第5話 先輩転生者(2)
こうして俺はモブ1号に……と思っていたのだが。
「それじゃあまずは、この街の案内も兼ねて少し歩こうか」
「あ、うん」
「君は
「俺はマコっていう……ここからうんと東にある村から来て……」
行き先が決まったことで〈
歩きながら改めて街を見ると、やっぱり映画のセットみたいにきれいな街だ。突飛なものはないけれど、街中にゴミは落ちていないし、行き交う通行人もまばらで街全体が静かだ。……街の規模の割に静かすぎて違和感すらある。
「なあ、パルティトゥーラってどれくらい人が住んでるんだ?移動に何日もかかる広い街なのにこんなに人がいないっておかしくないか?」
「ええと……確か、全体で500万人くらいかな」
「多っ。それにしては静かすぎないか?」
「ああ、うん。今は労働時間だからね」
「労働時間……?」
「パルティトゥーラは昼の刻……えーと、元の世界でいう朝10時から夕方4時までの6時間は労働を義務付けられているんだ。だから皆基本的に職場にいて、街中にいるのは僕らみたいな外で働いている人と、休暇中の人くらいかな。病気や怪我で働けない……労働免除になった人もいるけど、そういう人たちはこの時間はあまり出歩かないし」
「へー……」
「この世界のことについて説明したほうがいいかい?」
「頼む。いや、道中で療法士の人にもちょっと聞いたんだけどさ、そもそも剣と魔法のファンタジー世界じゃないってことを確認するのがやっとで」
「うーん、じゃあ、基本的なところから」
ハルトはまず時間について説明してくれた。
一日は24時間。それを朝昼夕夜で4分割して、街の人のだいたいの行動が決まっている。1ヶ月はどの月も30日で、1年はそれが12ヶ月あって計360日。地球の時間とズレが小さいから、地球から来た〈覚醒者〉がもたらした技術もだいたい現代の地球から十数年程度しか違わないらしい。
「つまり、一瞬で違う場所にワープするとか誰でも空を飛べるとかそういうのはないと」
「そうだね。あ、ドローンみたいなものに身体を括り付けて近距離飛行する技術はあるみたいだよ。移動手段というよりはスポーツの一種みたいだけど」
「あー……なるほど、なんか日本でもそのうち実現できそうなやつだな……。……なら大まかにはだいたい地球と一緒なんだな、ここ」
「そうだね。だいたい同じだと思う。ただ、一つだけこの世界独自に発達した技術があるんだ」
「何だ?」
「生命工学。……平たく言うと、命の生まれ方が地球とは違う」
「例えば?」
「男同士、女同士でも子供が作れる」
「…………マジ?」
「こんなことで嘘はつかないよ」
ハルトは「びっくりだよね」と笑った。……いや、さらっと言ってるけど結構すごいことなんじゃないか?
「え、っと、それってつまり男も……妊娠するってこと?」
「ううん。妊娠という概念自体がないというか……。僕もアマービレ所長から聞いただけだから完全に理解してるとは言えないんだけど、子供を作るには『二人分の遺伝子』と『魂』が必要なんだって。子供が欲しいと思った二人が専門の療法士のところに行って、遺伝子を提供する。そうすると療法士が遺伝子に適合する魂を選んで混ぜ合わせる。それでしばらく待つと子供ができるんだって」
「なんか急にめちゃくちゃSFじゃん。異世界転生の皮被ったSFだったのかこれ……」
「?」
「あ、そうか、記憶ないんだっけ、異世界転生モノって知らないよな……?アニメとか、俺が元の世界に居た頃は結構流行ってたんだけど……」
「……ごめん」
「あああ、いい、謝らなくていい!全然!こんなのただのオタクの趣味だし!!」
それにただの直感だけどハルトは前世もオタクじゃない気がする!
「……アキラ、オタクだったの?」
「…………オタクって単語は知ってるんだ?」
「まあ、うん。自分のことは曖昧だけど、文化とか、歴史とか、そういうのは覚えてるから……」
「……ち、ちなみに、引く?」
「オタクだから?……ううん。そんなことはないよ」
「よかったー……」
「アキラは素直でいい人そうだから。きっと仲良くできると思うよ」
「…………ッ」
――眩しい!
なんだこの爽やかスマイル……!俺が女だったら少女漫画の世界で一発K.O.だぞこんなの……!!
「……?どうかしたの?」
「い、いや、なんでも……」
お前の顔が良すぎて目が潰れるかと思った、とか言っても絶対伝わらない。そんなのオタク同士の誇張表現だからな……。
「そ、それより、えーと、そうだ。今歩いてるのってパトロール、なんだよな?」
「うん。……と言ってもこの時間は本当に人が少ないから。事件らしい事件なんて3日に1回あるかどうかってところだよ」
「平和すぎる……」
「平和が一番だよ。それとも、もう少し刺激的なほうが好き?」
ハルトの問いに俺は両腕を組んで考える。
「うーん、どうだろ……。前の人生が結構平凡だったから、異世界でちょっと冒険とかできるかなって考えてたけど……」
「冒険かあ……難しいかも。考古学や地学の知識があれば遺跡発掘とか地質調査の仕事に従事できるんだけどね」
「無理!一介の高校生にそんなのあるわけない……」
「……高校生?」
ハルトが足を止めた。俺も慌てて止まる。
「え、……うん。それがどうかしたか……?」
「あ、ううん。僕と歳が近そうだなって勝手に思ってただけ」
「この身体は21歳らしいから、そんなに外れてないんじゃないか?ハルトは今いくつ?」
「…………」
「ハルト?」
「あ、ごめん。僕は24歳だよ。それならやっぱり近いんだね」
「3つ上かー……ん?いや、精神的には6つ上?なら結構大人なんだな。敬語とか使うべき?」
「ううん、今まで通り普通に話してくれて構わないよ。僕はそういうの気にしないから……」
「よかったー。俺実は敬語って苦手でさー」
ほっと息を吐くとハルトは何がおかしかったのかくすくすと笑った。
……モブ1号になるかと思ってたけど、そうでもないようだ。この王子様みたいな転生者は俺みたいなのにも親切だし、いきなりヤバいものが飛び出てきて死ぬことはなさそうだし、ジャンルはSF?っぽいけど研究所とか近づかなければたぶん大丈夫そうだし、そう考えるともしかしたら異世界おまわりさんスローライフ生活になるんじゃないかな……あっ、もしかしてバディものか!?刑事ドラマみたいな……。
「……アキラ、ちょっとこっちに」
「?」
「そろそろ昼の刻が終わるから……」
そういえばいつの間にか陽が傾いている。もうそんなに歩いてたのか。というか、ハルトがいつの間にか建物と建物の間、路地裏に向かっている。そんなところに一体何を、と思った瞬間。
――ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン……。
「――――!」
大音量で鐘の音が鳴った。
うるさっ、と叫んだつもりが、自分の声すら聞こえなかった。ハルトが何かを言っている。何、と問い返そうとしたら、通りにある建物という建物すべてのドアが一斉に開いた。
「え」
そしてたくさんの、数えるのも無理なくらいの、大量の人、人、人。それらが次から次へと通りに出て一直線に俺の居る方へと……!
「わわわわっ!?」
「アキラ!!」
――まるで花火大会か朝の山手線のホーム。そんな勢いで、俺はあっという間に人混みに流されてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます