第2話 依存

 あの後、雪は恥ずかしそうにしながら、落ちた写真を素早く拾い、教室へと帰っていった。


 踏み込んで聞こうとしたが、怖くなり喉まででかかった所で止め、俺も教室へと戻った。


 そして今は放課後、日直の仕事をしている。


「おい、早くしろよ! 帰るのが遅くなるだろ!」

「何で今日はそんなに機嫌が悪いんだよ!」

「うっせぇな! お前、には……関係ないだろ!」


 日直の当番は、俺と逆波愛梨さかなみあいりだ。 


 見たまんま、今日は機嫌が悪いらしい。


 何か悪いことをしてしまったのかと不安になるが、高校に入ってからはいつも一緒で仲がよく、男勝りで情に熱い一面を持つ。


「こっちはもう終わったぞ。次は何をって、おいどうしたんだよ!」


 なぜかいきなり泣き始めた。 


 さっきまで強気で怒っていたからか、戸惑いを隠せない。


 この短いやり取りの中で、何があったのか聞く。


「な、んで……。一緒に、昼ご飯たべてくれなかったんだよ……」

「は?」

「昼休みの時、一緒にだべだがったのに〜!」

「え、え〜。そんなこと?」

「うっせぇな! 一緒に食べたかったんだよ! なのに、勝手にどっかに行きやがって〜!」


 こんな様子の愛梨を俺は初めて見た。

 

 何でこんなことになったのか分からないが、どうやらお昼休みに一緒にご飯が食べられなかったことが原因らしい。


 約束とかもしてなかったため、たまにはのんびり一人で食べようと雪と会ったあのベンチで食事をしていたのだが、誘おうとしてタイミングを逃したのだろうか。


 泣き止まない彼女の頭を撫でる。


 だんだん落ち着いてきたのか、涙が次第に止まった。


「ご、ごめん。恥ずかしくて隠してたんだけどな。あたし、感情が漏れやすくて、抑えがきかなくときあるから。い、今はこっち見ないでくれよな」


 本当に恥ずかしそうに、顔を隠しながら涙を拭う。


 そんな愛梨を見て、笑顔が溢れる。


「な、なに笑ってんだよ!」

「あ、いやごめ、可愛いと思って、てあ!」


 突然怒られ、思わず口に出してしまった。


 もうすでに、クラスメイトは帰っているため安堵する。


 俺の言葉に、愛梨は更に顔を赤くする。


 沈黙が続き、気まずくなった俺は先程のことに話題を変える。


「そ、そういえばさ! な、なんでそんなに俺と……ご飯食べたかったんだ?」


 涙を拭き終わったのか、こちらに顔を赤くし、なぜか口元を手で隠しながらこちらを向く。


「て、手作りのべ、弁当をさ……。食べてほしかったんだよ! 前に、料理下手だから作って欲しいって……冗談交じりに言ってただろ!」


 愛梨の話を聞き、確かにそんな話をしたような気がする。


「そうだったんだな。でも、言ってくれれば一緒に食べたのに、なんで言ってくれなかったんだ?」

「そ、そんなの……。お、お前のことが……。って、言えるわけねえだろうがよ!」


 重いストレートが俺の腹部に当たる。


 めっちゃ痛い。


「そ、そういえばさ……。お前、あの子は何だったんだよ」

「あの子?」

「ほら、ベンチで一緒に食べてただろ? ご飯」


 最初は何のことか分からなかったが、昼休みにご飯を一緒に食べていた雪のことを言っているのだろう。


「友達だよ」

「そ、そうか。そうか! なんだよ早く言えよな!」


 次は、笑顔になって嬉しそうにしている。


 正直、わけがわからなかった。


 すると、もじもじしながら愛梨は、こちらに近づいて俺の耳元で話す。


「お前の隣は、あたしだけなんだからな」


 いつも元気で届かない声なんて無かったが、耳元で聞こえた愛梨の声は、とても小さかった。


「え、なんて……」

「……。だ、だから……。あ〜、もう!」


 再び、今度はいつもより優しく言葉が耳元に届く。


「お前は、あたしのものだってこと」


 そのはっきりと聞こえた言葉に、動揺する。  


 先程のストレートの拳のように、俺の心に変化が起きる。


「ぜ、絶対に離れてなんか、やんないんだからな! 絶対だぞ、絶対!」


 愛梨からの気持ちになんて答えたらいいか、分からない。


 すると、困った顔をする俺を察してか、愛梨は嬉しそうな顔をして言う。


「へ、返事は整理がついてからでいいからさ。だから、その代わりってわけじゃないけど……。不安なとき、夜にメールか電話してもいいか?」

「えっ、あ、あぁ」


 放課後にいきなり告白してくるとは思わず、ボーッとしながらも返事する。


「もう日直の仕事も終わってるし、帰ったら、電話すすするからな! じゃ、また後で!」


 改めて、告白したことが恥ずかしくなったのか、走って逃げるように愛梨は家へと帰っていった。


 俺はというと、耳を赤くしながらも、何度もあの時の彼女を思い出しながら、ゆっくりと歩いて帰る。


 夜に計75件ものメールと真夜中から5時間もの通話地獄が待っているとも知らずに……。







 



















































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