第8話 復活(2)
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「舞子ちゃんっ‼︎」
舞子の体はいつの間にか灸尾の手に渡り、天人は腕を完全に折っていた。
灸尾のような妖怪共は人間の魂を食事とする。だから早く意識を戻してあげなければならなかったのに!
佰乃は服の内ポケットから紙を取り出した。
(どうにかこれで時間を稼ぐしか)
しかし、
「ちょっと待って」
ハルに止められる。そして強くまっすぐ向いて言った。
「ハルが取り返してくるよ、あの子」
「は⁇何言ってるの。相手は灸尾なの。人間じゃないの」
「でも、佰乃の友達でしょ?幸い、あいつの目にはハルと佰乃は見えていないようだシ」
陰陽師の力をもっている佰乃の周りには自然と特殊な結界が張られている。そのおかげでそばにいるハルも見えていないのだ。しかし、それはただの氷のようなもので一度ヒビが入って仕舞えば簡単に壊れる。
佰乃としては天人も舞子も回収して強い結界を張り直して作戦を立てようと思ったのだが時間が間に合わなかった。
「今ここで佰乃の姿を見られるのはやばいんじゃなイ?そしたら、残る選択肢はハルしかいないでしょ。ハルは弱いかもしれないけど佰乃ぐらい守れるもン」
「ハル、待ってッ‼︎」
佰乃が止める間もなく、ハルは走り出した。
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「全っ然、足りてねェ。お前、そんな速度じゃ千年おせェっつてンだよォ‼︎」
激痛に眩むハルの意識に割り込むように、灸尾の手から次から次へと下される。胸を打つ衝撃が、肺の中から全ての酸素を吐き出させる。
「がっ、はッ‼︎」
地面を転がるハルへの攻撃は止まらない。
(止めて‼︎お願い……もう、やめて……)
何かに縋りたいと思った。
誰かに助けて欲しいと思った。今の私じゃ……。
お願い、誰か来て…………ッ。
そして、佰乃の想いが通じたのか、
「あぁ?」
本日二回目、灸尾は顔を歪ませてこっちを見る。
「なんてことだ………。まさか、こんな……」
やっと、パパとお兄が到着した。
「パパ……お兄…」
涙が出た、勝手に。
征爾と六幻はあたりを見渡して状況把握をする。
門の下で意識朦朧としている男の子と佰乃のそばで意識を失っている女の子。灸尾の足元にいるハルはボコボコにされて僅かながら意識を保っている。
もう、それだけで十分だった。
十分灸尾を殺す要素は揃っていた。
しかし灸尾は新たにきた陰陽師たちの姿を見ても相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべて自信満々に空を見上げる。
「あららぁ、皆様お揃いで!」
それからギラリと佰乃を見た。
「てめえぇは結界で見えなかったが今ははっきり見えるぜ。匂いがぷんぷんするからなァ!くっくく、ほら、喜こべっ。とっておきのショーを用意したゼ‼︎」
(何をするつもり、なの?)
征爾は警戒を緩めずに灸尾に向かって言う。
「……ハル坊から離れろ……。その子は貴様などが触れていい子じゃない……」
しかし、灸尾は愉しむかのように口角を上げて言う。
「へェ、こいつがか?」
狂笑。
所詮人の命。灸尾にとってはどうってことないんだ。人は世の中にうじゃうじゃいるのだから。灸尾は足を高く上げると、ハルの右足を思いっきり踏みつける。
「うっ………」
ハルの体が小さく跳ね上がり、同時にガシャンという鉄の擦れる音がした。
「さァてそれじゃ敗者復活戦の問題です」
灸尾はあざ笑うように、
「俺様の脚力でこのガラクタを潰したらどうなるでしょうか?正解者には安らかな痛みを♪」
言った瞬間、灸尾の笑いをかき消す勢いでハルの悲鳴が各々の耳に響き渡った。
「くっくくくくくくくあっはははあっはははははははッ‼︎」
壊れたように笑う灸尾が、覆い被さる闇のように見える。引き裂いたような笑みが視界いっぱいに広がった。
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天人は思った。誰もが思った。
これが世界の終わりなのかと。
こんなにも呆気なく、世界は、この町は滅んでしまうのか?
無力で何もできない自分が憎たらしい。世の中の全てを知っているかのようにのうのうと生きてきた自分が、恥ずかしい。
だけど、だからといって終わらせていいものではない。俺は諦めが悪い男なのだ。そこだけは自分の長所として胸を張って言える。無力だからこそ、抗うのだ。
視界が歪んでいる、何が起きているのかわからない。
けれど、そのときの天人は無我夢中で空中に浮遊する何かを掴んだ……――。
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「六幻‼︎もう時間がない。強制的に対妖怪結界を張り直して、封印呪術を行うっ!」
「パパッ!」と佰乃の叫びはもはや聞こえてなく、自分がこの町を守ると誓ったあの日から覚悟していた征爾は振り返らなかった。
六幻は防御結界を張りながら、その目に涙を浮かべ口を噛み締める。
それでも、ギリギリまでなんとか葛藤し、
「六幻ッ‼︎」
尊敬する父の声を聞き想いを、振り払う。
灸尾は片眉をあげた。
(ケッ、対妖怪結界で俺様を封じ込めてから、封印呪術だァ?よく考えたもんじゃねェか、陰陽師よぉ。でも、なぁ?甘いんだよ、考えが!)
灸尾は、己の体から何やら四つの光る玉を出した。光玉は空中を浮遊し、まるで、人の魂のようである。
目を細める征爾と六幻に優しく言う。
「第二問目ェ。これらは俺様の魂でェす。これが飛んでいったらァ、どうなるでしょうか?正解者には、」
「永遠の破滅をッ‼︎」
そして東家一行は見たこともない景色を見ることとなる。
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