第12話
――同志中尉!
『各小隊指揮官へ通達! ただいまより量子転送兵器の使用を許可する! 各隊応戦せよ!』
「応戦しろ! 発砲開始!」
「
『地上部隊各隊、全力射撃!』
エレベーターの壁面及び下部に設けられた銃座。
二十三ミリ連装機関砲が底部へ向けてめいっぱい銃口を下げると、猛烈な勢いで火を噴き始めた。迸る銃火と共に機関部から勢いよく大きな二十三ミリ機関砲弾の空薬きょうが排莢される。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!
大きな発砲音と同時に鋼鉄製の床の上を「カラン! カラン、カランッ!」と甲高い音を立てて空薬きょうが撥ね飛ぶ。
シャフトの上下から交差する目を覆うばかりの無数の銃火の光芒。
微かに伝わって来る振動と同時にその赤錆びた天井から、ぱらぱらと剥がれた落ちた塗料の破片や錆びが一同の頭上に降り注ぐ。
耳を塞ぎながら不安げに周囲を見回す兵士たち。
時折響く至近弾のひと際大きな着弾音の度に皆がその身を縮こまらせ、声にならない悲鳴が漏れる。
(大丈夫か、ペトロヴァ兵長?)
周囲の男たちの中、頭一つ低いペトロヴァ。
ソコロフの問い掛けが聞こえたかどうか疑わしいほどの戦場騒音の中、それでも、少女は彼の顔を見上げて力強く頷いた。
その頬に浮かぶ心なしかぎこちない笑み。
無論、初めての地下での戦闘が怖くない筈がないだろう。
それでも、彼女は自身を震い立たせて微笑んでみせる勇気がある。
(軍曹ゆずりだな……)
ソコロフは、そんな彼女へ小さく頷いてみせると『ラトニク』の部隊戦況図を空中に投影する。
今のところ部隊にそこまで大きな被害はない。
いくつかのエレベーターでは、小隊指揮官がさっそく、量子転送兵器を使用し始めたようだ。
エレベーターは、すでに三十階層に到達しようとしている。
(そろそろ、敵も量子転送兵器を使い始めるだろう)
だが、何とか目標である四十九階層まで兵たちを無事に送り込みある程度の戦果を得たい。ソコロフ達の潜入のためのカモフラージュとは言え、無意味に兵士を死なせたくはないのだ。
と、エレベーターの外壁に「カ、カ、カンッ!」と敵弾が突き刺さり、
同時に、
「弾切――」
銃座で機銃を操作していた兵士のスチールヘルメットの後頭部が弾け飛んで、機銃にしがみ付いたままくず折れるや、すぐ隣にいた給弾手が慌てて死体を引きずり下ろして機銃に取り付き、すぐに銃撃が再開される。
咆哮と絶叫。
悲鳴と怒号。
鉄が、
血が、
互いの肉を、
互いの憎しみを、
全てを飲み込んでシャフトの闇へと吸い込まれていく。
26……27……28――
ソコロフは、祈るような思いでエレベーターのデジタル表示を見つめていた。
と、
『エレベーター三号、指揮官戦死!』
『エレベーター四号、底部に被弾! 底部銃座大破!』
階層が深くなっていくほどに、激しくなる敵の銃火と次々と斃れていく味方の兵士たち。
ズシンッ……ズシンッ……
ソコロフの乗るエレベーターも大きく揺れ始めた。
頭上の二階部分からも兵士たちの悲鳴と下士官たちの怒号が響く。
敵の砲弾がエレベーターの左右に轟音とともに突き刺さり、
「あぁァァッ!」
外壁を貫通した対物狙撃銃の弾丸が兵士たちを将棋倒しになぎ倒して、血まみれの肉塊となった兵士たちが、絶叫と共にエレベーターの床に転がった。
「衛生兵っ! 衛生兵っ!」
「痛ェよぉ……痛ェよぉ……」
「ちくしょう! ちくしょォォォ!」
たまぎる絶叫と充満するうめき声。
激しさを増していくと同時に正確さをも増していく敵の銃砲撃。
着弾の度に、エレベーターが大きく揺れ、床の上を兵士が転がる。
まさに、その時だった。
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