あなたの心を離さないヤンデレなあの子たち
歩く屍
第1話 独占
「とな……い?」
彼女は突然、ベンチに座る俺に話しかけてきた。
異様な雰囲気を纏っており、ボソボソと小さな声のためか、何を言っているのか分からない。
「ごめん、もう一度言ってくれないか。声が聞こえなくて」
すると彼女は、手振りで耳を貸してと伝えてくる。
俺はそれに従って、彼女の方へと耳を傾けた。
耳元で囁く。
「と、隣に座っていい?」
今度はちゃんと聞こえ、「いいですよ」と明るく微笑みながら答える。
きっと、人と話すのが苦手なのだろうと予想する。
隣に座った女子は、背が低くて目に余裕でかかる程に長い黒髪、そして触ったら雪みたいに冷たそうな白い柔肌が確認できる。
別に隣に座らせたことに意味はない。
なぜなら、彼女のことを全く見たことがないし知らないから。
隣に座りたいというから、座らせただけである。
今は昼休み、俺と同じで教室の席を奪われて、ここへお昼ご飯を食べに来ただけだろう。
しかし、何も持っていないような気がするのは気のせいだろうか。
見るからに、持参している弁当もなければ、菓子パンなどの食べられるものを手に持っていない。
だから俺は、もうご飯は済ませたのだろうと考えて、自分が購買で買ってきたホワイトヴェールアーモンドチョコミントメロンパンを食べる。
この本格的なメロンの風味を味わいながら、溶けた甘々なホワイトチョコのヴェールに包まれたカリッと音のするアーモンドという最高に贅沢な組み合わせ。
そして、なんと言っても最後に絶対にいらないと思ってしまうミントの味。
甘党な俺が、一度だけは食べてみたかった究極のメロンパンだ。
それを横目で、顔を赤くしながらチラチラ見てくる女子が一人。
「えっと……。何かな?」
彼女は、また耳を貸してとジェスチャーで伝え、それに従い俺は耳をまた傾ける。
「ヨウ君の大きいそれ、食べたい」
耳元で囁かれた言葉を解釈すると、このメロンパンを食べたいということらしい。
それなら、購買で自分のを買えばいいのではと思い、そのまま伝える。
すると、また耳元で囁いてくる。
「ヨウ君の、その大きくて硬いのがいい」
ツッコミはしないが、さっきから誤解を招く言い方をしているのは気のせいかな? それともわざとかな?
まぁ、一旦そのことはよそに置いておくことにする。
なぜ俺のがいいのか分からないが、とりあえずこのメロンパンが美味しそうと思ってくれたということで、半分にして分けて渡そうとする。
しかし、ここまでの流れでおかしかった点に遅れて気づく。
「そういえば、何で俺の名前を知ってるんだ? 初対面だよな?」
半分にしたパンを渡そうとしながら話す。
するとまた、耳を彼女の方へ向けて話を聞く。
「知ってる。ヨウ君のことなら、全部知ってる。ずっと、ずっと前から知ってる」
彼女は話しながら、俺が半分にしたメロンパンの方、ではなく口をつけた方を取られる。
顔を赤くしながら、口をつけた所から彼女はゆっくりと大事そうに食べている。
「……。ずっと前から? う〜ん?」
記憶にある出来事を片っ端から思い出していく。
そして、何とか思い出した。
「もしかして、
「うん、そうだよ! やっぱり覚えててくれた!」
いきなり聞こえるくらいの声量で話だし、こちらもびっくりする。
白い肌や長く黒い髪が最初はコンプレックスで、よくいじめの標的にされていた。
小学校の時とはいったが、中学も一緒だった。
なぜ小学校の時だけしか覚えていないのかというと、中学1年の時に雪が不登校になってしまったためである。
理由は恐らく、同じ小学校だった奴らからのいじめが原因だろう。
小学校の時とは違い、クラスが離れていたし、様子を見に行った時も「大丈夫だから」と話すだけだった。
「中学の時は、小学生だった時のように守れなくてごめんな。もう気づいたときには、その……」
守ってあげられなかったことを謝ると、また耳元で囁く。
「ありがとう。会えなかった分、これからはずっと一緒にいようね。約束だよ?」
自宅に引きこもってしまった雪が高校に通えるのは、知っている人がどこにもいないからだろう。
しかし、登校するのにも勇気がいるはずだ。
きっと初めは登校するのが怖かったと思う。
言った通り、彼女は一人で勇気を出したのだ。
「あぁ、約束だ。これから改めてよろしくな」
俺、
雪の異変は、すぐに起こった。
「じゃあ、そろそろ教室に戻ろうか」
お互いに、昼休みの時間が終わるため、一緒に教室へと帰ろうとする。
すると、雪が何もないところで転んでしまった。
あの頃もよく転けていたなと、優しい目をして微笑みながら、「大丈夫か?」と言って手をのばす。
すると、彼女の周りに何枚か写真のようなものが地面にばらまかれる。
それは殆ど、俺の写っている写真だった。
何度も言うが、雪と会ったのは今日が初めてだ。
同じ高校一年生だが、クラスが違う。
廊下を歩いても、雪のような生徒を見たことがなかったことから、クラスが離れていることが分かる。
しかしこれは、明らかに会う前から撮られていたものだった。
その証拠に、入学式の時の俺が写っている写真がある。
更には、なぜか俺の友達である女子の写真まで……。
恐る恐る雪を見ると、不気味な笑顔を覗かせた。
これが、後悔する序章にすぎないことを、まだ俺は理解できないでいるのだった。
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