第13話


(……いまだっ!)


 ソコロフは、量子無線通信の回線をオンにし呼び掛けた。


オペレーターっジェーブシカ!』


『はい! 感度良好です、同志中尉!』


『合図したら量子転送してくれ! 準備はいいか?』


『いつでもどうぞ!』


 ソコロフは、『ラトニク』を射撃モードへ移行すると、


「これより量子転送兵器を使用する! 非常扉を開けろっ!」


「よーしっ、同志中尉殿が反撃するぞ! どけっ! 道を開けろ!」


 兵士たちを掻き分けるようにしてペトロヴァと共にエレベーターのシャフト側、搭乗口の丁度真向かいにある非常用扉へ。

 ペトロヴァと共に扉の前に立つと、


(よく見ているんだ、兵長)


(はいっ!)


 ソコロフの横顔を見上げて彼女が頷く。

 そして、下士官の合図と同時に非常扉が左右にゴロゴロと音を立てながらゆっくりと開き始める。開いた扉の隙間から「ひゅるひゅる」と音を立てて流れ込んで来る生温かい風と扉が開くにつれて徐々に大きくなる耳をつんざくような戦場騒音。

 やがて扉が開ききると、



 ゴオォォ! 



 と、顔に生温かい風が勢いよく吹きつけて来る。

 ペトロヴァが目の前に広がる光景に息を呑むのが聞こえた。

 目の前に広がるのは、シャフトの三十階層付近。

 頭上遥かに小さく見える地上世界の名残の鈍色の空と周囲に広がるシャフトの赤錆びた外壁。そして、眼下に広がる地獄まで続いているのではないかと思えるほどの底知れぬ闇。

 その広大なシャフトを貫くように無数の銃砲弾が、光の尾を引いて撃ちあげられ、また、シャワーのように底面へ向かい降り注いでいる。


(敵は――)


 直径五百メートル。

 深さおよそ千メートル。

 底面に煌めく無数の発砲炎。

 その中に時折交じる青い光は――


(量子転送兵器か!)


 と、


「アアアァァァッ!」


 敵の量子転送兵器の一撃がエレベーターの至近距離に着弾。

 銃座の兵士が数人爆風で吹き飛ばされ、外壁や銃座の破片と共にシャフトの底へと絶叫と共に木の葉のように落ちて行く。

 叩きつけるような爆風を物ともせずソコロフは、底面をじっと見据える。

 相手の量子転送兵器も一つや二つではない。

 敵は、複数目標。

 ならば――


オペレーターッジェーブシカ、転送しろ!』


『了解! 転送します!』


 オペレーターの少女の声と共にソコロフの面前にホログラム照準器が空間投影される。

 赤く輝く十字の照準をシャフトの底部に瞬く複数目標に向けてセット。

 ロック音と同時にソコロフの手にのしかかる様にして空間が青く揺らぎ始める。

 そして――


「ブゥン!」


 オレンジ色に光る球状の高エネルギー体が、ソコロフの目の前、五メートルほどの所に現れた。ソコロフの手の中に握り締められたトリガーとその背中に覆い被さるように甲高い金属音を上げて回転する量子タービン。

 キィィィン、というタービンの音の高まりと共にホログラム照準器の隅に表示されたケージがゆっくりと満ちて行く。

 六十パーセント……七十パーセント……八十パーセント……

 背後の兵士たちが、

 隣に立つペトロヴァが、

 息を殺して一心にソコロフを見つめている。

 撃ち上げられる敵の銃火と交差するように降り注ぐ味方の曳光弾。

 熱を帯びて輝きを増していく眼前の高エネルギー体。

 やがて――充填率百パーセント。

 オペレーターの少女が叫ぶ。


『転送完了、発射準備完了! レベル四――』




 ――メテオリート!




「総員、耳を塞げ!」


 ソコロフは、叫ぶと同時にトリガーを引く。



 発射っ!


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