第11話
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「ペトロヴァ兵長、少し落ち着け。一度、深呼吸しろ」
少女は、ソコロフの言葉に素直に従って大きく深呼吸。
柔らかそうなしなやかな体が大きく上下し、形のいい唇が「ほぅ」と息を吐き出す。
「…………」
そして、恥ずかしそうに少し頬を赤らめて見上げて来たその瞳。
父親譲りの、どこか頑なで、それでいてどこまでもまっすぐでやさしげな、澄んだ青い瞳。
(もう、五年経つのか……)
長かったような、短かったような。
否、
これから生きていくには長く、これまで必死で生きていた人間にとっては――
(ほんの一瞬だった)
そして、いま皮肉な事に、
(あのペトロフ軍曹の……)
胸に浮かんだ感慨を打ち消すかのように首をそっと振ると、ソコロフはペトロヴァを促してエレベーターに乗り込み、操作盤の前にいる下士官へ向けて叫んだ。
「降下開始!」
滑り出て来たエレベーターの格子状の扉が、ガシャン、と大きな音を立てて閉じ、同時にゆっくりとエレベーターが降下し始める。
と、
『こちら第四エレベーター指揮官。同志参謀少佐殿? 聞こえますか?』
『第四エレベーター…………?』
『第六八三民生委員会で少佐殿とご一緒させて頂いたアリムラ少尉です。また、同志少佐殿の元で戦えて光栄であります!』
『アリムラ曹長! そうか、少尉になったのか! と、いう事は――』
『お久しゅうございますなぁ、同志参謀少佐殿』
『ホー中尉! 来てくれたのか!』
『へへへ……なぁに、少佐のためならどうって事ありませんやね。まあ、
『同志少佐殿、他にも六八三の死に損ないどもが、少佐殿の元で戦いたいと言って来ております。声を掛けてやって下さい』
『ありがとう、アリムラ少尉。で――因みになんだが……彼らの辞令は出ているのかい?』
『へへへ、少佐殿も野暮なことを聞きなさる。んなもの出てるわけありませんやね』
『……なるほど、六八三のいつものお約束という所かな』
『まあ、そういうことでさぁね』
『『『はっはっはっ!』』』
『地上部隊より、第一七七民生委員会各隊へ。これより援護を開始する』
『アリムラ少尉、ホー中尉、武運を』
『はいっ、少佐殿も』
『へへへ、大船に乗ったつもりでいて下せぇよ、同志少佐殿』
『
『ハ、ハイッ! 同志中尉!』
『今回は、俺とペトロヴァ兵長の二人に担当が増えて大変だと思うが、よろしく頼む。地下の戦闘では、君たちのオペレーションが生死を分ける』
『はいっ! オペレーター四〇七七八五六一、サブオペレーター六〇一三八五四三及び六一七六五七八八ともども全力で同志中尉殿と同志兵長殿をサポートさせて頂きます!』
『あ、あの……オ、オペレーター?』
『はい、ペトロヴァ兵長』
『私は地下での戦闘は初めてですが同志中尉の足を引っ張らないよう全力で戦うつもりです。……その……量子転送には不慣れですが……』
『任せて下さいっ! 一緒に頑張りましょう!』
『ロケット砲中隊及び電磁砲中隊射撃用意!』
――戦闘用意っ!
「各銃座、見張りを厳にせよ!」
「ぼやぼやするな、ウスノロどもっ!」
ソコロフの命令と同時に下士官たちの声が響き、兵隊たちが一斉に両の耳を手で塞ぐ。
と、
頭上から轟き始めた重火器の発砲音。
メッシュ状になったエレベーターののぞき窓越しに見える地下へと雨のように降り注ぐ大量の弾幕。
無数の曳光弾が光の尾を引いて足元の闇へと吸い込まれていく。
……6……7……8……
そんな中、着実に刻まれていく
一同は、無言でドアの左上方にデジタル表示される階層を見つめている。
轟く砲声。
キィキィ……と甲高い音を立てるエレベーターの作動音。
これだけの騒音の中であるにも関わらず、誰かがゴクリと唾を飲み込んだ音がいやにはっきりと耳に付く。エレベーターは、レールを軋ませながら確実に足元の世界へ向けて降下し続けている。
12……13……14……15……
そして、ついに――
「底部より反撃! 反国家分子です!」
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