第3話 依頼(3)
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「それから………あいつは滅多に学校に来なくなった。目の上の傷も跡に残った。顔を見られると、民安易何か言われるし、それが嫌であいつは自分の顔を隠すようになったんだ。……それは、南高校に入っても同じだった」
いろんな中学校から生徒が集まっているとはいえ、同じ中学校出身の奴らも何人かいる。
音音は顔を見て、自分だって分からないように、学校そのものから遠ざかって行ったんだ。
「そうでしたか…………」
兎の耳が小さく畳まれた。
「でも、やっぱり、それは僕がいたから起こったことかもしれないし……」
「違うよ。お前に責任なんてない。あの時は、逃げた俺が悪かったんだ。大人の言葉に簡単に騙されて。そもそも、校長ほどの権限があにあいつらには音音を退学にする手段なんてなかったはずだ。俺はまんまと、騙されたんだ」
「なーんだ」と、ハルは明るく言った。
俺がハルの方を見ると、ハルは外した黒手袋をつけていた。
「じゃ、今回の依頼は天人次第ってことじゃん。ハル達出る幕ないじゃん。ちぇ、つまんないの」
「あ、あのなぁ……」
「そうとも言ってられないわよ」
釘を刺すような厳しい佰乃の声が空間を断裂した。部屋を片付けるために手元はせっせと動いている。舞子は荒れた自分の部屋にがっくりしながら、とりあえず居候のための荷造りをしていた。
「私たちの中での、蟠りは解決したかもしれないけれど優一郎さんが黙ってないと思う」
佰乃は壊れたカーテンを直す。
「あの人は、一度見つけた対象は逃さないの。佐々木くんが貧乏神付きって分かった時点で限りなく彼のことを狙ってくる。黎人くんの件で分かっていると思うけど、妖怪に寄生され続けた人間は、祓うしか手がないのよ」
「人に対して、祓うって……どういう意味?」
「それは………」
言葉を濁す佰乃の代わりに、部屋の片付けを手伝い始めたハルが言う。
「寄生されてからの時間を取り祓うこと。つまりその間の記憶を消去するんだ。何があったかも、全て忘れる」
それはつまり、自分の傷のことも、忘れるということ。
「………だめだ。それだけは絶対にさせない。あいつには、話さなくちゃいけないことがある」
舞子はふふふっと笑った。
「そしたら、私たちがあーくんを全力でサポートしないとね。これは二人の間の問題だけど、優一郎さんのことは私たちがどうにかしないと」
「そうね。あの人、根は悪い人じゃないと思うんだけど……ちょっと厄介だから…」
「根は悪い人じゃないって、本気で言ってんのか?お前の大切なハルなんて死にかけたんだぞ?」
ハルは佰乃に抱きついてみせる。佰乃は適当に促し、ハルの背中をさすった。
「でも、小さい頃によく面倒を見てくれたの。歳も近かったし、優しいお兄ちゃんだったよ」
優しいお兄ちゃんねぇ…………。
それが、どうやったらあんな失礼極まりない男に育つんだか………。
「兎に角!」と突然舞子が立ち上がる。
「私たちのすべきことは三つ!一つ目は、あーくんは、佐々木くんと仲直りすること。二つ目は、優一郎さんをどうにかすること。三つ目は、本契約を結ぶこと!」
あ…………、とみんなの時が止まる。
そして、三人は次々と深いため息をついた。
色々あって忘れていたけれど、そうだったぁ。本契約のことすっぽかしてたぁ………。
早く、契約しにいかないと、俺の魂は消滅するんだっけ?
ああ、気が重い。先が思いやられる。
こうして、四人と一匹(?)は憂鬱な朝を迎えた。
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