第119話 宵の明星
車の運転を握るレイレイと、警視庁のスーパーコンピューターとの一騎打ちとなった。後部座席に座りながらも、デバイスを操作する朱雀は内部通信でレイレイと連携を取り、計画渋滞の状況やそれの回避ルートを算出していった。
「やはり水路への道はどこも閉ざされているな」
窓の外に見える警察の規制線を見た印波がそう呟いた。
「正規ルートはもうどこも壊滅しているよ」
「じゃあどこから向かうんですか。マンホール以外に地下フロントに続く道なんて……」
持永は助手席から振り返った。
「ないことない。ですよね博士」
彦根が印波に顔を向ける。
「ああ、あの道を使う」
「ヒューマノイドには発想できない秘密の道ね」
レイレイがそう言って、ウインクをした。
追跡ヘリは赤いスポーツカーをAR情報から位置情報を固定し、零細の民間通信で警視庁本部のスーパーコンピューターへの伝達を繰り返した。さらに通信会社は五分単位で変更し、リアルタイムで更新を繰り返すというクラッキング対策を行っていた。
その情報からスーパーコンピューターは速度、さらにレイレイの思考バターンからさらなる予測情報を構築していく。だが、またそれを朱雀が察知し、レイレイが新たな回避ルートを算出、といういたちごっこの状態に陥っていた。
これではきりがない。こちらは畳に突き立てられた刀で戦っているようなもの。刃こぼれしては刀を替え、を繰り返している。
赤いスポーツカーを追いかける指揮官車両で足を組みながら、じっと黙っていた東宮のEYEにSCTの各班長から連絡が入る。
「これでは埒が明きません。市街地ですが発砲しますか」
「いや少し待て、どちらにせよ奴らは袋のネズミだ。包囲エリアを少しずつ縮小し、奴らを追い詰めていくんだ」
「囲い込みの継続でよろしいのですよね」
「焦りは禁物だぞ。奴らの動きが完全に止まれば発砲を許可する」
「了解です」
通信をしながら東宮は拳を握り締めた。だがその拳の中は絶望ではない、苛立ちは一時的な直情であり、胸には確固たる自信が秘められていた。
東宮は口元に手を当てながら考えた。もう地下フロントに逃げる隙も無ければ、東京から出ることもできない。完全に赤いスポーツカーは捉えているし、それこそテレポーテーションでもしない限りは逃げ切ることは不可能だ。
そのため、朱雀がいたちごっこで時間稼ぎをしていることがどうにも解せなかった。通信会社を虱潰しにクラッキングしていったところで、回避ルートをいくら算出したところで、終わりが遠のくほか、何の意味もない。
何かこの状況を打破する一手があるとは思えない。この東京という籠の中でいくら逃げ回ったところで、最後には萎む風船のようにその逃亡範囲も消え去るだろう。
奴らは袋のネズミだ。だがこの不安はなんだろう。その胸に落ちた一点の曇りを晴らすように呟いた。
「悪あがきしやがって」
「東宮部長、新たな予測ルートが算出されました」
オペレーターから追跡ヘリを介したスーパーコンピューターからのルート予測と、目的地が報告された。
それは思いもよらぬ場所だった。
「東京自然公園だと……?」
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