第7話 復活(1)

       一



なんなんだ、ありゃぁ……。

初めて見る人間のようで人間じゃ無い生き物。

車に轢かれる前は硬直して体が動かないというのはまさにこのことだと実感した。直感的にこいつは危険だと分かるのに体が――指の先まで冷え切って動かない。同時に今まで否定し続けていた自分の何かが破られた気がした。

あれが、灸尾………。

訳のわからない爆風に巻き込まれてから、舞子はずっと気を失ったままだ。

「くっくく、久しいなァっ、外に出るのはッ!こんなに簡単だったのか、くくく、笑えてくるぜッ‼︎人間どもめ、つまらない時間に、この俺様を巻き込みやがってッ‼︎あれから幾つ時代は巡った?幾つの四季が過ぎた?思う存分暴れてやぜ。………………って、ん?」

灸尾は口を止めた。そしてギラリと目玉をうごかす。

なんか一人で喋っていたのにいきなりこっちを向かないで欲しい。ガチで心臓が止まるかと思う。

額にある三つ目の眼は閉じているけど、それでも分かる。

こいつはやばい。

「おい、お前」

「は、はいっ!」

(って、何返事しているんだよ俺。馬鹿か)

それでも仕方がない。自分より強そうな奴にはどうしても従ってしまうのが人の性分だ。

「丁度良い。喰ってやる」

「はい……………………………………………………はい?」

喰って、やる?

そんなのダメに決まっているだろう。くれって言われて「はい、どうぞ」と言うほど俺も人間を捨ててはいない。

しかし、人間である天人に、得体の知れないそいつに抗う術はなかった。問に答えることもできず、真っ先に感じたのは己の体に起きている――現在進行形で起きている変化だった。

「⁇」

舞子を抱えていたはずの右腕が音も無く、ありえない方向に曲がった。

痛みは後からやってくる。

?????????????????・・

声にならない悲鳴が全身に響き渡った。

痛い。痛いけれど、痛いのたった一言じゃまとまらない。

勝手に折れた右腕を庇ってでも舞子を抱えようとするけれど、


「オメエに用はねぇ」


背中に強い衝撃が当たり、体が前のめりになって倒れた。

「ぐはっ!」

訳のわからない力でぶっ飛ばされた天人は背中を神社の門の柱に強く打った。

(やべぇ……痺れて動かねぇ……)

揺れる視界の向こう側で、舞子の体が灸尾の手に渡って行くのが見えた。

「最初の食事が十六歳のガキか。悪くねえーな」

しょくじ?

「ふざけるなぁ‼︎」


刹那、


天人の視界の横を誰かが猛スピードで駆け抜けた。

天人が見たのはその誰かの残像だった。正確に言うならば、走ったのを「みた」のではなく「しった」のだ。

「………あぁ?」

灸尾の表情が僅かながら揺らいだ。


休憩の腕の中には既に舞子の姿はなく、まるで元からそこにあったかのように佰乃のそばにいた。そして、佰乃のそばには見たこともないくらいの美少年が立っていた。

歳は天人と同じくらいか、それより上か。いや下かもしれない。外見からは判断できないような容姿と顔を持つ男だ。

真っ白い――この季節には珍しい長袖のパーカーを着ていて、唯一見える首筋ラインは透き通るほど白い肌を持ち合わせていた。顔も白い。ある程度伸びた前髪は微妙に目にかかり、後ろ髪は低い位置で軽く縛られていた。それもあって一瞬女子にも見えたが体の骨格や角ばってる部分的に男子であるとわかった。

「で、この子誰?」

舞子のことを助けておいて当の本人は舞子の名前を知らない。

(佰乃の友達か?でも、ここにいるっていうことは陰陽師の人?)

勝手に脳内推理を始めた天人だが、すぐに絶たれる。

「!」舞子を助けた子は本能的に感じた危機に振り返ったがもう遅かった。

咄嗟に両腕で顔を庇った瞬間、ドン‼︎という鈍い轟音と共に、あまりの衝撃にその子の足が地面からふらりと離れる。と思った瞬間、体が勢いよく真横へと吹き飛ばされた。ゴロゴロと転がるその子の体は、何メートルも吹き飛ばされてようやく止まることができた。

「ハルっ‼︎」と佰乃が言った。

「……おせぇなァ」


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