第3話 誘拐(3)




「人探し……つってもなぁ……」


天人は重たい足取りを奮い立たせ道を歩いていく。歩き続けてかれこれ三時間ぐらい経つ。今やっと靁封神社の半分を歩いたところだ。“町”という肩書きのくせに面積は広いので、全体を歩き終わるのには其れ相応の時間がかかる。

今回の作戦は、兎に角そのカラスの兄弟達が探している妹を見つける事だ。其れが一番手っ取り早いと云う決断に至った。手っ取り早いと云っても、戦闘を避ける手を選んでの上だ。俺たちの作戦が確定した後、目を覚ましたハルに云った。絶対反対されると思った。彼奴は佰乃を一刻も早く救出することに拘ると思った。しかし、ハルは案の定すんなり受け入れた。其れなら其れで手間が省けたから嬉しかった。

俺とハルは妹さんの捜索をし、舞子は切れてしまった佰乃との通信を試みることになった。ずっと繋いでいたら何不自由なことはないのだけれど、佰乃が長い間眠っていたか、気を失ったかのどちらかの影響でデイバイス同士が一度切れてしまったのだ。

ようやく、靁封町南地区、学校のある範囲を捜索し終わった。今のところなんの収穫もない。

「源郎の情報によると妹は幽霊になって今もまだ彷徨ってるんだって?」

「あー、云ってたねー」

「云ってたねー…って、御前マジで探す気あるのかよ……」

「………」

「無視かよ……」

まあいい。此奴は元々こう云うやつだ。

最近距離が縮まって打ち解けてくれたかなと思ったがどうやら俺の勘違いだったみたいだ。此奴は何一つ変わってない。自由なんだ。

依存されるよりはマシだけど、自由すぎると其れは其れで困る。

天人とハルは突き当たりの角を曲がった。そして信号が目の前に現れる。ここの信号を渡ったらようやく北区だ。

源郎は妹が霊になって彷徨ってるって云ってた。つまり俺達ならその姿を見ることができるんだ。

早く見つけないと。

そう思う気持ちが足を急がせ、視界をより一層広くした。何処までも見れるように、見渡せるように。此の塀さえも、あの塀さえも超えて―――――。

ズキリ、――と、頭の内側――後頭部に鋭い痛みが走った。

思わず立ち止まって頭を右手で支える。

鋭い痛みは一瞬走ってから何事もなく消えた。

ハルは足を止めて振り返って天人を見た。

「どうしたぁ……?…………妖力使った?」

随分と察しの良い……………。

「まぁ………」

天人は頭を振って痛みを振り払い、足取りを早めた。

今やったのは別に無価値でも無意味でもなかった。否、同じ意味だけれど、そんなこと関係ないぐらいに今は足を急がせる。

此処から少し進んだ道を外れて、住宅街の中。

街灯の下に、其れらしき姿が確認できたのだ――――。








鳥籠を頭から被った女の子が、そこにいた。


古びて錆びた鳥籠を頭からかぶり、その上長く伸びた重たい前髪で女の子の視界は完全に遮られていた。しゃがみ込んでいる彼女は長い漆黒のような黒髪が地面まで伸びていて前髪の月間から覗く瞳は赤い、綺麗な紅色をしていた。古びた青いワンピースを着て両手には解けかかった包帯が巻かれている。そして何故か、右手には壊れた手錠がぶら下がっていた。

一見、姫のようには見えないけれど、紛れもなくあのカラス兄弟が探しているであろう妹だということはわかった。何故ならば、

「あの……、カラスさん……。貴方は私の兄ですか………?」

弱々しく話しかけるその姿に声も出なかった。

自分のそばを通るカラス達に声をかけては邪魔者のような文句を言い返され、また小さく縮こまって歩き出す。彼女は兄を亡霊になっても探していたのだ。

立ち止まる天人を差し置いてハルは彼女のそばにしゃがみ込む。

急に自分の横に現れた青年に、女の子は目を丸くして固まった。

「ねぇ、君が探してるのって七人のお兄さんでしょう?」

「…あ、あの……、貴方は………」

「ハル。でも覚えなくてもいいよ。どうせすぐ消えるんだから」

「消え……――?」

「兎に角、君のこと見つけたからハル達はお兄さんのところに行かないと。ね?天人」

笑顔でハルは振り向いた。

自分に向けられた満面の笑みに、天人は静かに頷いた。

「行こう。君のお兄さん達が、君を待ってる」

彼女は、震える瞳で天人たちを見た。まるでおもちゃを奪われた子供のように。



「私を……待ってる……?」

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