魔法少女・朝宮光

4話 捕捉

 病院や学校にはカモが多い、と悪魔は言った。


 関係者でも無い人間が何のしがらみも無く侵入出来るのは前者だと判断し、都内最大級の病院を狩り場とした。


 想像してなかった訳では無いが、やはり病院には少女と呼べる年代の人間が少ない。


 大きな病院に入院しているくらいだから大病を患っている者の割合が増えるのは当然で、患うリスクは老いと共に上がっていく。


 しかし、逆に考えればこんな大きな病院に入院している若者は並みの病気や怪我ではないとも言える。


 学校が質よりも量で解決する狩場とするなら病院は量より質を重視した狩場なのだろう。


 病院に着くなり、俺はエントランスで右往左往していた。


 病室での面会は親族や友人でなくては通してくれないだろうから、どこで獲物を探すべきか迷っているのだ。


 気が付けば周りの人間達から不審な視線を集めていた。


 警備員を呼ばれても困る。


 俺はとにかく人目を避けられる場所を求めた。


 中庭には心地の好い日差しが射していた。


 ベンチもあるし自動販売機も設置されていたから丁度良かった。


 これからどう動くかは後で考えるとして、まずはベンチで休もう。


 何分俺は人前に出るのは得意ではない。


 女性と一対一で視線を交わすのは好きだが、不特定多数の視線を一方的に浴びるのは不快感を覚える性質なのだ。


 レモンティーを飲みながら中庭を眺めていると一つ分かった事がある。


 ここは数少ない入院中の少年少女達の憩いの場だという事だ。


 ボールを蹴って遊んでいる男の子が居た。


 健康じゃねえか。


 看護師に車椅子を押してもらって散歩をしている女の子も居た。


 可哀そうに。


 少年少女を眺めていてふと思う。


 俺はこの子達の身体を治してあげられるのだ。


 その事実から来る優越感が何とも堪らない。


 快感すら覚える。


 とはいえ男の子は例外だ。


 魔法少女は文字通り女の子だけが素質を持つのだ。


 悪魔は何故そこに男女の格差を設けてしまったのだろう。


 男の子だって奇跡を望む事もあるだろうに。


 いや、逆か。


 素質が無いからこそ幸せなのか。


 何せ魔法少女として戦わせられる使命を背負わずに済むし悪魔に食われもしない。


 そりゃ百分の一の価値として食われちまう可能性はあるが、それは女の子だって同じだ。


 やはり女の子の方が悪魔に食われるリスクが高いじゃないか。


 さては悪魔の王様はゲイだな。


 可愛らしい下等種族の雄を守り、興味の無い雌を食糧とするのだ。


 何というか、その自分勝手な判断がどうも、


「きもちわり」


「大丈夫ですか? 看護師さん呼びましょうか?」


「あ?」


 思わず口に出ていたらしい。


 しかもそれをこのお日様のような笑顔が眩しい小学生高学年から中学生くらいの少女に聞かれてしまった。


 大学生男子として普通に恥ずかしい。


 更にこの少女から「変な男の人が中庭に居る」と喧伝されるかもしれない。


 それは何としても避けたい事態だ。


 ここは一つ、口封じをしておこう。


「君、喉乾いてない?」


「平気です! さっきお茶をいっぱい飲みました! そんな事よりお兄さんは大丈夫ですか? さっき「きもちわり」って言ってました!」


「大丈夫、体調の話じゃ無いから」


「なら良かったで──こほこほっ」


 少女が突然苦しそうに咳き込み始めた。


 俺はどうする事も出来ず慌てていると看護師が駆け寄ってきた。


 看護師は少女に吸引器をあてがい背中を撫でる。


 やがて少女は正常な呼吸を取り戻すと「すみません、戻らなきゃです」と言って中庭を去った。

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