肆,古今東西

第1話 誘拐(1)


ドンチャンした五月蝿い音で、目が覚めた。

「ん……んん」

佰乃は目を擦って、上半身を起こす。

なんだか随分と長い間眠っていた気分だ。

意識はぼんやりとするけれど不思議と居心地は悪くない。ふわふわとした何かが私の下に敷かれている。

「お、目が覚めたか?」

「目が覚めたのか⁉︎本当か!」

「どけっ、御前等!俺が見つけたんだぞ。勝手に触れるな!」

「なんだよ。自分の妹ぐらい触っても良いだろう。お前のものじゃないんだ」

「ふざけんな!俺が先だ!」

な、なんだ、この地獄絵図は………。

目の前で繰り広げられる騒がしい言い合いに佰乃は口を開ける気にもならない。

本来ならば、ここで「此処は何処⁈」とか「貴方達は誰⁈」って混乱したように問いかけるべきなんだろうけれど、なんだろう………この自分だけ阻害された空間。

第三者目線で今の状況を理解できるからこそ、冷静でいられるのかもしれない。

佰乃は冷たい目つきで彼らのやり取りを観察。

「ダァカラッ!此処は、先に見つけた俺が優先なの!優勢なの!わかる⁈」

「そんな権利、御前にあるわけないだろ!」

「……ちょっと君達、静かにしたまえ。レディーの前で恥ずかしい……」

七人いる青年達の中で、唯一冷静さを見せたのは、奥にいる青年だった。青年というには少し老けている、うっすら生える顎髭の似合う大人な青年だった。皆似たような服を着ているが、よく見れば所々異なる。また、顔の特徴も所々違った。

「あの……」

佰乃はようやく口を開いた。この状況が少し理解できたからだ。今はその確認のために話しかける。

「貴方達は、七羽のカラスなの?」

「いかに」と短く左にいる青年が答える。黒い短髪で睨むような三白眼は少し天人を思い出させる顔つきだった。

その隣の青年――七人の中では背の低い、黄色い目をした青年が云った。

「これが僕たちの本来の姿。訳あって、夜にしか人間の姿にはなれないんだけど、カラスは仮の姿さ」

そういわれ、佰乃は今、夜だということを知った。

私は、長い間眠っていたのか………。

「先程の戦闘、我々は少々小賢しい手を使った。申し訳ないと思っている」

深々と頭を下げる青年に、佰乃は動揺せず、続ける。

「じゃあ、早く私を返して。此処にいても、いずれ父達が貴方達を祓いに来るよ」

「其れは不可能だ」

「なんで……」

佰乃は問い返す。

青年達はお互いの顔を見合わせ、佰乃の前に跪いた。髭を生やした青年が云う。


「貴方は、私たちの妹の生まれ変わり―――謂わば、唯一、我々にかけられた魔法を解くことができる人物なのです」



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