々気付いていたが、それでも思惑が外れると難しい顔をしてしまう。
(そういえば帰り際、秋山くん言ってたな…)
『じゃあ、俺ここから乗り換えて帰るからまたね。バスケ、楽しんできなよ』
『うん!今日はありがとうね、せっかく時間取らせちゃって』
『別にこれぐらいどうって事ないよ。俺も話せて楽しかったし。あ、そうだ』
『かごめは今まで付き合った事ないぞ。今も彼女いないからな』
『うぇ!?そ、そうなんだ。でも、どうしてそれを…』
『顔を見れば分かるよ…それじゃあね!』
まさか気付かれているとは思わなかった。自分自身、打ち明けている人に関してはいつものメンバーにしか伝えていない。そんな情報の中で彼は読み取ったのだろうか、まるで『狙うなら今だよ』と伝えるかのように伝えた後、彼が出ていった側の扉は閉まり人混みに紛れて消えていった。
(モテそうなのに…彼女いないのか。それなら、きっとチャンスは転がっているはず!!)
勝負せずに負けたくはない、もし諦める事になったとしてもその時は綺麗にすっぱり忘れたいもので、背中を押された私の心は前よりも一歩前に来ている感じだった。
「とは言ったものの何をして近づいていけばいいんだろう…」
帰宅後、ベットに流れ込み色々と思考するが良い手が何も思いつかない。家に帰りシャワーから寝る前の洗顔等のルーティンをして就寝時間を迎えてもなお考えは降って来ず携帯を眺めて続けていた。スマホの履歴には『好きな相手 話し方』などの検索ワードが残っている
「向こうから話しかけてくれれば楽なのにな…」
ダメになっていく思考をため息で軽くし、寝ることを選択する。これ以上考えたとしても無駄だと感じるからだ。
「まぁ…明日会ったらもしかしたらって事もあると思うし」
1人でにおやすみなさいと呟き、部屋の明かりを消した。
⭐︎⭐︎⭐︎
「あ、おはよー。斎藤さん!昨日、アッキーと買い物行ったんだよね?」
HR後の少しの時間に彼はやってきて話しかけてきた。昨夜、秋山くんとオンラインゲームをしている最中に経緯を聞いたらしい。
「あ、おはよー犬山くん。昨日、秋山くんに教えてもらってさ。今度、仲の良い女子同士でバスケをやりにいくから」
「なるほどね〜、でも羨ましいなぁ買い物なんてさ」
え?秋山くんなら買い物ぐらいで断ることはない。なんなら、色々と話したりしてくれるのは彼が知っていると思うが、それでも羨ましそうな表情を浮かべるのに疑問が浮かぶ。
「ここだけの話さ、化粧品とか洋服とか買いに行きづらいじゃん?俺って。だからこそアッキー達みたいに友達と買い物行きたかったんだよね」
なるほどと思いつつ、私たちが購入したのは化粧品ではないことを訂正して話を聞く。普段は、ネットの通販かお姉さん達と買い物に行った時についでに自分の分を購入していたらしい。ただ、それは友達としてではなくて彼が求めていたのは、放課後に遊ぶような感覚で買い物をしてみたかったらしい
「まぁ、まだカミングアウトしてないからさ。アッキーと言っても変な目で見られるだけだし」
「……じゃあ今度一緒に買い物でもいく?私もさ、欲しいものがあって」
私が提案すると瞬時に彼は反応を示して身を乗り出した
「いく!放課後行こう!いつにしようっか!」
「えっ〜とね…」
こんなにも食いつくとは思わなかったけど、彼と接近する目的は達成された
ワクワクした表情を浮かべた彼の顔は、とても楽しそうに輝いて見えた
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