第3話 始まり(2)
一
明日から夏休み。
大半の学生は東京の都心に遊びにいくことが目に見えている中、真剣な科学の実験カリキュラムが、一年B組には組まされていた。
都心は電車一本乗れば着くところだ。いくら遊んでも夕方には帰ってこられる。
しかし日々学業に追われる南高校の学生にとって都心に遊びに行くことは、もはや「明日地球が終わるのか⁈だったら都心に行って遊ぶだけ遊んでから死のうじゃないか‼︎」というほど、大きな目標みたいになっている。
南高校は誰もが入れるようなレベルの高校だが、学校に入学してから卒業するまで、学業についていくのはどの学校よりも厳しい。故に転校していく人や留年する人が多い。
天人はボケェーと、実験の順序を説明する教師の話を聞きグラウンドを見ていた。
グラウンドでは上級生らしき人たちがサッカーをして愉しんでいた。
あーあ、俺もどうせならサッカーとかしたかったなあ、なんで、夏休み入る前日にこんな実験しなくちゃならないんだよ、なんて思いながら。
「ちょっと、ちょっと」
誰かが肘を突いてきた。
隣に座るのは、幼稚園の頃からの幼馴染の神ノ条舞子だ。
「ンなんだよ」
舞子はこそこそと真面目な顔をして言う。
「東佰乃ちゃんってさ、あの東さんの家の子だよね?」
舞子が指さす方向にはこれまたボケェーとしている女子生徒の姿があった。
眠たいのか体調が悪いのかわからないが、ずっと首の後ろをさすっていた。
「あぁ、そうだと思うけど。………何?もしかして、あいつに話しかける気?」
舞子は頷いた。
「ちょっと確認したいことがあって」
まじかよ。
この天人の”まじかよ”は、東佰乃に対してではない。
このトラブルメーカーの神ノ条舞子に言っているのだ。
「お前さ、東さんところに嫌われているんだろ?よく、話しかけにいく勇気なんてあるよなぁ」
「う……。やっぱり私、嫌われている?」
「まぁ、そう見えるけど」
ズーンと舞子を取り巻くオーラが暗くなる。
「……いいんだもん。それでも聞きたいことがあるし」
聞きたいことってなんだよ、全く……。
深いため息をついた天人の耳へ、中年の女性の声が入ってくる。
「はーい、じゃぁみなさんグループ作って実験開始してくださーい」
さっきまでの説明はいつの間にか終わっていた。先生の掛け声と同時に皆動き出す。
しまった、全く話聞いてなかった。……適当にグループに入るか……。
そう思っていると案の定、天人の肩を強くどっつく奴がやってきた。
「よ、天人。俺らのグループに来いよ。どーせ話聞いてなかったんだろ?」
こちらも小学校の頃からの幼なじみである
「うっせぇ……」
「でた。天人の可愛くないツンデレ。あのなぁ、お前俺がこのクラスにいなかったらそのツンデレも通用しなんだからな?」
「………」
天人は無言で海都を睨み返した。
席から立ち上がり海都のいるグループに入るため、その場を去ろうとした。
が、左手首を誰かに掴まれる。
言うまでもない、舞子だ。
「……なんすか?」
「うん、どこ行こうとしているの?」
笑顔が痛いって……。
「……どこって、グループに……」
こういう時の俺は究極に弱い。
海都は天人と舞子を交互にみた。
何見ているんだよ。こういう時こそ助けろよ。
天人は心の中で思いながら、海都の言葉を待った。が、海都はため息をつく。
「なぁんだ。そういうことなのかよ。だったら最初から言えよ」
「え、」
「はいはい、俺はお邪魔虫でしたね。夫婦仲良くグループでも作ってろ!」
半ばやりなげに海都は言うと天人の肩から手を退かせて背を向けていってしまった。
「あーくんはここにいて。佰乃さんを連れてきて三人グループ作るから」
「その“あーくん”呼び、そろそろやめろ!」
「あーくん」
「おい」
ニヤニヤ笑って楽しそうな舞子はそのまま佰乃を誘いに行った。
天人はなんだかやるせない気持ちで後頭部を掻いた。
あぁーー、なんつーか。
最悪だ。
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