第7話 過去
俺は、ベッドの上で仰向けに寝ていた。
天井を見上げながら、昨日の告白を思い出す。
だした答えに、後悔はない。
でも、気にするなというのは無理な話だった。
デパートの最上階で告白した彼女は、確かに変わった夢を持っていたが、それでも一人の女の子だ。
秘密の共有にどれだけ勇気が必要だったか、告白にどれだけの想いが込められていたか。
本人にしか分からないが、彼女は自分なりに覚悟して望んだ。
もしかしたらこのくれたペンダントも、ありえた未来の写真を入れるためのものだったのかもしれない。
「振ったやつが何いってんだか……」
だけど、長引かせることがいいことだとは思えなかった。
想い、待ち続けさせることが、どれだけ残酷なことか……。
それは、俺が一番分かっていることだから。
昨日のことを振り返りながら時が過ぎ、チャイムの音が鳴る。
体を起こして、玄関へ行く。
「どちら様、ですか……」
「わ……し、で……」
声が小さくて分からない。
となると、もう大体誰が来たか分ってしまう。
「雪じゃないか、どうした突然」
俺の家には小さい頃来たことがあるので、来るのは不思議じゃなかったが、約束は何もしていない。
「ヨウ君に……会いたくて」
小さな声の言葉は、俺の耳元に届いた。
「そ、そうか……。あがってくれ」
なぜか、表情に変化はないように見えるのに、焦っているような感じがするのはなぜだろうか。
とりあえずリビングに案内し、ソファーに一緒に座る。
「そういえば、あの時はありがとな」
「なんのこと?」
「妹がやろうとしてること、教えてくれただろ? 雪のおかげで、二人を助けることができた」
二人とは、綾野と愛梨のことだ。
妹によれば、画鋲を仕込んだ両手で握手し脅した後、あの二人を俺に近づかせないようにしようとしたらしい。
俺に好意を抱く人をターゲットにしていたと聞いて、綾野がなぜ狙われたのか最初は分からなかったが、昨日の告白を受けそのままの意味だったことに今更気がつく。
ともあれ、雪がいなければ危なかったことは事実だろう。
「だから、ありがとな」
雪に感謝を伝えると、いつものように俺の耳元で話す。
「私は……。好きな人を取られたくなかっただけだよ」
返された言葉に、俺はなぜか妙に冷静だった。
「驚かないよね。三人から告白されたんだもんね……」
なぜそのことを知っているのか、それは再開したときのことを思い出し、ストーキングされ写真も撮られていたかもしれないと予想する。
「知ってるのはって、もう予想ついてるって顔してる。はい、これ」
観念したかのように、雪が目の前のテーブルに写真を並べる。
「やっぱりな」
「って言ってるけど、さっき気づいたんだよね」
「ばれてたか」
思考を読まれている。
流石、小学生の頃からズッ友の雪さんですね。
でも、ストーキング&盗撮は友達として本当にやめてほしい。
それを本人に言えない俺は、雪に甘すぎると自分でも思う。
「で、告白の返事だけど……」
俺はそれに対して発言しようとするが、雪に止められる。
「分かってる。私を選んではくれないんだよね?」
「何で分かったんだ?」
「分かるよ。ヨウ君のことなら何でも」
「それはそれで怖いんだが」
ここまで話ていると流石に気づく。
「何で声張れるのに、耳元で話す必要があったんだ?」
そう、途中から耳元で話さなくても、会話が成立していたことに俺は気づいた。
雪は、頬を赤くして話す。
「ヨウ君の誰よりも、近くにいたかったから。私が、休んでいた分を取り返したかったから。誰よりも私だけを見ていると思いたかったから。私だけを……愛して……ほしかったから……」
雪は、途中から涙を溢しながら、想いを俺に伝えてくれた。
「覚えてる? 私の声を褒めてくれたのは、ヨウ君なんだよ。だから……だから……」
そう、だから俺の耳元で、話していたんだろう。
ずっと、ずっと、彼女の声が俺の耳に残るように。
「だから……」
雪の目から涙が落ち続ける。
だが俺は、彼女が言葉にするのを待ち続けた。
「だから……ヨウ君のことが、好きでした! ずっと言葉にしたがった! ずっとヨウ君の隣にいたかった!」
俺は彼女を抱きしめ、昔していたように頭を撫でる。
「ありがとな、すごく嬉しい。でもごめんな、俺には好きな人がいるんだ。今の自分を好きって言ってくれて、感情豊かで、友達想いで、そのくせ不安をメールや電話で伝えてくる。つまらない一日を充実させてくれる。そんな、愛梨が好きなんだ」
何で雪じゃないのか、それはなんとなくだが、雪は過去の甘野養助が好きなんだろうと思ったから。
いつでもどこでも守ってくれた甘野養助。
結局守り抜くことはできなかったが、それでも色濃く残っているものがあるだろう。
雪は、もう一人で歩きだせる。
それは今、高校に通えていることが、何よりも証拠になるだろう。
だから、愛梨を選んだ。
涙を拭った雪は、俺の服の袖を掴む。
「じゃあ、ずっと……一緒にいてくれる?」
同じ言葉だが、表情とこちらに向けてくる目は、さっきまでのものとは違った。
ここで俺は、彼女の言っていることの意味を理解する。
「ああ、ずっと一緒だ」
言葉を返すと、雪は無理やり笑顔を作る。
「分かった……。いつか、吹っ切るから……。それまで、待っていてほしい」
「ああ、いつまでも待つよ。だって俺は、お前の友達だからな」
その言葉を聞いて安心したのか、それ以上言葉を交わさず、雪の言葉通り待つことにしたのだった。
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