第8話 今

 雪が告白してきた日の夜、メールで愛梨に、学校の放課後に話があると言って約束した。


 そして、約束の日の今日、俺は放課後に告白の返事をする。


 着替えた後、朝ご飯を食べて学校へ行く。


 何事もなく着き教室に入ると、以前あった殺伐とした空気は消えていた。


 自分の席に座り、約束の時まで黙って授業を受ける。


 しかし、今まで以上に落ち着かない。


 落ち着かない理由は、もちろん返事をすることや結果の後のことなど考えてしまうことも一つの理由。


 だがそれ以前に、面と向かって好きとか愛してるとか言ったことがない俺は、悩んでいた。


 告白の返事、振ることはできても自分の気持ちを相手に伝えない。


 それは、これまで告白してきた彼女たちを裏切る行為だ。


 どうしても、それだけは自分で自分を許さないと決めている。


「言葉にするって、想いを伝えるって……」


 ああ、本当に難しい。


 だが、彼女たちの告白を思い出すと、もう答えは出ているようにも思える。


 俺は授業中、何を伝えるかを考え続けた。



 そして昼休みになり、食堂にある購買へ、メロンパンを買いに行こうとする。


 席から立ち上がろうとすると、愛梨の声が俺を呼ぶ。


「ご、ごめん! 大きな声だして」


 愛梨の声で、ご飯を食べているクラスメイトの視線を集めてしまう。


「て、手作り弁当! お前の分もあるから、たた食べてほしい!」


 愛梨の声により、クラスメイトはざわついた。


「嫁?」

「嫁か」

「しーっ! 見守るって決めたでしょ!」


 そんな声がチラホラと、教室内を飛び交う。


「あのベンチで座って食べるか」

「え?」

「一緒に、食べるんだろ?」

「あ、ああ!」


 嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女とともに、外のベンチに移動し腰掛ける。


「すごいな、どれも美味しそうだ」


 弁当の中身を見せてくれると、おにぎりにだし巻き卵、レタスを敷いて上には唐揚げが3つ、プチトマトが2つと彩りが良く、ちゃんと野菜が取れる弁当になっている。


「じゃあ、貰っていいか?」

「あ、ああ」


 愛梨の近い視線を浴びながら、まずはおにぎりからいただき、その次に唐揚げとレタスと順々に食べていく。


「凄く美味しかった! ありがとな!」


 嘘偽りのない感想を述べる。


 特に気に入ったのは、唐揚げとだし巻き卵だ。


 唐揚げは油少なめでヘルシーな仕上がりになっていて、甘辛い味付けによりパンチの効いた味に仕上がっている。


 だし巻き卵は、箸で手に取らなくても分かるほどふわふわで口にした瞬間、味が口の中一杯に広がり溶けていく。


「そ、そうか! なら良かった!」


 本当に、食べてくれて嬉しいと笑顔で伝わる。


 こんな顔もするんだなと、愛梨のことが知れてこちらも嬉しくなり、笑顔になる。


 そのまま楽しい時間を過ごし、俺たちは食べ終えた後、昼休みが終わるため教室へと戻るのだった。


 そこから時間は進み、授業は考え事をしている間に終わった。


 約束の放課後、教室内にいる俺たち二人以外、全員いなくなったか確認してから本題へと入る。


「残ってくれて、ありがとう」

「約束したし、それに……あたしのことでしょ?」

「ああ、告白の返事についてだ」


 愛梨は、それを聞くのが怖いのか、緊張した様子を見せる。


 本当に分かりやすい。


 それ故に、裏表が無いのが分かる。


 俺にはないものだった。


 愛梨と綾野が教室内で言い合っていた日を思い出す。


 あれは、言い合いを収めた後、二限目の授業が終わった休み時間の時だ。


 愛梨が相談を持ちかけてきた。


「あのさ、ちょっといいか?」

「愛梨、どうしたんだ?」

「実は、綾野のことなんだけど、守ってくれないか?」


 あの時、先に危険性を指摘してきたのは、愛梨だったんだ。


「何かしら恨みのある奴だったら、私か綾野のどちらかだと思う。他の人は、そこまで深い内容じゃなかったし、カモフラージュのために散りばめられた言葉もあったんだと思う」

「そうだな……。ごめんな、考えが足りなかった。そういえば、何で綾野だけなんだ? お前は守らなくていいってことか?」

「ああ、大丈夫。さっきまで喧嘩してたけどさ、悪いやつじゃないのは知ってるしな。友達を失いたくない。それだけだ。それに、もし私が狙われても二人に危害が及ぶこともないし……な」


 本当にどこまでも優しく、友達想い。


 そんな彼女だから、俺は……。


 今を見つめる、お互いに向き合い、緊張が走る。


 愛梨も告白するときは、こんな感じだったはずだ。


 いや、初めに踏み切った彼女のほうが、告白するのが怖かったはずだ。


 拒絶されるかもしれない、辛い言葉を言われるかもしれない、関係も今までのように続かないかもしれない。


 そんな不安を抱え込みやすい彼女が、気持ちを伝えてくれたんだ。


 なら俺は、その想いを繋いで伝えないといけない。


「お前はあたしのもの、だったか?」


 あのときの告白を思い出しながら話す。


「え? あ、ああ!」 


 俺は、まだ来ぬ返事に震える逆波愛梨に告げる。


「逆だ愛梨、好きだ。俺のものになってほしい。彼女になってくれ」


 どう伝えたらいいか、最初は分からなかった。


 だが、難しい言葉なんていらない。


 好きという言葉と想いを乗せるのが大事なんだと、今までの告白で気付かされた。


 愛梨に向かって手をのばす。


 先延ばしにされていた想いが、相手に届いて繋がる。


「本当に……あたしで、いいのか?」


 まだ彼女も信じられず、呆けながらも話す。


「ああ、お前が……愛梨がいい」


 はっきりと伝える。


「あたし、面倒くさいよ。それに、男勝りでがさつだし、こうやって……ずぐ涙ごらえぎれないじ!」


 何回でも伝える。


「それでも、愛梨が好きだ」


 夕日の輝きが、教室の窓から溢れ輝き、俺たちを祝福する。


 今日この時、俺と愛梨の恋は結ばれた。


 そして……。


「写真撮っていいか? どうしても撮りたいんだ」

「ど、どう撮る?」

「隣に来てくれ、もっとこっちに寄ってくれると助かる」


 頬を染めながら、彼女は従って隣に並ぶ。


 そして、携帯を使いシャッターを押した。


「どうだ? 俺はいいと思うんだが」

「あたしも、いいと思う。涙目なのは、恥ずかしいけど……。でも、何で急に? あたしは嬉しいけど、なんか意外だな」 


 愛梨の言葉に、俺は素直に答えた。


「友人からな、写真が入れられるペンダントを貰ったんだ。だから、大切な思い出をこれに入れたくて……な。いいかな?」

「いいな……。あたしも欲しいんだけど、空いてる日ある?」

「空いてる日はあるが……。買うときは、赤にしてくれないか? これは本当に大切なものだからな」

「ふ〜ん、分かった。赤似合うかな?」

「ああ、俺は嘘は言わない。とても似合うと思う」 


 綾野から貰った想いから、俺は逃げない。


 だから、これからの思い出を沢山、このペンダントに詰めようと思う。


 幸せな姿を形作ることが、彼女たちの想いを裏切らないものだと信じて。

















































































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたの心を離さないヤンデレなあの子たち 歩く屍 @fb25hii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ