「吸血鬼」

まず吸血鬼になった時、気付いたのは陽の光が苦手になったことだ。

もともと僕は外に出ることが苦手であったため、特にそれが吸血鬼になったからだとは思わなかったが、陽の光に当たると自分の肌が火傷したかのように爛れてしまう。

あとは犬歯が鋭くなった...ような気がする程度だ。


まだ自分は吸血鬼になって2年目なのでまだまだ知らないところはあるのかもしれない。


よくその手の物語で語られるのは吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になってしまうという公式だ。まるで病気のようだ。なので僕は吸血鬼に感染したということにする。


これらの特徴に自覚的になったのは、去年の秋あたりからだ。

それまで僕は吸血鬼になったことさえ気付いていなかった。


そしてそれは慣れない社会人生活に疲れ始めた時分、一日だけ休みを取った日のことだ。


一日中家に引きこもるのも気持ちが落ち着かないので、

乾いた風が吹く秋空の下、用事もないのに公園に行った。


マフラーを忘れた首元は少し寒く、震えていると風に転がる落ち葉に笑われた気がした。

自動販売機を見つけホットココアを買う。乱暴にココアが落ちてくる音がする。


それを拾ってベンチに座る。少しひんやりとしている。

両手で缶をさすって暖を取っていると、隣のベンチに子どもが座っているのが見えた。


平日の昼下がり、その子どもがいるには似つかわしくない時間帯であった。


たまには童心へかえってブランコに乗ろうと思い、ブランコに座った瞬間、尻に激痛が走った。自分が思うよりも自分の体は成長していて、座る部分のサイズに合っていなかったのだ。思いがけず体をぶら下がる鎖に挟まれ、一人で情けない声を出してしまった。

手放してしまったココアが転がる。


慌てて拾おうとして前かがみになり、そのまま転んでしまった。

自分はこんなに運動神経が悪かったのかと思いながら、目の前に手を着いた。そうしたら無意識のうちに体が持ち上がり、前方倒立回転の姿勢をとってしまった。


頭から地面に落ちてしまう姿を想像し、本格的にこれから自分の体に起きる怪我を予期する。

しかしいつまで経ってもそれは起きず、体は一回転し着地に成功していた。

よく分からないまま、たまたま上手くいったのだろうと結論づけあらためてココアを見やると細かな砂まみれでとても飲めそうになかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――随時、更新

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