弐,質実剛健–佰乃–

第1話 東家(1)



初めに、私の家族関係から皆に説明しようと思う。と云うのも、我が家は少し複雑で登場人物が多いので、軽く、サクッと、サクサクっと、紹介しよう。

先ず、私の父、東征爾あずませいじ

南高校の教師で、陰陽道授業を担当しており、一つ上の学年、二年B組の担任である。お父さんは数年前、祖父から東家当主の座を受け継ぎ、現状東家の当主は征爾である。但し、東家はこの靁封町が本拠地ではない。

東家は石川県に本家がある。其の為、当主は二人いる。

お父さんの征爾と、石川にいる東家の当主。

前にも述べたが、西の岡山を拠点にしている陰陽師一家は別にいて、地域で別々に存在している。


御三家の一つは、青森に。

一つは、石川に。

そしてもう一つは岡山に。


まあ、私の知る限りではそれぞれあまり仲が良くないので、交流は会合の時や、合同修行の時しか無い。

お父さんには四人の子供がいる。

一番年上の、六幻ろくげんは私の兄であり、現在二十三歳。父の跡を継ぐのはきっと兄だろう。既に数々の実績をあげており、各地から遠征を頼まれることは多々ある。

二十三歳にして大学院に通っており学業と並行して妖怪退治をしている。私との仲はあまり良くない。私が一方的に好いてないのだ。

何故って?

聞かないで。話すと面倒だから。

そして私の姉、破月はづきは二十歳の女子大生だ。

姉は生まれつき体が強くなかったので陰陽師になることはできなかった。その身に呪力も霊力も感じられない、所謂一般人として生まれた。

陰陽師の血を引く者の家系としては稀に生まれてくる存在。

姉は陰陽師としての仕事が出来ないので、せめて関われる様に医者を目指して日々学業に励んでいる。去年、一浪を経て、都内の医大に合格。今は都内で寮生活しているので実家に帰ってくる時は大体長期休みの時だ。前回帰ってきたのが夏休みだったので次は冬休みだろう。

そして、末っ子の私とハル。

私はお父さんの血を継いで、陰陽師としての素質をもって生まれた。

『儀式』は本来、夏休みに行われるはずだったんだけど、あんなことがあったから、御三家の会合に話を持ってかれ、無期限延期になっていた。けれど漸く日程が決まって私も正式に陰陽師として、一人前の舞台に立たされることを許された。まあ、其の前に源郎から依頼をもらって妖怪退治の仕事をしていたけど、其の事は秘密なんだろう。


そしてハル。

彼は七歳の時に家に来た。

本家の方にいたそうなんだけど、家が靁封町に引っ越してくるタイミングで養子として引き取られ、お父さんの子になった。

ハルの第一印象?

何よ、みんな。そんなにハルの事が気になる?私の番だって云うのに。まあいいけどさ。

ハルの第一印象ねぇ………。

まあ、ハルは右足が義足でしょう?だから始めは、かなりギクシャクしてたわ。私も七歳だったし、どうやって接すればいいかわからなかったからね。でも、色々あって、ハルも私に対して打ち解けてくれる様になってきて、今じゃベッタリ。

彼奴、結構美形だから一緒に歩いてるとすごく見られるのよね。自覚して欲しいわ。

ハルは家に引き取られたけど、陰陽師の事には何一つ触れずに育ってきたの。言い方悪いけど、素質どうこうの問題じゃなくて、血を継いでいないからね。

「佰乃」

父に呼ばれ佰乃は二階の廊下から一階を覗いた。

「なに?」

父は学校から帰ってきたばかりでスーツを着ている。もうすっかり寒いので長袖だ。

「儀式は明日になるけれど、体調とか問題はない?もし具合とか悪くなったらすぐに云うんだよ」

「はいはーい。おやすみ、お父さん」

「おやすみ」

学校はまだあるし、明日の学校が終わった後――最後のテストが終わった後に、行うだろう。

私は自室へ戻る前に、ハルの部屋の前で声をかけた。

「ハル。起きてる?」

「……んん〜…、何ぃ、佰乃ォ」

目を擦ってハルは部屋から出てきた。見たところ、寝ていたのか、寝付くところだったのか。茶髪の前髪は目にかかって、後ろは少し跳ねていた。

私は其の髪に優しく触れて云う。

「髪、伸びたね」

「…う〜ん」

「そろそろ切る?邪魔でしょう?」

「…う〜ん」

こりゃあ、だめだ。完全に寝ぼけてる。

佰乃は軽く息をはいた。

「……眠いィ」

そう云って、ハルは私よりもはるかに大きい身長の体重を私によりかけた。

「ちょ、ちょっとハル。眠いなら態々出て来なくてもよかったのに……」

「だって、佰乃が呼んでるからさァ……」

ハルは頭だけ動かして、上目使いで私の事を見た。

「佰乃が呼んでたら、ハルは何処迄も行くよ……?」

「う………。もう……、わかったから、其の重たい頭を退けて」

私は強引にハルを自分から引き剥がした。

ハルは「あうぅ……」と云って、自室へ引戻る。

本当は、話がしたかったが、この様子だと出来そうもない。また明日にするか……。

そう思い、踵を返した時、ハルが手首を掴んだ。振り返る。

「…話が、あったんじゃ無いの?」

髪の隙間からこちらを覗く瞳が私を捉える。

「そうだけどハルこのままじゃ真面目に話なんてできないでしょう。また明日でいいわ」

「ハル、真面目な話できるよ」

私は眉間に眉を寄せて、ハルを見る。ハルはしっかりと其の双眼で佰乃を見ていた。佰乃は察した。恐らく其の様子からして、こちらが云いたい事を理解しているのだろうと。

「ハル……私ね……」

ずっと考えていたことを言おうとした。しかしハルが言葉を重ねる。

「”式神持ち”の事、どうするの?」

「……………」

私は言葉を飲み込む。

「ハルの事、捨てる?」

「そんな事しない!それは絶対に無い!」

私は首を強く横に振った。ハルは私を掴んでいた手を離す。ポケットにしまって、優しく微笑んだ。



嗚呼。

私って何でこんなにも莫迦で愚かなんだろう。

如何して、こんな事にしかならなかったんだろう。

私たちはこんな風になる定めだったのだろうか。

何もしてないのに。ただ生きたかっただけなのに。

小さい頃に犯した小さな罪が、私を蝕む。

ハルと私を永遠に其の名に起こして罰を与え続ける。

ハル、私ね………―――。



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