3話 戯れ
苦渋の判断だった。
突如として現れる気配。無防備の背後に迫る違和感の到来。
警戒心を加速させる軽い声音が引き金になって、腰の重心を低くする蓮は爪先に体重を乗せ、刀を水平に寝かせるような動作で身構えた。靴裏を地面に擦る勢いは結局殺せずに変装用の伊達メガネを落としてしまう。
やがて違和感は現実味を帯びてきて、欲していた真実は目の前に現れる。
金色に彩る幻想を蓮は目撃した。
「お前は……」
宵闇に舞い降りた寂光。虹橋市全体を覆う曇天模様を割いた月光。
静かに揺れるロングの金髪は残光を描く。
非現実的な景色をもたらす彼女の容姿。まるで稲荷神社の使いと言わんばかりの狐耳と尻尾はただの飾りではないらしく、現実を切り離した空間にそぐわない言葉を滑らせた途端、彼女の意思のままに両耳はピーンと尖らせる。
物の怪の類いか。
そう考えていたものの、冷静に考えてしまうほど、一驚した口は噤む。
夢がないことに制服姿だった。
しかも蓮が通う虹橋高等学校の制服。自然の興趣を添える着物姿でもなければ、赤と白を基調とした桜田稲荷神社に似合う巫女装束でもない。
光芒に戯れる少女と。
目が合う。
「───」
悪戯に扇ぐ幟旗。漂うのは沈鬱な空気。
予期せぬ訪問者に互いは振り向いた姿勢のまま、硬直は長引いた。
(……ヤバい。どうするべきか。果てしなく困る展開に……)
再び目付きを鋭くする蓮ではあったが、平気そうな顔をしているのに相当の当惑を抱えており、無害そうな彼女の前に虚脱感に襲われる。
対して、不思議そうに「?」と首を傾げては瞬きを繰り返す狐耳の少女。
戒める肩の荷が明後日の方向に。
適当に用心していた自分が馬鹿馬鹿しくなって二の句が継げない。うっかりした反応を見せられて蓮は思わず頭を押さえる始末。一方で今更ナチュラルに驚く狐耳の少女は初めて他人に自分の容姿を晒してしまったのか、全身を探るような仕草をした途端、現実離れした姿に顔を紅潮させていた。
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