第4話 東家(4)



食事会の居間に着いた途端、急に人の流れが激しくなった。

さっきまでどんちゃん騒ぎしてお酒を飲んでいたくせに、皆目つきを変えキビキビと動き出した。

状況がよくわからない佰乃は、征爾の所へ。征爾はあずま家の家紋が入った外套を着た。

「お、お父さん。どうしたの?なんで皆こんなに…――」

「西地区でカラスの目撃情報がたった今入った」

そう云って、征爾は庭を指さす。佰乃は庭を見た。庭は、征爾の式神である黒い人形の様なものがゆらゆら揺れていた。

父の式神だ。

「お前も外套を着ろ」

征爾は持っていた外套を佰乃に渡した。

「佰乃の陰陽師としての初めての出陣だ。引き締めて行けよ」

端的に目的を聞かされ、佰乃は外套を受け取る。

さっきまでの慌てていた目つきはいつの間にか、鋭い冷酷な目つきになり佰乃は外套を羽織った。

カラスの目撃情報ということは、七羽のカラスの入るところだろうか?源郎が云っていた妖怪だ。やっぱり、ただのカラスじゃ無くて妖怪だったんだ。

佰乃は辺りを見た。

何処にも舞子の姿が無い。彼女は彼女で目撃情報の話を聞いて、動いたのか。若しくは、天人の所に行ったのか。どっちにしろ、今日はハルがいない。ハルは今病院で定期検査を受けている。西地区で会うとしたら、天人と舞子ちゃんか。

佰乃は考えるのをやめて、兄の後について行った。






お父さんとお兄ちゃん、後他の陰陽師さん達と目的の場所へ着いた。

そこには、確かに七羽のカラスがいた。姿、形も全く異なるカラス達が七羽、いた。

「ああ……マジかよ」とお父さんは感嘆の声を出す。

私もゴクンと唾を飲む。それもその筈。

陰陽師が来たことをいち早く察したカラス達は、私たちが到着するなり巨大化した。そんなのアリかよって思うけれど、妖怪ならば結局なんでもオールオッケーなんだ。

しかしこちらとて圧巻させられるだけじゃ無い。

カラスが変形できることを知った。要は、中流・上流階級の妖怪だと云うことだ。まだ細かくは判断できないけれど、きっと三級よりも上。

「……全く。この町には灸尾の封印が解けて以来、中流とかがうじゃうじゃいるなぁ……」

征爾は愚痴を漏らした。

「まあまあ、征爾さん。そんなこと言わないで頑張りましょう。それもこの町の平和を守るためですから」

「わかってるよ」と征爾は云って、懐から一枚の札を出す。結界用の札だ。

結界の札を地面に置く。そこから演習場に結界は広がる。結界の範囲はその人の呪力次第である。征爾の場合、半端ない呪力を持ち備えているので自由にコントロールできるし、今は被害を最大限に抑える為、範囲は縮小している。半径六メートルといったところだ。

「後ろに回って囲え」

指示を出し、陰陽師達は配置につく。東家は封印を主に行うので、連帯的な動きが重要になってくる。七羽のカラス達は暴れているけれど、陰陽師達が周り囲った。其の隙に佰乃は襲われていた女性を結界の隅に誘導し、避難させた。

初出陣んだとはいったが、今のこのフォーメーションの何処にも自分の居場所はないだろう。

佰乃は、女性に怪我が無いか確認する。もし少しでも妖怪の瘴気に触れていたら祓わなければならない。其のくらいのことはできると踏んだ佰乃は祓いの札を取り出す。

「怪我はありませんか?何処か具合が悪いところとか……」

すると、さっき迄、ぼーっとしていた女性はキッと佰乃を睨む。

「何も無いわよ!何なのよコレ!私、急いで彼の元に行かなくちゃいけないんだけど!」

いきなり逆ギレする女性に佰乃は戸惑う。

こう云うことはよくある。

この町で育って、いくら陰陽師とか妖怪の存在を聞かされ知っていたとしても、実際に妖怪に会う確率は少ない。妖怪は基本夜行性なため、陰陽師の仕事は主に夜中に行われる。人々が就寝した時間帯が双方の活動時間なのだが、今となっては昼間に動く妖怪達も珍しくは無いという。それも源郎が関係あるのか否かは定かでは無いが。

佰乃はとりあえず、女性に落ち着いてもらう様、声のトーンを下げる。

結界内で感情の起伏が激しくなればなるほど妖怪はその人の魂を狙うのだ。

「落ち着いてください。私たちは陰陽師です。貴方を助けにきました」

教科書通りにいう。

しかし、女性は佰乃の肩を強く掴んで爪を立てた。

「助けに来たとか、そんなの知らないわよ!早くここから出して!私は彼の元へ行かなければならないの!」

「お、落ち着いてく……いたっ!」

女性の爪が衣服の上から肌に突き刺さり、引っ掻かれた。

「あっ!」

そして、一瞬手を離した好きに女性は走り出した。

其方は危ない!今、お父さん達が対処してるところ―――!

佰乃は足元に力を入れ、一気に駆け出した。半妖の力を用いて、彼女の体を思いっきり突き飛ばす。

それから、突然。

私の目の前がシャットアウトされた。

瞼の裏には何も残像が残らず、プツリと意識が途切れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る