4話 現世と隠世
今日一番の奇妙なハプニング。
内気過ぎる無言。無音が二人を傷付ける。
進展するのが億劫になるほどの、誰も幸せにならない最悪な状況。もしもこれが夢だというのならば、頭の中を空にして一刻も早く忘れてしまいたい。
他人の感情をさぞ理解したような身振りをして、時と場合にのみ上辺を取り繕う
ついに大勢は決した。
不憫な現世に放たれる口災い。呪いの言葉を投げたのは。
「もしかして、高校デビューに失敗した、冴えない地縛霊ってこと……!?」
「誰が落ちぶれた地縛霊だ」
欺騙が押し通ることも、微妙な雰囲気を是正するつもりもない。
凛とした風格なのに。清楚な素行の癖に見込み違いの大雑把な爆弾発言。初対面に対して掛ける言葉じゃない。
虚を衝かれた。自然と居丈高になる蓮の語気。
直前の赤面は偽装か。
首を傾げた仕草は正体をはぐらかす口実であり、年相応の物腰さえも相手の注意を散漫させる為のカモフラージュだったのか。
油断をした所で他人を邪険に扱い、癪に障る外道の所業。
人を騙す。
まさに狐畜生の如く変幻自在の常套手段。蓮は違和感の証拠を見付けた。
「なんだ、本当に地縛霊じゃなかったんだ……」
「……お前こそ何者だ。大層に化けたつもりなんだろうが、正直に言ってしまえば大雑把過ぎる。この程度で騙される間抜けがいてたまるか」
「うん? それはどういうこと?」
追及しようにも至って他人事みたいに話す少女。
いや、正確には少女の姿をした不気味な存在に違いない。全く会話が成立せず、語る度に意見は衝突を繰り返す。
「君は、何処かで私と出会ったことがあるの? そんな覚えはないんだけど」
「ふざけるのも大概にしろ。人間の皮を被った狐被りが!!」
不意打ちに握り締めた拳を物の怪に向けて振るう。
躊躇なく霞を投げた蓮。
肩掛けの竹刀袋は牽制に必要なダミー。実際に中身は空洞であり機敏に動くには邪魔なアイテムでしかない。威圧的な外見で優劣を目論むものの、佇む相手の奇異なる領域を前にして、世直しは藪蛇になる。
生温い風が頬を掠めて。
伸びる影法師に蓮は身構えた。そして形のない声の痕跡は木祠の向こうに。
「……君、凄いね。私の姿に気付いているんだ」
楽しそうに微笑む、体育座りをした彼女の姿がそこにはあった。
狐花 藤村時雨 @huuren
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