第5話 交差
俺たち三人は、犯人が分かるまでの間だけ、放課後一緒に帰ることになった。
付き添って歩くだけでも、牽制になるだろうと考えてのことだ。
「私のために、悪いな」
「いや、二人が心配なだけさ。そっちを送ったら愛梨も送るよ」
初めは家が近い綾野から送ることにした。
綾野が先導し、俺たちは後からついていく。
「でも、何であんなことを犯人がしたんだろうな」
「それは俺も分からない」
犯人がクラス内にいる可能性のほうが高いが、他の人の悪口や秘密が明らかになっているのが分からない。
誰がやったのかを分からなくするためのカモフラージュなのは分かる。
だが、他の人だけが明らかに被害が少ない。
もっと狙うターゲットと同じぐらいの情報をだせばよかったのにあえてそうしなかったのはなぜか。
それと、見た限りじゃネットの相談室からの情報しか活用してないようだ。
「これじゃ、狙ってる奴を指しているようなもんだな」
しかし、どちらを狙っているのか分からないのが一番の問題だ。
一人だけなら近くで睨みを効かせることはできるかもしれない。
でも、二人狙われている場合だと、守りきれない部分が後にでてくる。
「明日、先生に相談してみるか。今日のことはもう伝えてあるけど、問題が続いてしまった時に助けられないからな」
「そうだな……」
迷惑をかけていると思ったのか、愛梨が悲しげな顔をする。
綾野も気にしている様子を見せる。
「言っただろ? 犯人は綾野でもないし愛梨でもない。別のやつがやったことだ。それに、俺は迷惑なんて思ってない。困っているやつがいたら助ける。それだけだ」
二人とも頷き、安心した表情を見せる。
そんな中、誰かがこちらの方に来ていた。
真っ直ぐに、こちらへと歩く音が近づいてくる。
警戒を強めたが、来たのは俺の妹の糖香だった。
警戒を解く。
「安心してくれ、俺の妹の糖香だ」
皆に紹介すると、彼女たちも少し警戒を解いてくれたようだ。
「妹いたんだね。あたしは逆波愛梨、よろしく甘野さ……いや、糖香ちゃん」
「きやすく呼ぶな」
愛梨も自己紹介したのは聞こえたが、糖香の小さい声は、挨拶を交わした本人も聞こえてないようだ。
「さっき何か言った? 糖香ちゃん」
「え? 何にも言ってないですよ?」
おかしいな〜と、頭を掻きながら愛梨は不思議がる。
「んで私は、綾野未咲ね。よろしく糖香ちゃん」
「キモいから喋んな」
また似たような幻聴が糖香から聞こえる。
しかし、綾野も同じく糖香に確認するが、気のせいだったようだ。
「では改めて、甘野糖香といいます。お兄ちゃんの妹です。よろしくお願いします!」
妹は両手を一回、スカートの両ポケットの中へいれ、両手を拭いてから握手を二人に求める。
すると、なぜか愛梨と綾野の表情が強張りだす。
握手に妙な緊張感が走り、握手を二人がしようとした、その時だった。
カメラの音のようなものが聞こえ、俺よりも糖香が早くに周囲を確認する。
すると物陰から、白井雪の姿が現れる。
手に携帯を持ちこちらに向けていることから、さっき写真を撮っていたのは雪だと分かる。
「雪、どうしてこんなところに?」
話しているのは伝わるが、声が届かないため、俺から動く。
すると、なぜか糖香が焦りの表情に変わる。
そんな妹を一先ずおいて、俺は雪に近づき耳を近づける。
「犯人は、ヨウ君の妹」
「え、それって……」
「証拠、とは呼べないかもしれないけど。これを見て」
俺に向けて写真を見せてくる。
見た瞬間、さっき撮った写真だと分かる。
それをよく見ると、握手しようとしていた両手には画鋲が仕込まれていた。
「おい、糖香……。これはどういうことだ……。説明しろよ。説明しろよ、説明しろよ!」
疑いたくない想いが絡み合い、画鋲を手のひらから落とす妹を見る。
「ち、違うよお兄ちゃん! その女たちが悪いの! 皆で私を虐めようと結託して……。だから、私は悪くない! お兄ちゃんが好きなの! 愛してるのにっ! 何で……何でそんな女たちを庇うの!」
俺は嘘を付く妹に怒り、後半からの妹の理由に笑い、迷惑をかけてしまった彼女たちを見た。
そして、妹の姿をもう一度見る。
「ね、ねぇ! お兄ちゃんは小さい頃からずっと一緒にいてくれたよね! 私がいじめられてた時も、助けてくれたよね! お母さんたちの帰りが遅いときも、泣いてたとき慰めて優しくしてくれたよね! そんなお兄ちゃんが好きなの!」
近づいて、妹は俺を抱きしめる。
糖香は、耳元で呟いた。
「お兄ちゃん、愛してる。どんなときも一緒にいてくれた、お兄ちゃんが……」
俺はそんな妹の告白に返事する。
「知ってたよ……。この前休んだ日、あんだけ耳元で言われたらな」
話を続けた。
「正直、そんなふうに思ってくれてたなんて思ってなかった。だから、嬉しかったよ……」
話すのが苦しく、唇を噛んで血が出る。
「だ、だったら!」
「だから!」
妹の声より大きな声で張り上げる。
「俺はお前のために、拒絶する」
冷たい声の兄からの言葉が効いたのか、糖香は足から崩れ落ちる。
俺は抜け殻となった妹を抱えて、彼女たちと別れ帰るのであった。
帰った後、妹を自分の部屋へ放り投げ、母さんたちに話した。
夜には、愛梨や綾野から怖かったことをメールで伝えられた。
また目が充血しながら、次の日学校へ行き、昼休みに雪と話した。
すると、また真実が明らかになる。
小学校と中学校の件に、妹が関わっていた事だ。
あいつは俺を独占しようと動き、雪に自分の手は汚さずけしかけていたらしい。
兄として、もっと気をつけて見ていれば、ここまで被害が出ることもなかっただろう。
雪は俺の妹のせいで、半分以上もの学校生活を台無しにされた。
いつ殴られたりビンタされたりしてもおかしくなかった。
しかし……。
「ヨウ君は謝らなくていい。今度、妹さんが皆に謝る時間を作るんでしょ?」
「あぁ、約束する。絶対連れて行くから」
俺は、彼女と約束をした。
「でも、兄としては妹がしでかしたこととはいえ、何もしないのは後味が悪い。だから、ホワイトヴェールアーモンドチョコミントメロンパンを一緒に食べないか?」
「これ、私に?」
「あぁ、一緒に食べたい。駄目かな?」
「ううん、食べたい。一緒に」
嬉しそうな顔を見て安堵し、仲良く一緒にメロンパンを食べる。
「あ、口元にホワイトチョコついてるぞ」
雪の口についたホワイトチョコを人差し指で取る。
すると突然、その指ごと雪が舐めだした。
「お、い……。何やって!」
「おいひいよ?」
「いや、美味しいかもしれないけど……く、くすぐったい」
指先からゆっくりと指の付け根まで、舌を使い舐め回す。
舐め終わると、頬を赤く染めながら、「ご馳走さま」と俺の耳元で囁やく。
その後、お互いほんのり耳元を赤く染め沈黙が続き、お昼ご飯を終える。
「大好きだよ、ヨウ君」
ただ、最後の言葉は、強い風によって俺の耳元まで届くことはなかったのだった。
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