3、初恋の子

「確か……この辺に彼女は居たはずだ……」


このだだっ広い自然公園は俺が子供の時から中年になっても道は変わっていない。

ところどころ消えた遊具や、増えた休憩所みたいはところはあれど迷いはしない。


『ほら、てじなーにゃ』

『あはは!おとーさん、すごーい!』

『ほら、ゆうたにあげるあめ玉だぞぉ』


聞こえてきた知らない親子の会話に吹き出しそうになる。

あったな、そんなん!

マジでここは何年前なんだよと思いながら、昔にあの子を見付けた場所を探していた。


「えっと……、この石段の近くだったはずだけど……」


朧気にしか覚えていない。

初恋といっても、この日に1度だけ会話をしないで通り過ぎてしまっただけの子だ。

だから、名前も顔も知らない。

ただ、ただ、美しく見えたという初恋補正が働いていただけのような可能性も否定できない。

唯一覚えている手がかりは……。


「あの子だ……」


記憶にある遠い影が重なった。

下を向いてうつむき、困っているような子。

光秀とこの祭り会場を歩いていて、俺が一方的に彼女を見付けて何もしてやれなくて通りすぎただけだった。


この後悔は40歳手前になっても忘れなかったんだから……。

別に今更この子と恋愛をしたいわけじゃない。

ただ、見て見ぬ振りをしてスルーして、モヤモヤをしたくないんだ。






「だ、大丈夫かい?」

「え……?」

「な、なんか困っているのかな?な、なんて……」


やべぇ……。

ここ最近、ブラック企業に務める口うるせぇババア連中としか女性と会話したことないから言葉遣いわかんねぇ……。

しかも、子供ってどんな距離感だっけ!?

光秀ぇ……、中身37の俺だけど、小学生のお前が居ないと子供の接し方がわかんねえよ!


「…………」


やっぱりこの子で間違いない。

右目の下にポツンとある黒子。

俺が彼女の容姿で覚えている唯一の特徴だ。

そして、そんな彼女の顔は……俺のドストライクな容姿であった。

やや癖のありそうな髪質も美しく見える。


「お、お姉ちゃんと……はぐれちゃって……」

「…………な、ならさ。俺も一緒に君のお姉ちゃんを探すよ」

「…………ほ、本当に……?」

「うん、行こう!悲しい顔なんてしないで笑顔になろう!」


俺は、君の笑った顔が見たい。

どうしても、君を思い出す時は悲しい顔しかイメージが出来なかったから……。


「あ、ありがとう……。うん、笑顔になるねっ!」

「っ…………」


うわっ、可愛い……。

なんだよ、俺。

37歳で、小学生の笑顔を見て赤くなるとかロリのコン持ちじゃないか……!

めっちゃ目に焼き付けて、今後の生きる糧にした。


これが労災で死にかけた夢を見ているだけだとしても、これでもう俺に悔いはない。




「あっと……」

「ど、どうかした?」

「わた……、わたしトロくてお兄ちゃんともはぐれると悪いから手を握ってもらって良いかな……?」

「………………はい」

「ありがとう、お兄ちゃん」


お兄ちゃん……!

お兄ちゃんって!?

は、背徳感がやべぇぇぇぇ!


繋がれた手の体温は冷たくて、ドキドキしていた……。

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