捌, 第三章【貧乏神】

第1話 依頼(1)





ピョンピョンと、一匹の兎が足元で止まる。

俺たちは立ち止まり、曇天の青空の下、兎とにらめあいっこをする。やがて、兎は煙に包まれて一度姿をくらまし、その後、煙の中から姿を表したのは、小さな子供だった。

くるくるはねる銀色の髪の隙間からは空に向かってピンと長さ一五センチほどの兎の耳が、立っていた。

唖然とする俺たちをよそに、兎はしゃべった。


「祓ってください。僕は、妖怪です」


青色の瞳が俺たちにそう訴えかけた。



☯️





時刻は間も無く日付を跨ごうとしている。

佰乃が目を醒めたのが、九時だったので、そこから何やかんやあり、空はすっかり暗くなってしまった。気のせいか、もう明るくなってきている気もする。明日も学校があると言うのに、俺たちは最悪の朝を迎えるのだろうか。

いつまでも、源郎の社に居座るわけにもいかないので、彼の本殿から出て鳥居を跨いだのがついさっきの話。長い長い「元気坂」こと、階段を降り終わった後、俺たちはこの兎に遭遇した。

兎、というか、妖怪。

「……えーと……」と天人が言葉に詰まらせていると、その天人の肩を舞子が叩いた。

「待って。この子、誰かと同じ匂いがする」

「同じ匂い……?」

舞子は、背の小さな子供の前でしゃがみ込むと、鼻を近づけて匂いを嗅いだ。

「え、舞子ちゃんって、そういう趣味があったの…?」

明から様に引いて見せるハルの脇腹を天人は全力で殴った。

「ぐぅぅ……」とハルは息を漏らす。

んなわけ、ねーだろうが。

「あいつの妖力だよ」

そう天人が付け加えると、舞子は立ち上がり、足先を天人達に向けた。

「この子、佐々木くんと、同じ匂いがする」

一瞬で、天人の寒さが吹き飛んだ。

「なんで、佐々木くんと同じ匂いがするのかしら……?ねえ、君は、妖怪なんだよね?妖怪なのに、私たちに助けを求めるって……それはどう言う意味かわかってる?」

佰乃は子供の前でしゃがみ込み札を取り出す。何をするのかと思えば、その札を子供の服に取り付けた。

「とりあえず、話を聞いてみないとわからないから、あなたの周りに弱い結界を張らせてもらったわ。舞子ちゃんの家にあがらせてもらっても大丈夫?」

「うん、問題ないと思う」

「じゃ、いこっか」

歩き出す四人の背中をおうように天人も、重たい足取りを動かした。

まるで、足に錘がついたように重い。さっきまでは軽かった体も一気にだるさが増した。それでもと、天人は余計なことは考えずに、ついていった。

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