壱,和衷協同 −天人−
第1話 日常
〈主な登場人物〉
東ハル《アズマハル》……義足の少年。属性『分解』種類『自殺』
神ノ
一
爆音が二時の方向から轟く。天人は思わず足元をよろかせ、地面に手をついた。
程よく切り揃えられた前髪が目にかかって,軽く手でかきあげる。
あの雑な殺り方はきっと、ハルだ。
天人は軽く舌打ちをした。
「……相変わらずムシャクシャやってさぁ……。指示通り動いてくれないと困るんだよ………」
天人は手についた泥をはたき、近くの岩に座り直した。
藤崎天人は、そこら辺にいるような普通の少年だった。少し垂れ下がった目にホリのある目頭、眉は目と正反対にキリッと吊り上がっていて,それが顔全体のバランスを引き締めていた。いつもキュッと閉じられた口元が、今はへの字に下がっている。平均並の身長に体格。
さて、次はどう動こうか。
こちらの手札はまだ全て見せていない。その上、今優勢なのはこちらだ。敵は褪せて体制を崩すだろう。天人達はそこを狙う。
いや、違うな。
“崩すだろう”じゃない。“確実に崩すんだ”
天人は不意に前頭葉から後頭葉へかけて走った鋭い痛みに顔を顰め、頭に手を当てる。
「……時間がやばいな」
早いところ切り上げないと、俺のバックアップもいつまで続くかわからない。いっときの時間も無駄にはできない状況。その為には、あの身勝手野郎をどうにかしなければ。
「佰乃。聞こえるか、佰乃」
『何?聞こえてるわ』
「じゃあ、俺の言いたいこともわかるか?」
『わかってる。ハルを止めろってことでしょう』
流石、佰乃と云ったところであろうか。俺が何も言わずとも言わんとしている事を理解している。彼女のことだから時間を見ながら戦闘をしていたんだろう。感謝しかない。
「わかってるなら手っ取り早い。頼む。彼奴、今回も勝手に通信切りやがって全く協力するつもりがないんだ」
『本当に!私も音波を調整しているんだけど全然掴めないの!』
と、舞子は小言を言った。
舞子のもつ妖力『超感覚』は、人間の持つ五感、あらゆる部位の能力を百倍に倍増させ、人知を超えた力を使用することができる。
わかりやすく決められた言葉で言うと属性は『波』、種類は『超感覚』だ。俺たちの連絡手段である通信は、舞子本人が天人達の脳波に波を調整することで成り立っていた。
しかし、有ろう事かハルは毎回ことごとく通信を切るんだ。事前に作戦会議はしているけど、それ以外の時は全く干渉しない。おかげで、チームワークは滅茶苦茶。
何であんなにも強調性に欠けているのだろうか?
天人は深く溜息をついた。
「…どこでそんな器用な使い方覚えたんだっつーの……」
自分の脳波を調整するなんて、到底できることではない。
天人は痛む頭を抱えて、言った。
「あとどのくらいで終わりそう?こっちはもって五分ぐらいなんだけど」
『五分⁈』
突然舞子が大声を出すので天人はさらに頭痛を感じた。声のトーンを下げてほしいのだが、電話ではないのでこちらで調整はできない。
物が必要なく便利だが、デメリットは相当な物だ。
『何でそんなギリギリになるまで黙ってたわけ⁉︎もっと早く言ってって云ったよね!』
「別に早く言った所で状況は変わらないだろう。それに、こんな痛み大した事無いし。舞子はいちいち大袈裟なんだよ」
『大した事無いわけないでしょ!覚えてないの⁉︎此間、The Hero Of Children(ハーメルンの笛吹男)とやった時、最後あーくん気絶したんだよ⁈あのあと大変だったの、覚えてないの⁉︎』
それはそうだけど………。
「だから、あれはあれで悪かったって云ってるだろう。初めてだったから俺もよくわかんなかったんだ。もうそんな事はしない」
『信じられない!この莫迦天人!くのんちゃん!今すぐ片付けるよ!それでこの糞あーくんを元気坂の上から突き落としてやるんだから!』
……いや、そんな事したら俺は確実に死ぬんだが…………。俺は知らないうちに舞子の逆鱗にでも触れてしまっていたのだろうか。全くの不覚だ。
『わ、分かった。わかったから舞子ちゃん、声のトーン落として……』
最後に苦しそうな佰乃の心からの声を聞いて通信は切れた。
天人は深く溜息をついて、空を見上げる。
木の葉の隙間から見える青空は、すっかり冬の青空になっていた。ジーンズとTシャツ、それに長袖の上着ではもう肌寒くなる季節だなと感じる。
青空と自分の間には佰乃がかけてくれた結界がある。そのお陰で俺は此処に居ても妖怪共には見つからない。仮に作戦の路線が少しズレて、こちらに妖怪共が来たとしても俺を見つける事は出来ないのだ。便利な結界である。
空に向かって手を伸ばすと、空気の層のような物に触れた。これが結界である。触れたところからは水面上に波紋が広がる様に揺れ、軈て何もなかったかのようにクリアな視界になる。
嗚呼、早く退治終わらないかなぁと思いに耽っていた時、前方からガサゴソと草の音がして、天人は顔を下ろした。
其処には、両手いっぱいに山菜を積んだ籠を持った源郎が居た。相変わらず伸びた髪は緩く後ろで括り、腰のあたりまで伸びている。艶のある白髪がわずかに反射した。少し古典的な顔つきは彼の品の良さを演出する。
着ている淡黄檗色の着物と、その上に羽織っている紺色の和装コート。足元はいつからはいているのかわからないほどボロい下駄。着物をプレゼントたら喜ぶのに、何故か下駄だけ素直に受け取らない。
「よお、なァにしてンだ?こんな所で」
やっぱり、源郎には結界は効かないか。
幾度も無く、源郎から姿を消す為に(正確に云うと、依頼を避ける為に)、結界を使用してみたがどれも駄目だったと云う検証結果がある。今回も、天人からは声をかけず、源郎の事をじっと見ていただけなのだが、やはり無駄な抵抗だったみたいだ。
天人は黙る事を諦めて、指で山の方を指す。
「今殺ってるんだ。源郎が依頼した妖怪退治」
「あー、そういえばそうだったなァ」
「つーか、源郎はこんな所で何やってるんだよ?神社にいた方が安全だと思うんだけど」
「え、俺様か?俺様は見ての通り山菜採りに励ンでるンだよ。突男の奴が岡山に戻っちまったからよォ。自炊しなきゃナンねーんだわ。嗚呼、面倒なこったら、しかたねー」
会話の間に口元から覗く八重歯がキラリと光った。髪をかく指先は、爪の先まで細長い。見た目は人間離れしているのに、今はただの人間なんだよな、と天人はつくづく思う。
ここで今から時を四ヶ月ほど遡って今年の夏の話をしよう。
俺達の少し…いや、だいぶ変わった日常はそこから始まったのだ…―――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます